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隠された国

 ミレニアムを出て一ヶ月が過ぎた―――風はすっかり冷え、日によっては雪も降る。

 年越しまであと一ヶ月と言う所だが、シフィー達は未だ旅の途中―――この日は海沿い、深い霧に包まれた道を進んでいた。



「霧が濃すぎるわ。魔力探知も難しいし…………」


「視認も五メートルが限界だ。全員離れるなよ」


「はいですわ!」


「…………ん」



 一ヶ月も旅を共にすると、ヴィンセントとスピカに変化も現れた。

 ヴィンセントは以前にも増して面倒見が良くなり、雑談への参加が増え。

 スピカは短くともはい以外の返事を返すようになり、己の意思を示す機会が増え。

 そして両者、コミュニケーションのハードルが低くなった。



「…………あら? 皆様、ちょいストップですわ」



 その声に反応して全員が行動を停止。

 霧の中に住まう魔物を発見したか、倒れている者でも発見したか―――全員の停止を確認してからミリスが目を凝らす。


 発見したのは魔物でも人でもない、住居だ。


 とても日々の生活などままならない霧の中に、ミリスは住居を発見した。



「村…………ですの?」


「みたいね。また一晩様子を見る?」


「足元も危ういのにあんな影だけの村を様子見なんて出来るわけねえだろ―――何かあれば即時戦闘開始出来る様に覚悟しろ。行くしかねえ」


「それなら戦闘を前提に考えましょう―――一人で乗り込んで、大丈夫そうなら魔力弾を二発、戦闘が必要なら魔力弾を一発、戦闘になって離脱が用意なら戻って来る。それで良いわね?」


「了解した、気をつけて行け」


「ええ、行ってくるわ」



 心配そうな表情のミリスの頭を撫でてからシフィーは一人進み―――すぐに霧に包まれ姿は見えなくなった。

 残された三人は静かに息を潜め、聞こえるのは己の鼓動のみという状態で待機。


 長い緊張の時間は、シフィーの魔力弾によって終わりを告げる。

 一発や二発どころではない、無数の魔力弾によって。



「何事ですの?!」


「っ…………行くぞ!」


「…………!」



 魔力弾の威力は、触れれば弾ける程度のシャボン玉の様なもの。

 だがその尋常ならざる量に三人は即突撃を決定―――霧を駆け抜け見えたのは、戦闘ではなく平和そのもの。


 テンションが上がり切り、魔力弾を連発するシフィーと、困った様子の若い男。

 この集落以外ではそう見ぬ、着物と袴、靴は草履―――シフィーの前世の記憶では遥か過去存在した侍などに該当する姿だ。



「ねえミリス、お侍よ! 私初めて見たわ…………実在していたなんて! しかもコスプレじゃない、本物よ!」


「あら本当、お侍様ですわね。久々にお見受けしましたわ」


「…………驚かないの?」


「どうしてそう驚きますの?」


「………………そう、普通に居るやつなのね」



 自分の驚き様が間抜けだったと気づいたシフィーは少し落ち込む様な素振りを見せ―――だが、目に入るよう景色にテンションは上がりっぱなしだ。


 それは日本、それも大昔に実在した江戸の街そのものの風景―――建物、人々、その全てが浪漫だ。



「あ〜ここか。前から随分と移動したな」


「貴方はヴィンセント殿! 久しいですなあ!」


「アンタとは話したかな? 悪いがよく覚えてねえ」


「なに、拙者が一方的に見知っているだけの事。お気になされぬ様! それよりも、此度な何用で? ジュエリー殿のお姿が見えませぬが…………」


「今回ババアは居ねえよ―――本来寄る予定もなかった。アトランティスに向かう道中でな」


「ならば出口は南西にございますぞ! ご案内いたしましょう!」


「助かるよ―――だが、そうはいかねえ様だな」



 親しげに話す二人を側に、シフィーは目を輝かせたまま。

 何を言わずとも分かる―――シフィーは視線で、ヴィンセントに説明を求めていた。



「あ―――そうだな、お前らなら良いだろう」



 ヴィンセントは男にアイコンタクトで状況説明の許可を取り、面倒臭そうに頭を掻く。

 目線を村とは言えぬ広さの集落へと向け、静かに口を開いた。



「ここは隠れ里、ヤマトだ―――現状俺とババアが確認している限り、魔界以外で唯一ソロモン王の支配の外にある、()()()()()()だ」


「国ですって?! ソロモン王が支配していない土地など、千年間一度も発見されて居ない筈ですわよ!」


「ヤマト…………! 通り抜けなんて許さないわ、観光よ!」



 驚き歓喜―――双方大きな声でリアクションし、ヴィンセントは眉間に皺を寄せ面倒臭いと最大限のアピールを。

 だがそれが効かぬと分かると、ため息を溢して移動の再開を諦める。



「悪いが、六雲集への面会を取り付けて欲しい。俺一人だ―――後、幾らか手持ちの金をこっちのもんに換金してこいつらを遊ばせてやってくれ」


「承知いたしました、即刻手配いたしましょう!」


「面倒をかけるな」



 男は暫し場を離れ、すぐに他の奉行をつれて戻って来た。

 後からやって来た奉行達がヴィンセントを案内し、残りった男がシフィー達を奉行所へと案内。

 外との関係性を絶っている国ではあるものの、個人として取引するジュエリーの様な相手との商売用として外の貨幣も持ってはいる。


 シフィー達は換金を済ませ、街へ繰り出し―――この国の金の単位は、奇しくも円であった。

読んでくださりありがとうございます!

もし面白いと思ってくださった方は、レビューや感想、ブクマなどもらえると嬉しいです!


(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

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