責務の果たし方
魔族の襲撃より一月―――ミレニアムは一瞬で展開する仮設住宅の魔導具や、遠隔操作人形の魔導具による人命救助によって順調な復興の滑り出しを見せていた。
この日、シフィーはアドミニストレータとジュエリーに呼ばれて街を出て暫く行った先にある平原へと呼び出された。
上機嫌なアドミニストレータと、面倒臭そうなジュエリー。
どちらによる呼び出しかは、一目見れば明白である。
「貴女……………確かアドミニストレータだったかしら? 私に何の様?」
「いきなり本題? 先ずはそうね………あの戦いから何があったかなんて世間話でもどうかしら? 私達、お互いの事を知らなすぎると思うのよね」
「世間話のためだけにこんな場所に呼び出されたなら帰るわ」
「先走り過ぎよ…………仕方ないわね。こう言う早い展開は好みでないのだけれど、早速本題に入りましょう」
アドミニストレータはシフィーに駆け寄ると手を取り、自分の眼前まで運び、漏れ出す魔力を感じ恍惚と。
戦いの最中や攻撃の痕跡に残った痕跡だけでも分かっていたが、本人から直に漏れ出す魔力もアドミニストレータのお眼鏡に適った模様。
手の香りを嗅ぐ様な状態になったその姿を見て冷たい視線を向けるシフィーに、アドミニストレータは微笑みかけ。
そしてようやく本題を口にする。
「ねえ、シフィーちゃん。貴女の魔法を見せてはくれないかしら?」
「魔力形式・1st」
少し面倒臭くなって来たと、本題を早く終わらせるためにナイフを作る。
だがそれにアドミニストレータは不満げな表情を見せ―――ナイフを取り上げると、遠方に放り投げた。
「なんで?」
「私が見せて欲しいのは魔法―――確かに今のも凄い魔力だけれど、魔術にはそれ程興味ないわ」
「…………んんん? 魔術と魔法って違うの? なんか言い換えとか別名的なアレでなくて?」
「違うわ、月とスッポンぐらい違うわよ」
まるで呆れた様にアドミニストレータは言う。
どうやらシフィーの城暮らしによる弊害、世間知らずがここにも潜んでいた様で―――アドミニストレータは右手に種を、左手に魔力弾をそれぞれ作り出す。
「この魔力弾は練習すれば誰でも作れる、つまり技術よ―――魔術っていうのは魔力操作によって行われる技術の総称。武術なんかと変わり無いのよ」
魔力弾をナイフ同様遠方に放り投げ―――着地点で炸裂。
冠級冒険者の作り出す魔力弾なだけあって、その威力はロケットランチャーの炸裂と同レベルだ。
「そして、この種が魔法―――魔法っていうのは特別な、個人にだけ与えられるギフトで完全なオリジナル。使える者は使える、使えない者は使えない―――絶対的な法の様なものよ」
言うと、魔力弾と同じ位置に種を放り―――地面に着弾すると同時に炸裂。
その威力は魔力弾の比ではなく。
アドミニストレータの想定した縦方向に長く、雲を割る高さまでに魔力の爆発は登った。
「私の魔法は爆発の種を作り出す―――少しの魔力で最高の威力をって、とても私好みだわ」
「………………私、魔法使えないけれど才能無いのかしら。少し悲しいわ」
「まだ発覚していないだけよ―――貴女には必ず魔法の因子がある。私が保証するわ」
魔法の発現条件というのは、実は発覚していない―――血か、才能か、そもそも皆本当は因子を持っているが気づく者、気づかない者が居るだけなのか。
アドミニストレータはそれを才能の有無だと言う―――才ある者により大きな力を与え。
より大きな事を為すべきだと考えているのだ。
自分が冠級冒険者である様に、皆己の責務を果たす責任と力を持つべきなのだと。
「あっ、皆様やっと見つけましたわ! 昼食買って来ましたわよ〜」
「ミリス、随分と心強いボディーガードを連れているわね」
「ボディーガードですの…………? ブルーノさんとヴィンセントさん、誰か雇いまして?」
時間は正午過ぎ―――昼食を持って現れたミリス、ブルーノ、ヴィンセントの三人の姿はまるで世間知らずのご令嬢とそのボディーガードだ。
「ミリス君! 彼女の言うボディーガードというのは、恐らく俺達の事だ!」
「まぁ、傍目に見えなくも無えな」
それを聞いて驚きに目を丸くするミリスと、面白がる後方二人―――微笑ましい景色だが、シフィーがそれに笑みを浮かべる事はなく。
むしろ僅かに険しい表情で、ミリスを見つめた。
「しんどそうじゃのう、テメェさんよ? 態々こんなパシリじみた事をさせて時間を稼いで尚、心は決まらんかったか?」
「…………いえ、元々決めた事よ。やっぱり言えないなんて事は無いわ」
表情のわけを唯一知るジュエリーが煽り交じりに気を使う。
ジュエリーにはシフィーの苦しみがよく分かる。
これまでの人生、幾度となく同じ決断をして来た―――気に入った誰かに落第の烙印を押す決断。
慈悲を持って、鬼となれず切り落とす決断を。
「話すなら決意の揺るがぬ内にするんじゃな―――後は気にするな」
「面倒をかけるわね」
「良い、知らぬ顔でもないしの」
それだけ話すと、シフィーはミリスの元へ。
「少し話しましょう」とだけ言って皆の元から離れて連れ出し、声の届かない位置で立ち止まると向かい合って手を取り。
まだ柔らかく、綺麗な手だ―――深い傷痕も欠損も無い、平和に生きた手だ。
「シフィーさん、話ってなんですの…………?」
「率直に、言うわ………………」
あの戦いでシフィーは見た。
己がダンジョンに行っている間に燃える街を。
王権都市という、冒険者含め人の多い街が魔族や魔物に蹂躙される光景を。
少し前まで共にダンジョンに居た実力者、アイアスの死体を。
シフィーは自惚れていた。
自分は強い―――故に、望む物を護れると。
そんなものは気のせいであった―――シフィーが強くても護れるのは自分まで。
それ以上は、砂の山の様に指の隙間から零れ落ちてしまう事に気づいた。
シフィーはミリスの父、ロベリスに約束した―――自分がミリスを護ると。
それを果たせぬ可能性があるならば、この決断はしなければならない。
「ミリス―――貴女との旅はここでお終いよ。ここまで、楽しかったわ」
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