unbreakable promise
「…………お終い? シフィーさん、どう言う事ですの…………? 私、何か気に障る様なことをてしまいましたか…………?」
「悪いのは貴女じゃないわ―――単に私の実力不足。これからも今回の様な戦いがあるならば、私は貴女の安全を保証できない」
「保障なんていりませんわ! 私シフィーさんに護られたくて着いて来たんじゃありませんの! シフィーさんと居たくて、こうして着いて来たんですのよ…………!」
「じゃあ足手纏いよ。私が好きに戦うのに邪魔なの」
「じゃあってなんですか、心にもない事を言わないで下さいまし!」
「本当に思っているわ…………! 貴女弱いのよ!」
「私弱くありません!」
「弱いわよ…………!」
シフィーの人生、数ヶ月という期間だが最も長く時間を共にしたのはミリスである。
そんな相手を突き放すのは、未だ親離れ出来ない子が親から引き離される様に心を切り裂かれる様な苦痛があった。
シフィーは思う―――この合理的判断に気付けなければ、どれだけ良かったかと。
その判断を下したのは、シフィーの精神的成熟とは別に宿った成人男性として生きた経験。
それがシフィーに、精神に見合わぬ判断を下させた。
「ミリスに魔物の相手を頼んだ時、とっても不安だった! 何度もキメラを放って助けに行こうと考えたし、エリオスがミリスを置いて行った時、心配で死んちゃうかと思った!」
シフィーの精神年齢を表すならば、幼子とプラスアルファ。
そのプラスアルファを忘れた様な状態の今は、見え方に反して案外最も健全な状態である。
「ミリス…………貴女は弱い。だから私は心が落ち着かないの……………だから、終わりなのよ!」
「そうですか、分かりました――――――」
ミリスが言った次の瞬間―――シフィーは目を丸くした。
目にした光景は予想だにしなかったもの。
真っ直ぐシフィーに対して、ミリスの魔導銃が付けられていた。
「なんのつもり………………?」
「シフィーさん、私弱くありませんわ―――言葉だけで納得する方でないのは最早承知の上。ですので、ご覧入れて差し上げましょう!」
「魔力形式・1st」
旅の道中、或いは街中―――日常生活のペーパーナイフにまで乱用され、見慣れた魔力のナイフ。
初めてその脅威が自分に向けられて気づく、圧倒的な魔力の圧力と首筋に刃を添えられた様な緊張感。
銃とナイフ、間合いの差は圧倒的有利にある筈だ―――だが、ミリスに見える未来は自分の攻撃が避けられて次の瞬間、それどころか引き金を引くと同時に無力化された自分の姿だ。
考える―――どうすればシフィーに、自分が強い様見せられるかを。
信じる―――自分が見て来たシフィーを。
シフィーは自分の身体能力を信頼し切っている。
そして、ミリスを敵としては舐め腐っている。
最初の一撃はいつもお馴染み、真正面から首筋を刎ねる一閃。
今回の目的は命の取り合いでない―――故に、峰打ちだ。
「ならば…………っ!」
左腕に全力の魔力強化を施し、ナイフによる一撃を受け止める。
軌道が読めれば後はタイミングだが、そこはミリスの最高速度を尽くすのみ。
ゆっくりとタイミングを見定めて、追いつく相手ではない。
「へえ、この速度に間に合うの」
「手加減しましたわね…………!」
打ち抜けたシフィーは少し驚いた様な表情で振り返り。
それと同時に目に泥が入った。
ミリスが地面を撃って目潰しをしたのだ。
目を拭う一瞬に魔力弾を五発撃ち―――それぞれ炸裂せず、四肢と胸に命中してシフィーを空に打ち上げる。
「――――――始祖の獣!」
ミリスの魔力に炎が灯る。
白い炎だ―――陽炎と揺れ、そこにあるのかないのかハッキリしない曖昧な形。
獣の耳と爪と尾を形取った炎を纏うミリスも同様―――そこにあると見えた次の瞬間、ミリスは既にシフィーへと飛びかかっていた。
「に゙ゃおっ!」
叫び声と共に爪を振るった。
だがシフィーには傷一つ付かず―――寧ろ、攻撃した筈の爪が断たれた。
