星界
「え〜つまり、ヘリアルとやらを捕まえようとしてぇの、カイエンに邪魔をされ取り逃がしぃの――――おいテメェさん、謝罪しろ。ヤマト式DOKEZAを見せろよ、今すぐじゃ」
「土下座って…………俺がか?!」
「嫌か? この儂が直々に頭を床に擦りつけてやろうか? え?」
「土下座なんて要らないわジュエリー」
「だとよう、テメェさんの謝罪は受け取りを拒否されたぞ」
「そういう事じゃあないわよ…………!」
王城にて意識を取り戻したシフィ―は、案内された応接間にて
シフィージュエリーカイエンの三名が今日起きた事を纏め、各々の目的を果たそうとする。
自分が意識を失っている間に起きた事の把握、全体の把握、逢魔との再戦――――それらが満たされると、シフィーはまじまじとジュエリーに目線を送る。
「なんじゃ、ラブコールってやつか?」
「じゃなくて、どうして貴女アトランティスに居るのよ」
「儂はどこにでも居るし、どこにも居ない、そういうモンじゃ」
「は…………?」
「は? ってなんじゃ、は? って、適当言ってるわけではないのに、そう怒るな…………仕方ない、ちゃんと説明するかの」
ジュエリーが空に手を翳すと、突然何もなかった空間に扉が現れる。
「ご存知儂の店、白鷺じゃ――――儂の魔法は空間の操作。空間と空間を切り離したり、繋げたり、どっかから違う空間を無理やり持ってきたり。そんな魔法じゃ」
「だから、ミレニアムを出る時に送るか聞いてくれたのね」
「フラれてしまったがのう」
「道中色々見たかったのよ――――おかげで、ヤマトにも行けたしね」
「ほう、ヤマトに入ったか! どうじゃった、あの街は良かろう?」
「ええ…………ただ、こんな物を貰ってしまったわ」
シフィーは霧切を取り出し――――珍しくジュエリーは驚いた表情を見せた。
「蜃の宝刀を手に入れたか!? 確かに素質はあると思っていたが…………いざこうして見ると驚くわい」
「凄いの?」
「儂も無理じゃった」
「凄いの?」
「何故疑問が解消されなんだ!」
「だってあれ強さっていうか資質とか適正の話しでしょう? しかも精神面の。それじゃあジュエリーは、ちょっと…………」
「儂程の善人そうはおらんぞ!」
「内側の物って、本人の自覚とは大きくずれているものよ」
そんな雑談をしていると、突然公務を切り上げたソロモンが遅れて入室――――黙って上座の席に着く。
「さてシフィー、説明せよ――――貴様は何者だ?」
「自己紹介ならしたと思うけれど?」
「誤魔化すか…………では聞き方を変えよう。アレは何だ?」
こうなっては仕方がないと、シフィーは観念。
一度深呼吸をすると、前世の記憶について語り出した。
異世界については隠すものの、何に憧れたか、どんな生き方をして、どんな死に方をしたのか。
それらが自分と重なるのでは無く、本の内容を全部覚えた様な感覚で自分には宿っているのだと語った。
「成程、星界の生存者ってえのはそういうことじゃったか」
「星界って、何…………?」
「余が教えてやろう!」
説明しようとしていたジュエリーに押し勝ってソロモンが快活に言った。
こう何度か見ていると、シフィーもソロモンの性格を理解し始めた――――単純に、先頭に立ちたがる。
戦いでも説明でも誰かの先、或いは上に立ちたいのだ。
「生き物が死ぬと、その魂は星界という場所に送られる――――魂が無限に存在する、つまらん場所だ。星界では魂同士がぶつかり摩耗し、生きて経験した全てをそぎ落とし洗浄する――――そして、無辜となった魂が新たな体に宿り生まれ変わるのだ」
「じゃあ、その生き残りって言うと…………」
「ああ。その洗浄に耐え切り、元の記憶を維持したまま生まれ変わった者の事であろう。それまでの人生で二度程度ではあるが、会った事がある」
「私以外にも同じ様な人がいるの…………?!」
「ああ、既に死んでいるがな。なんせ混血な上にプロトヒューマンであった――――が、皆強かったな」
ソロモンが机を指で叩くと、魔力の塊で作った星々の様なものが浮かび上がる。
その中には魂を模した魔力の筋が漂い、その魔力の星々を渡る。
「星界には魂と、ここを含めた数々の世界が存在する。それ以外は全てが魔力に満たされていて、世界同士の距離を保っている――――洗浄に耐えた魂はその魔力を一部吸収して別の世界へと渡り着く――――貴様の馬鹿げた魔力量は、それが原因だ」
星界――――全ての魂が巡り、洗われる場所。
シフィーはそこがどれだけ寂しく、そして美しい場所なのかと思いを馳せる。
全ての記憶が削ぎ落とされる、魔力の楽園へと。
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