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悪の統治者

 この世界に於いて、己の願望を最も単純に叶える方法は往々にして力である。

 故に冒険者という職業では上位になるにつれ権力を持つものが現れ、その最上位ともなれば貴族でも遜る程。


 その理由は単純―――個が抜きん出ているからだ。


 各々均等に揃え鍛えられた群では対処し切れぬ、圧倒的な個。

 それこそが、この世界にて力に権力の与えられる所以だ。


 そんな暴力の頂点に位置する、所謂冠級冒険者に位置する者達―――その中で最強を決めるとなれば皆口々に己の思う最強を上げ話は切りがつかないが。

 だが、最も暴力的な者を決めようとなれば話は別。


 誰もが口を揃え、一人の男の名を挙げる―――壊し屋、カイエン。


 彼は悪の元に現れる―――そして暴を尽くし、全てを平らにしては悪逆の笑い声を響かせながら消えゆく。

 それが、カイエンという男だ。




 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘




「ねえマスター、昨日は楽しかったわ。ヘリアルに礼をしたいのだけれど居場所を知っているかしら?」


「彼ならばここから遠くないホテルに。ご案内致します」


「いいわ、場所だけ教えてちょうだい」


「これは、出過ぎた真似を。では地図をご用意いたしましょう」



 デート翌日、シフィーは再びバーを訪れるとヘリアルの居場所を尋ね。

 簡単な地図を受け取ると、その通り移動―――向かった際のホテルで魔力感知を使い、ヘリアルの正確な位置を導き出した。


 ホテルに入り、何かあった時様にとヘリアルが情報を共有していたことによって顔パスで関係者用の地下通路を進み。

 暫く行った所に、彼は居た。



「あ? っと、アンタか! よく来てくれたな、歓迎するよ!」


「こないだぶりね。昨日は本当に楽しい時間を過ごせたわ、ありがとう」


「なんて事ねえよ。また何かあったら頼ってくれ」


「そうさせてもらうわ―――ねえ、ここは何なの? 檻があるけれど…………ホテルのパフォーマンス用の動物とかかしら?」


「ああ…………こりゃあ広く出回らねえ話だがな、今日はホテルの劇場を使って裏オークションを開催すんだ。()()は、その商品だな」


「へえ、裏オークション………………」



 フレンドリーなヘリアルではあるが、自己紹介で聞いた限りは裏の纏め役。

 盗品などを扱うのかと思いながら、シフィーは檻にたかった布を一枚捲って覗いた。


 そして次の瞬間、己の認識の甘さに嫌気が指す。


 そこに居たのは、片翼を削がれた鳥の獣人の少年―――何か感想を言う事もなく、他の布も捲り並ぶ数々の檻の中身を除き。

 その全てが、人間である事を確認した。



「どうかしたか?」


「………………魔力を感じなかったわ」


「そりゃあ…………魔力封じの首輪をつけてるからだ。魔法で檻を破壊なんてされちゃたまらねえからな」


「どうして人間がここに…………?」


「何でって、さっきも言っただろ? 今日の商品だよ」


「………………私、貴方を勘違いしていたわ」



 シフィーが魔力を荒立てる。

 それを確認すると、ヘリアルは眉をピクリと動かし近くにあった魔力封じの首輪を手に取り―――床を二度蹴って、近くに待機していた部下を呼び寄せる。



「俺の仕事は、最初に伝えた筈だ」


「ええ、だから勘違いしていたと言ったのよ―――貴方は嘘をついていないし、私を騙そうとしていなかった」


「ならどうしてそうも、殺気立つ?」


「………………この子達が居なくなって、心配する人が居る筈よ」


「全員孤児だ。アイツらに他人を気遣う余裕なんてあるものかよ」


「やっぱり、勘違いしていたわ―――つまらない人」



 それを聞くと、ヘリアルがため息を一つ。

 そして床を小さく蹴った瞬間、部下達が一斉に剣を抜いて刺突を放った。


 シフィーはそれを跳ねて回避―――屋根スレスレの高さより、全員の位置を視野に収める。



魔力形式(マジックフォーム )1st( ファースト)



 部下は八人―――空中に現れた魔力のナイフが蜂の様に飛んで、一斉に首筋を切り裂き。


 もう一本余った分がヘリアルを狙うが、それは魔力封じの首輪に繋がる鎖で防御。

 首輪同様魔力封じの刻印術(エンチャント)が施された鎖に当たり、ナイフは単純だ魔力へと分解され空気に溶け。

 それと同時に鎖の末尾が一節弾けた。



「上等な物を使っているにも関わらず、一撃でコレか…………アンタ、バケモンだな」


「命を守るのが上手なのね」


「はぁ…………なぁ、一度落ち着こうぜ。アンタがこれを気に食わないなら俺はコイツらを解放してやってもいい。アンタと殺し合う方が損がでかいと今判断した。お互い紳士的にやろうぜ」


「その考えがある限り、私と貴方は分かり合えないわ」


「人は分かり合えねえよ。だから擦り合わせるんだ」



 もう一度ため息をこぼしたヘリアルが指を弾く―――すると、捉えられていた人々の首輪に仕込まれていた爆弾が炸裂。

 全ての人々の首を吹き飛ばし、鎖を落とした。



「こうなっらた今回は無理だろうな。だから、次の邪魔を排除する―――色恋は終わりだ」


「思い切りがいいのね、私、貴方のこと嫌いだわ」


「そうかい―――それは、残念だ!」



 次にシフィーは直接ナイフを振い―――だが、それもヘリアルは鎖で防御し、鎖の一節を犠牲としてナイフをただの魔力に分解する。


 アトランティスの早朝―――文字通りの水面下にて、戦いが始まる。

 正義と悪の戦いなどと大それる事はなく、怒りと仕事の戦いが。

読んでくださりありがとうございます!

もし面白いと思ってくださった方は、レビューや感想、ブクマなどもらえると嬉しいです!


(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

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