剣の鬼
霧切が認識されないのは火が物を焼き、水が流れるのと同じ物が持つ性質そのもの。
故に、場に満ちる男の魔力に発動を阻害されることも無く、その脅威を発揮し続ける。
「傷なんぞ、いつぶりだァ…………? 気に入った、テメェ名前は何だ?」
「……………………シフィー・シルルフル」
「覚えたぜ――――俺はカイエン。死ぬまででも覚えとけッ!」
シフィーはふと、その名前をどこかで聞いたなと思考する。
だが次の瞬間には迫り来る剣撃への対処に意識を回す――――魔力強化なくとも並外れた肉体本来の防御力を使おうと腕を伸ばすが、寸前でその考えを撤回して腕を戻そうと。
だが一瞬判断が遅れた――――刀だけを見れば、シフィーの肉体を傷つけることなど決してあり得ないナマクラ刀。
しかし、カイエンの荒々しい魔力が刃を研いだ。
魔力は刃を避けた筈のシフィーの腕を裂き、拳から肩までに一本の切り傷を。
小さく舌打ちをしながらも、防御の失敗を悔いる間もなく前蹴りを放つ。
「軽りぃなあ…………いいか、蹴りってえのはこうやんだ」
シフィーの前蹴りは、容易くカイエンの腹筋に受け止められた。
そして転がる小石を蹴るかの様に無造作にカイエンが蹴りを――――出来る限り腕を防御に回し、全力で踏ん張った。
にも関わらず、シフィーは胴体が消し飛んだ様な錯覚に陥っていた。
天井を突き破って地上へと――――景色は上空、着地よりも早く跳んで追いかけて来たカイエンが、鬼の様に嗤いながら刀を振り上げている。
「やっと、出れたわ…………魔力形式・1stッ!」
「あァ?」
室外、しかも上空ともなれば魔力は溜まらず流れ行く――――つまり、シフィーの魔力は妨害されない。
ナイフを作り、迫り来るカイエンへと振るう――――身体強化も行い、タイミングの見極め、胆力、攻撃速度の全てが先程までとは桁違いだ。
「遅せえ、遅せえぞッ!!!」
叫び開始された、自由落下しながらの連撃に防戦一方のシフィ―。
腕一本では攻撃に耐えられないとナイフの他に霧切までも防御に動員――――狙いすました一撃を大きく弾いて二人の間に空間を作り。
一瞬で人差し指にて標準を定める。
「魔力形式・2nd」
周囲に対しての被害を最低限に収めつつ、現状一度に込められる最大の魔力を込めた十三本の鎖――――莫大な魔力は鎖の形に押し込められる事で、鮮血の赤から赤黒く変貌。
シフィ―の背後で改めて狙いを定めると、赤黒い尾を残しながら二人の間を駆け抜けた。
「嘘………………?!」
だからこそ、不意に呟いた――――全ての鎖が各々一撃で叩き落とされ、それにシフィ―があっけにとられた一瞬で刀を投擲。
回避が間に合わずに刀は腹へと突き刺さり、背から刃が飛び出した。
シフィ―の攻防は完全に停止し、自由落下からの着地もままならず、背中から地面に激突――――続く衝撃が、シフィーの意識を薄れさせる。
「技術がねえ割には、戦い方がお利口過ぎだぜ――――気に入ったってのは撤回するぜ。まぁ、退屈凌ぎってとこだ」
遅れて着地したカイエンはつまらなそうに刀を振り下ろす。
狙うは首――――シフィーが終わりを覚悟した瞬間、見知った姿が視界を塞いだ。
老獪、不審、そして神出鬼没――――怪しく楽しそうに嗤う顔は、以前出会った時から何一つ変わらない。
「テメェさんには、まだ早い相手じゃったのお――――息災であったか? シフィー・シルルフルよ」
冠級冒険者、ジュエリー・ラフェーリア。
当然の様にカイエンの一撃を受け流しながら、シフィーへと語りかける。
返答する力もなく、シフィーは意識を失う。
実戦の初敗北はあまりにも呆気なく、唐突に――――屈辱を感じる暇すら与えられなかった。
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