魔力で作り出した爪とナイフ同士がぶつかり合えば、当然魔力濃度が高く、魔力密度の濃い方が勝る。
その点に於いて、ミリスは勝る気など毛頭ない。
爪が断たれようと、魔力を注ぎ出して即再生して連撃。
飛び散る魔力は火花の様で、その戦いの苛烈さを分かりやすく表現している。
「もう時間切れみたいね」
「ええ…………っ!」
燃える魔力の耳と爪が消え―――シフィーが決着をつけようと僅かに気を急ぐ。
この戦いを長引かせれば、ミリスが無茶をして見に危険が及ぶと判断したのだ。
だが、それが油断を生んだ。
始祖の獣の時間切れはブラフ―――ミリスが任意で、尾以外を解いたのだ。
魔力一点に集中して、残り時間は三秒。
尾で器用にシフィーを掴んで、地面目掛け投げ―――自身も追いかけ、始祖の獣本当の時間切れと同時にマウントの体制となる。
「はあっ……はあっ…………まだ、私を弱いと言えまして…………?」
「なんで、そこまで食い下がるのよ…………? それ程長い付き合いでもないでしょう?」
「何でって…………以前も言いましたが、私はシフィーさんを好いていますの! お友達としてではありませんわ…………!」
「もし誘拐犯から助けたのが理由だって言うなら、あれは私も脱出する必要があっただけ。貴女だから助けたとか、そんな特別な理由はないわ」
「確かにあの時のシフィーさんはかっこよかったですが、私がシフィーさんを好いている理由はそれだけじゃありませんわ! あの日の晩に私を安心させてくれた事、日頃見せる素直な好奇心、時々覗く冷酷さ。そんな沢山のシフィーさんが、私を突き動かすんですの…………!」
「貴女になら私よりもいい人が見つかるわ―――安全な場所で一緒に過ごしてくれるいい人がね。貴女の周りには、私以外にも沢山の人が居るでしょう?」
「確かに、私にはシフィーさん以外居ないだなんて事はありませんの…………でも! 私にはシフィーさんしか要りませんわ! 他の誰かは要りません、安全な場所も要りません! そこがどんな過酷な土地でも、私シフィーさんが隣にいて下さるならば、全ての日々が愛おしく思えますわ!」
息を切らしながら、シフィーの放つ言葉を真っ向より切り伏せる。
新たな否定要素を探すシフィーだが、目の前自分に跨りながら今にも大粒の涙を溢しそうな表情で憤慨するミリスを見ているとそんなやる気も失せて来る。
このまま連れて行ってやっても良いのではないかという気が湧いて来る。
「………………私、元より全てを捨てる覚悟であの街を出ましたわ。シフィーさん、どうか私を隣に置いてくださいませ。そうすればきっと、きっと良く尽くしますわ」
「まるで、プロポーズね―――これ以上は無駄かしら」
小さく笑いシフィーが言った。
手に残るナイフを分解、ただの魔力に戻して再吸収すると、シフィーは天を仰ぐ。
雲一つ無い晴天―――こうなると、いよいよミリスを突き放す気が萎えてしまう。
「そうね…………素直に話を聞く貴女では無いでしょうし、今日は喧嘩別れするには天気が良すぎるわ………………ミリス、ごめんなさいね」
「なんで、シフィーさんが謝るんですの…………?」
「貴女を護る自信の無さを、突き放して誤魔化そうとしていた―――貴女はこんなに真っ直ぐ私に向き合ってくれているのに、私は貴女の弱さを持ち出して責任から逃れようとした」
シフィーはマウント状態のミリスを軽々と持ち上げて横に退けてから立ち上がると背に付いた草を払い、一つため息を溢す。
「ミリス、私に護られてくれる?」
「護られるだけの私ではありませんわ―――でも、そうですわね。シフィーさん、今度こそ手放さないでくださいね!」
約束は改めて、より強固に結ばれた―――これより先、シフィーがミリスに帰れと言う事は無い。
ミリスが己の意思でシフィーの元を離れる事も決して無い。
その選択は自分達を幸せにしないと、二人は確かに理解したのだから。
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