真王
次の目的地が決まれば、旅立ちの日はすぐだ。
シフィーは一日かけてこのミレニアムで知り合った人々に挨拶をして周り、別れを告げた。
ブルーノは快活に笑い、次会う時にはさらに強くなっていると約束を。
シェリンは改めて冒険者ギルドの代表として、此度の戦いの礼を。
カフェの店主、セリナはまたいらしてくださいねとクーポンを。
ミリスの母親は再訪問するも不在。
そして、エリオスは別れも告げる事をなく戦いの直後、アイアスの遺体を持ち故郷に帰ったとの情報だけが。
挨拶回りを終えると、新たに旅を共にするスピカを迎えにジュエリーの店まで。
旅支度はすっかりジュエリーの手によって整えられており、老人の過保護か全て一級品で揃えられている。
「次の目的地はアトランティスじゃったな? 儂が送るか足を手配してやる事も出来るが、どうする?」
「色んな場所を見て回りたいの。だから、気持ちだけ受け取っておくわ」
「そうかそうか―――では、選別はこれだけにしておくかの」
ジュエリーが言うと、店の奥よりヴィンセントが。
荷物は腰に革のポーチが一つのみ―――格好も普段の上下黒のワイシャツとズボン。
旅をする者には決して見えぬが、ジュエリーの口ぶりからようはそう言う事だ。
「儂との連絡用に連れてゆけ。腕はブルーノ並みに立つのでな、決して足手纏いにはならんよ」
「クソ店主…………いや、店を離れるからにはただのババアだな。ババアの勝手に付き合わせて申し訳ねえが、俺も同行させて貰うぜ。俺だって面倒なんだがな」
「いいわ。旅の仲間は多い方が楽しいし、貴方とはまだそんなに話せていなかったから」
既に話から離脱し、スピカに話しかけて楽しんでいるミリスを他所にヴィンセントの仲間入りが決定。
つくづく面倒な仕事を押し付けられたと不服そうなヴィンセントが面白くて、シフィーは小さく笑う。
「なんかおかしいか?」
「いえ、貴方中々可愛い人なのね―――シフィーって呼んでちょうだい」
「ヴィンセントって呼んでくれ…………シフィーアンタ、ババアの同類か?」
「それは心外よ」
言いながら握手を。
ふと時計を見ると時間は午後の三時過ぎ―――街を出ると決めていた時間だ。
「ジュエリー、もう行くわ。色々とありがとう」
「何気にするな―――儂は割とどこにでもおるでな、見つけたら寄れい」
「うん、そうする。じゃあまた会いましょう」
挨拶を済ませて見せを出る―――去り際、スピカがジュエリーに小さく手を振った。
ファーストコンタクトこそ最悪であったものの、その後預けている期間の関係性は決して悪いものではなかった様で。
ジュエリーも祖母の様な表情で手を振り返していた。
「なぁ、女所帯に男一人居ても邪魔だろうしよ…………やっぱり俺のことなんて追い返して貰ってもいいんだぜ………………」
「大丈夫よ。気にしないから面倒がらないで頂戴な」
「………………アンタ、やっぱりババアの同類だな」
「そんな事ないわよ―――ねえ? スピカ」
嫌そうな表情のヴィンセントを他所に訊ねられると、スピカは静かに頷いた。
そんな既に馴染んだ関係性の様な会話をしながら四人は街を出る。
次なる目的地はアトランティス―――美食と出会いを求めて、シフィーはあの城を出た日同様に心躍らせていた。
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「シャンティーよ、退屈だ―――何か笑える話でもせんか」
「そうですね…………先日カイエン・キリギリが新たに建てられたエンデルビルを両断した話などは如何ですか?」
「エンデルビルと言うと、あの四十階出てのか…………まあ、エンデルの奴の裏金は最近目に余る。放っておいて良かろう」
「…………あまり面白くない話題でしたかね?」
「カイエンは出歩けば何か壊す男―――今更何をしたとて面白みなどないわ」
「まあ分かっていました―――ならば、ミレニアムの話は如何で?」
「ミレニアムの襲撃ならば話は済んだであろう?」
「あの騒動の中、一人面白い人物がいるのですよ」
シャンティーと呼ばれる男は、報告書の内容を思い出し怪しく笑う。
その人物とはミレニアム防衛にてアドミニストレータと同等かそれ以上の破壊力を見せ、最大の手柄を挙げた少女の事。
その存在はジュエリー直々に報告され、今日に至るまでシャンテーの手の物により捜査が進められていた。
「彼女の名はシフィー・シルルフル―――どうやら興味をお持ちの様ですね、王よ」
呼ばれ、片眉をピクリと動かす。
この世界に於いて、正当な王とされる人物はただ一人のみだ。
千年も前に世界の国々を統一し、その手中に収めし真王―――名を、ソロモン。
なろう、仕様変わって使いずらい!
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




