赤髪の不審者
シフィーがまだヘリアルを探してた頃、ミリスは一人街に繰り出していた。
未だ朝早くそれほど人は居らず、普段は混む道を気楽に歩く。
花屋の角を曲がったところで、シフィーと似た魔力を感じた。何
居るのかと急ぎ魔力の気配を辿ると、そこにはシフィーでは無く、一人長身の男が。
コートのフードを深く被っては居るが、屋台の店主に語りかける声が男だ。
フードの中に見える髪は赤く、魔力だけでなくそんな所までも似ているのかとミリスは目を引かれた。
「…………そうか、この金はこちらでは使えないか…………では物々交換…………そうか、それもダメか…………」
「歯がゆいですわね…………おいくらでして?」
「君は…………?」
「ミリスですの。お会計ぐらいでこうもモタモタされてしまいますと、見ていられませんわ」
代わりに会計を済ませると、颯爽とその場を離れようとする――――だが、その後に男が続く。
距離を取ろうと少し早足になっても、撒こうと路地裏に入って壁などを飛び越えようと、振り返ればまだついてきている。
どこまで着いてくる気だとやけになり三十分。
始祖の獣を発動してしまおうかと考え始めた頃、ついに着いてくるだけでなく肩を叩かれた。
「何ですの…………? 迷惑だったならば謝罪しますが、私それ程の事をしましたでしょうか?」
「いや、困っていたので助かった…………なにぶんこの辺りには不慣れでな、何か礼をしたいのだ」
「礼が欲しくてやった事じゃあございませんわ。結構ですの」
「いや、そうだな…………せめて、これだけでも渡させてくれ」
男は首にかけていたペンダントを外しミリスに押し付けると、深くお辞儀をしてからその場を離れようと――――数歩離れた所で、ふと何かを思い出した様に巻き返す。
「一つ、尋ねたいのだが、シフィー・シルルフルという娘を知らないか? 白髪の可愛らしい娘なのだが…………」
「…………申し訳ございませんが、知りませんわね。ご用件が分かれば探す事も出来ますが…………聞いても?」
「…………妹なのだ」
「成程。気に掛けておきますわ」
「助かる。俺は暫くこの街に滞在する予定だ――――何かあったら教えて欲しい」
「ええ、ではまた機会があれば」
表情を殺したままミリスはその場を離れる。
男の視界から外れると、漏れ出す魔力を自分の周囲にとどめたまま始祖の獣を発動し即座にその場を離れ。
海月亭へ戻り、なるべく気配を消し潜む。
シフィーの兄ということが真実だろうと嘘だろうと、相手は魔族の可能性が大きい。
魔族も扱いとしては人、シフィーの様に友好的な者が街に居ることはあるが、その多くは魔界で暮らし他人々と敵対している。
もしあの相手が魔族の中でも強力な個体であり、ミリスに残ったシフィーの魔力を感じ取り、その上でこれまで戦った魔王軍と関係があるとするならば、ミリスに取れる最善はこの状況をなるべく変えずにシフィーの様な強者の帰りを待つ事ぐらい。
結局ミリスはヴィンセントとスピカが帰って来たと同時に手短に状況を伝え、王城よりシフィーが帰る二十時まで潜伏を続け。
シフィーの連れ帰って来たジュエリーを見たヴィンセントは、とても分かりやすく嫌そうな表情をしていた。
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