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ヤマトの空

「汝が、我が王か…………王、王か………………」


「何よ、不服なの? というか私、旅を続けたいから国の統治なんてするつもりないわよ」


 「いや、不服とかでなく、その………………なんせ千年ぶりであるからして、それっぽいセリフというのをだな………………」


「貴方、もしかして随分と愉快な人………っていうか、愉快なドラゴン?」


「愉快とな…………?」


「ええ。前に会ったのは喪中だったからかしら、今の貴方ほど愉快じゃあ無かったわ」


「前に…………? この魔力、エルドラか!」


「何よ、エルドラと知り合いなの?」


「知り合いどころでは無い……………奴とはこの世界の誕生以前、虚空に我ら七体が漂う頃からの仲よ」


「…………そういえば、前に読んだ本で見たわ。世を惑わす獣、蜃。今思い出したわ」



 エルドラ同様、シフィーの住んでいた城に残されていた書物に記録されていた名前だ。

 この日、前世の記憶を取り戻したとき以来の夢を見た―――それによって記憶は一部混濁し、シフィーの記憶の引き出しを鈍らせた。



「我を知るなら話は早い。我は世を惑わす獣―――決して人は惑わさぬ。人を惑わすは人のやる事、故に我は人の王を求む」


「惑わさない? もう少し素直に言ってちょうだい」


「では、言い直そうか………………我は人を惑わせず、我は完璧になりたい。我の力は、人が扱えば人を惑わす。これが、我が王を求む理由だ」


「人を下でなく、上につける理由は?」


「言わねば駄目か…………?」


「言って」



 蜃は巨大な体に似合わず言い淀み―――思わず、シフィーはその姿を鼻で笑った。



「…………その姿、まるで同じだな」


「同じって、誰と?」


「ヤマトの前王、スタラ―――病に侵され汝と同じ様な白髪となり、そして汝と同じ様に我を小馬鹿にして笑う女であった」



 目を細め、遠い過去を思い出しながら蜃は語る。

 シフィーはエルドラを思い出した―――人間を育て、恋をして、最後まで添い遂げた美しきドラゴン。


 過去を語る蜃の目は、棺の彼を語るエルドラの目とよく似ている。



「奴に、お前は人を操るのに向いていないと言われた―――奴は最後にも、我に次の王を見つけろと言い残した。我はあの言葉に従うぞ」


「確かに、貴方人を従えるのには向いていなさそうね」


「反応まで似通っている―――しかし、それだけが理由でもないがな」



 言いながら、蜃は殺風景なこの固有世界で唯一見栄えのある青々とした空を見上げる。

 雲は七つ―――現状そうは見えずともテンションが上がり、物事を深く考えないシフィー以外ならば全てを察せられる景色だ。

 


「六雲集にしろ我にしろ、雲が自由に飛ぶためには空が必要だ―――我らが王に求むは統治でなく自由の体現。自由な空の様に生きる様を、我らに示してほしいのだ」


「それなら得意よ、任せてちょうだい」


「ふふ、心強いな―――では、汝に力を託すとしよう」



 細めた目をそのまま閉じてしまうと、蜃は体から霧を発し―――その霧は、シフィーの手にある刀へと吸収される。


 先程までは魔力のない、抜け殻の様なただの刀であったにも関わらず、今となってはシフィーの作り出すナイフと同等以上の魔力を誇る。



「懐かしい感覚だな―――奴の持ち込んだその刀を次に託せる事、喜ばしく思うぞ」


「ああ、やっぱりそうなのね…………って、貴方随分と小さくなっていない?」


「我が力の八割をその刀に注いだのでな。姿も当然縮む」



 楽しそうに答えると、蜃は少し黙って耳を澄まし―――シフィーには聞こえない、この固有世界の外の音を聞く。



「外の客人が増えた様だな―――これで潮時か」


「客人…………?」


「汝の旅仲間が駆けつけた様だぞ。来たと同様の方法で外へ帰れる―――戻ってやれ、王よ」


「ええ―――蜃、かっこいい刀をありがとう。また話しましょう」



 目の前に、先程と同じ霧の塊が現れる。

 蜃にまたねと手を振って、深い霧に潜り込んだ―――少し歩くと、景色は晴れて元の洞窟へ。


 薄い霧の塊から急にシフィーが現れたものだから、待っていたミリスとスピカは驚き尻餅を。


 見上げたシフィーはどこか今朝より精悍(せいたん)に見える―――その理由はこの短い時間で得るものがあったり王としての自覚を持ったわけでは決してなく、寝起きとその後の差、そして刀を手に入れて格好をつけるため、背筋を伸ばしているからに他ならない。


 だがしかし、ミリスの観察眼はその理由に気づけるほど良くできてはいなかった。



「シフィーさん、今度男装を試しませんこと?」


「? いいけれど、突然どうして?」



 いつも通り、ミリスのオタクじみた発言に疑問符を浮かべた後、周囲を見渡す。

 さっきまで居た筈の六雲集達の姿が無いのだ。



「ねえ、さっきの人達――――――」


「アイツらは外での活動に制限があるからな。もう戻った」


「今日ここを出る予定だったと思うけれど、挨拶は?」


「アイツらはこの国で起きた事の全てを把握してるからな、問題があれば勝手に動く―――だからアンタも自由にすれば良い」


「じゃあ、勝手に出て行ってしまいましょう」



 挨拶はいらない―――シフィーは昨日寿司屋の大将に帰り際質問した味噌、醤油の仕入れ先へと向かい、大量に調味料を買い込んでからヤマトを出た。


 目指すは依然変わらずアトランティス。


 ヤマトを抜ければ、到着は近い。

読んでくださりありがとうございます!

もし面白いと思ってくださった方は、レビューや感想、ブクマなどもらえると嬉しいです!


(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)


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