真夜中の襲撃
「儂らは毎日同じ様な生活ですので、旅人さん達は楽しい刺激として歓迎していますじゃよ」
背の低い、腰の曲がった村長の老父が言った。
村長はシフィー達一行を歓迎し宿を手配し、自宅兼村の集会所へと招待。
庭にある長テーブルに昼食のシチューを人数分用意して、席に着いた。
「昔から旅人の話を聞くのが好きでね。若い頃より、こうして旅人を招待しては場を設けておりました」
庭には少しの家庭菜園があるのみで、立派な貴族の家の様に豪華絢爛と花が並ぶわけではない。
だがその家庭菜園の先に見える村の日常風景というのは、華やかな貴族の屋敷に勝るとも劣らぬものがあった。
「食べながらで良いのですじゃ。何か旅の話をこの老耄に聞かせては下さいませんかな?」
「そう面白い話もないわ、私達まだ旅を始めたばかりなの」
「なに特別な話はいりませぬよ。旅の途中で見た風景、困った事、笑った話。そんなこの村に引き篭もっては聞けぬ話を聞ければそれで満足なのですじゃ」
「それなら、まあ色々と」
シュレディンガー領での襲撃、アルカディアでの誘拐、愛しい人を失ったドラゴン、ミレニアムでの防衛戦。
そんなシフィーの体験した話は、嬉々として吹聴する様なものではない。
それ以外の話は何気ない日常の話。
それらを主にシフィーとミリスが話してやり、スピカは黙々と、ヴィンセントは少し聞き耳を立てながら食事を進めた。
食事を終えてなお日が沈む頃まで話し込み、スピカが露骨に飽きを見せ始める頃には席を立ち。
それぞれシフィーとヴィンセント、ミリスとスピカの二人部屋に分けて荷物を置き。
宿屋の食堂で早めの夕飯も済ませてしまう。
「綺麗な部屋ね。村長さんもいい人だし、いい村だわ」
「ああ、そうだな―――アンタ、今日これから外に出る予定は?」
「特にないけれど…………どうして?」
「無いなら別に良い。隣の二人にも出ない様に伝えておけ」
「…………分かったわ」
「あと荷物分けはしたが、お前も向こうの部屋で寝ろ」
「私眠らないのよ」
「じゃあ向こうの部屋で過ごせ」
「この部屋に私が居ると、何か不都合でも?」
「色々あんだよ、分かったら行け」
そう言ってシフィーを部屋から出すと、ヴィンセントも少しタイミングをずらして外に出る。
皆は荷物を置いたが、一人だけ腰のポーチをつけたままで刻印術の刻まれた人差し指と中指で煙草を持ち。
出た先には、大勢の村人と村長が勢揃いしていた。
「これは、旅のお方よ―――この様な時間に出歩くとは、何事かな?」
「アンタらこそ、態々集まって何の様だ?」
「私達は………………貴方達が休めているか気になった、と言うので納得していただきたい所ですじゃ」
「成程、ちと納得出来そうにねえなあ………………」
指の刻印術に魔力を込める。
戦闘のためではない―――挟んだ煙草の先端に魔力は回り熱を灯し。
ライターやマッチが無くとも火をつけた。
咥え、一口吸うと脱力する様に煙を吐き。
村人達の手元へと目を向けた。
「揃いも揃って武装してやがる…………それに、一つ不可解な事もあった」
「不可解…………と、言いますと?」
「昨日、外からこの村を見ていたら幾つも皮が干してあってな…………この村に居る家畜の皮とはどれも違ってた」
「工芸品を作るために商人から買い取ったものですな」
「いや、違うな。あの皮ガキ共は気づかねえ様だが俺は見覚えがある―――人間だな?」
「やはり刺激的だ…………村外に居る方々は、本当に色々な物を見てらっしゃる」
言い終えると村長は村人達の後ろはと歩き出し、同時に村人達が一斉にヴィンセントに大して攻撃を開始した。
基本的には農具や包丁の様などこにでもある様な装備だが、節々に冒険者や旅人の持つ様な上等な装備が見える。
この村の正体は、ヴィンセントが睨んだ通りの人狩り村。
ただ違ったのは奴隷狩りではないと言う事―――人を獣の様に狩り、解体して、弄ぶ。
人殺しを一丸となって楽しんでいる村だ。
「ったく、面倒臭え」
もう一口だけ煙草を吸うと、村人の一人に対して煙を吐いて目潰しを。
革靴の爪先を顎に引っ掛けると、バク宙の勢いで背後から迫るもう一人に激突する様投げ。
起き上がった所に再度目潰しと煙草自体を投げて目を焼くと、脳天目掛けて踵落とし。
一連の流れを無気力に、片手はポケットに突っ込んだまま行い、もう煙の出ぬため息を溢し。
ポケットから出した手をポーチへと突っ込んだ。
取り出したのは武器だ―――だが、決して強力なものではない。
寧ろ村人達含め、この中で最も殺傷力のない武器であろう。
それは非殺傷―――無傷で対象を無力感する為に開発された、武器と呼ぶにはあまりに優し過ぎる武器。
真っ白の全容、長い柄、U字の先端―――要するに、刺又である。
「それが武器ですと…………?」
「俺はこれしか使わねえ」
取り出した刺又で迫る一人の胴を押さえ、その先端を両脇まで持ち上げると本体を回転させて力尽くで対象を横転させ。
仰向けに倒れ、剥き出しとなった腹と股間目掛けて二股の先端を振り下ろす。
響く絶叫―――それを耳にした村人達の反応は二つ。
恐怖し攻めの手を止めるか、恐怖を紛らわせる為に攻めをより苛烈なものとするか。
その全てをヴィンセントは打ち落とし、あくびをしながら不殺で村人を殲滅。
行動不能となった村人達を踏んで村長の眼前へと歩き―――首を刺又で捉える。
「の、望みは…………?」
「今すぐ全員でこの村を出て自首をしろ」
「私達だけで…………?」
「ああ、見張りなんて面倒はしねえよ」
「私達が逃げるとお考えにはなられないのですな?」
「………………俺がこの刺又で打った奴らを見ろ」
言われた通りに村長が目を向ける―――村人達の肌の表面、丸い魔力の光が残されていた。
刺又の先端、そこには刻印術によって仕掛けが施されており。
打った対象には魔力のスタンプを残す。
「何んじゃ、あれは…………!」
「俺の気分次第でいつでも炸裂させられる。俺達がここに来るまで、ミレニアムから四日かかった―――お前達なら五日程度か。今すぐ出ろ、良いな?」
「………………はい、ですじゃ」
「よし、行け」
村人達は言われた通りに退散を。
自首したとして、極刑にならない方法があるわけではない―――ただ、今日の死よりも明日の死を選んだに過ぎない。
それが、道楽として旅人達を殺してきた村人達による、己の死に対する決断だ。
ヴィンセントは宿屋に戻り、すぐに眠りにつき。
約朝シフィーと共にミリスとスピカを起こすと、完全に日が上り切るよりも早くもぬけの殻となった村を出る。
早朝無人にっていた村に何があったのか―――シフィーは全てを察し、スピカは興味を持たず、質問したのはミリスだけであった。
話を聞くと、ミリスは苦虫を噛み潰した様な表情を見せ―――その日の食事は、いつもよりも少ない量を食べた。
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