海上の怪物
「私に兄が? 嘘よ、全く記憶にないもの」
「でも、シフィーさんの名前を知っていましたわよ?」
「それのそ変だわ――――こんなだから言うけれど、私の名前は咄嗟に自分でつけたもの。そんな名前で私を呼ぶだなんて、間違いなく私の兄じゃあ無いわ」
「それと、魔力がとても似ていましたわ――――それだけなら他人の空似と思うのですが、加えて妹との発言がありしたので」
「へえ…………一度会ってみる必要がありそうね」
「呼びましょうか?」
「出来るの?」
「外でならば、恐らく」
「なら明日試しましょう」
翌朝、シフィーとミリス、念の為護衛にとジュエリーの三人が海月亭を出た。
敵対した場合に備えなるべく海月亭からは離れ、街を出て海上に出る。
それぞれ魔力で足場を固めると、ミリスが上空に向かって魔力を放出。
十秒程続けると、街から巨大な魔力の移動する気配が湧く。
ソレは凄まじい速度で飛来し、突如としてジュエリーの首を掴んで放り投げ。
息を荒立てながら首の骨が折れた姿を眺める。
「ジュエリー・ラフェーリア、何故貴様がここに居るッ!!!」
「出会い頭に物騒じゃわい――――しかし兄と名乗るのがテメェさんだとは、これまた数奇というかなんというかのう。なあ? ジェファーよ」
「俺の名を気安く――――――――?!」
言い終えるより早く、ジュエリーは男、ジェファ―の背後を指さした。
反撃か、嫌がらせか、どれにしろ対処せねばと振り返り――――そして硬直した。
「貴方が私の自称お兄ちゃん?」
「ああ…………ああ、そうだ…………! シフィーよ、俺がお兄ちゃんだ! お兄ちゃんだぞ…………!!!」
歓喜に叫び、腕を開き、ハグの構えで駆けだした。
それを阻止するべく魔力を集めると、シフィーは指さしで狙いを定め魔力形式・2ndと呟き発動。
ジェファーをきつく拘束すると、力いっぱい投げた。
「ちょ、シフィーさん…………!?」
「ごめんなさい、勢いが怖かったわ」
「確かにすごい勢いでしたが…………にしても乱暴でしてよ」
「あれ意外に手はなかったわ――――ねえ、あれ何?」
ジェファーを投げた方角に赤い飛行物体を見つけた。
目を凝らすと、それはシフィーと同じ魔力の翼――――それも他の者には見ない特徴である、赤の魔力だ。
「テメェさんよ、残念じゃかあやつの言う事は真実じゃ――――赤い魔力は一部の血統にのみ現れるもの。他人同士で被ることはまずありえないのじゃ」
帰って来たジェファーはにこやかに、シフィーの目前へと降り立つ。
「さあ、俺をお兄ちゃんと呼んでおくれよ」
「ジェファーさんはどうして私を探していたの?」
「お兄ちゃんと!」
「ジェファーさん」
頑なに呼び方が変わらず、折れたジェファーがため息を溢し――――今度は真面目な表情でシフィーに向き合った。
「兄様がお前を探している。すぐに城に帰るんだ」
「貴方以外にも兄が?」
「ああ、俺達以外は兄様に始末されたが、元々兄弟は十人居た」
「始末って…………不仲なの?」
「王位が今、揺らいでいる」
思いがけないワードが飛び出す。
王といえば最近耳にする機会が多かったなと思いながらジェファーの次の言葉を待つが、なにやら黙ってしまった。
「どうしたの?」
「接触に気づかれた」
空を仰ぐ――――謎の大穴が開き、不気味な魔力が漏れ出している。
瞬間、魔力砲が二人の脳天めがけて降り注いだ。
魔族の中でも取り分け身体スペックが高い二人ではあるが、それでも直撃すれば無事では済まない威力。
にも関わらず、シフィーの防御が整うよりも早くジェファーは最低限の魔力防御すら施さない掌を天に掲げた。
魔力砲が直撃――――だが、ジェファーの掌には僅かな傷すらつかず、それどころか魔力砲を反射していた。
「互いに準備と整わない今やり合ったとて、待っているのは泥試合だろう――――ここは一度見逃せ!」
叫ぶと、魔力砲の止んだ空に開いた謎の大穴よりより一層の魔力が溢れ出す。
誰か一人の魔力ではない――――無限の戦力を思わせる、魔物達の魔力だ。
そしてその奥に、先程より漏れ続けていた不気味な魔力が。
「まあ良いだろう――――だがせっかく穴を開けたのだ、最低限の資格は見せて貰おう」
言うと同時に、海底より三つの影が現れる。
船の天敵クラーケン、海の怪物リヴァイアサン、大海の捕食者白鯨。
どれも一体に対して冠級冒険者のあてがわれる様な災害級の魔物。
一堂に会する事などそうそうない、怪物達の宴が用意されたのだ。
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




