容疑者常習犯
「これで、ミレニアムを護れたのか………………シフィー君、君は英雄に…………!」
「まだよブルーノ。魔物が残ってる」
「そうだな! 魔力は切れているが、俺も尽力しよう!」
「ミリスが相手している数居るのをお願い―――私は、この凄い勢いで来る強いのをやるわ」
シフィーは遠方の空を眺め言う。
魔力切れを起こしているブルーノは気づかなかったが、二kmに高速移動する生物が居る。
魔力総量はミリスと同程度であり、平均レベル―――だが、シフィーはその相手に言葉にし難い危険を感じた。
到着まで十三秒―――シフィーは指を向け、魔力を貯める。
「魔力形式・ 10th―――死の刻、骨の宮、散乱せし王の財―――至高の星は失墜し、黒の帷が降ろされた。陽は焦げ人は眠り、斯くして始祖は救われる」
それは、シフィーが地上に向かい放った魔術の収束版。
この街に来て見たジュエリーの技や、キメラの特性の様な、魔力総量以外の力―――それが、未知に対してのシフィーの警戒心を限界まで跳ね上げた。
「――――――王片閃黒!」
「祝砲? にしては…………少し物騒ね」
まだ遠かった筈の魔力が、今はシフィーの真横にある。
想定通りの未知だ―――シフィーは手元に残った魔力の残滓を固め、魔力形式・1st程で無くとも足跡のナイフを生成。
躊躇いなく、真横の女へと振るった。
「先に言うけれど、私は敵じゃあない」
女は何もしなかった―――ただ、二人の間にジュエリーが割って入る。
ナイフを太刀で抑え、女の身を護り。
面倒臭そうにため息を一つ溢した。
「何をしに来たんじゃ? アドミニストレータよ」
「シフィーちゃんって子を見に、来ちゃいました。とっても可愛いわぁ」
黒いローブ、紫の長髪と瞳、紅ルージュ。
そして、ジュエリーの呼んだ名―――それが女の安全を僅かに証明した。
冠級冒険者、アドミニストレータ―――容疑者常習犯と呼ばれる、身元がハッキリしても若干不審者な女である。
「貴方がシフィーちゃんね、とっても可愛いわ……! 魔力も凄い…………」
「初対面の筈だけど何でしょうね…………貴女、ジュエリーと同じ系譜な気がするわ」
「そりゃアレじゃな―――見た目と年齢が一致しない属じゃから、儂ら」
ジュエリーは太刀の鞘でアドミニストレータの顎をグイグイと押して、嫌がらせをしながら言う。
アドミニストレータはと言うと、嫌がるジュエリーに抱きつこうと手を伸ばして届かず―――双方身長百七十センチ台の女性同士が、何故か懐かない姪と可愛がりたい叔母の様に見えた。
「年齢を忘れる程生きた儂と、此奴アドミニストレータでは実年齢に大差こそあるが、まあ儂と此奴を似ていると感じるのはそれが原因じゃろうの」
ロリではないが、ロリババアのギャップ萌えと同じような仕組みという事だ。
シフィーが改めてアドミニストレータに目を向けると、耳が長く尖っている―――それは長命種、エルフの特徴。
視線に気づくとアドミニストレータはぽっと頬を赤く染めてシフィーに近づき―――ゆっくりと、口付けを行おうとし。
直前で突き飛ばされた。
「あんっ、いけず……………」
「こんな事したある場合じゃないわ―――危険がないと分かったならば、私はミリスを助けに行く」
「ミリス? ああ、向こうで奮闘中の子ね」
既に駆け出し、ミリスを助けるべく魔物の群れに飛び込んだシフィーを見ながらアドミニストレータは小さく笑い、ジュエリーに視線を向ける。
誰が見ようとも言うであろう―――あの目は、悪い事を考えている目だと。
「ねえ、あの子の防御性能は?」
「シフィーの奴が全力で防御に回りゃあ、まあ儂でも傷付けるのは難しいの」
「じゃあ、やっちゃいましょうか!」
言うと、アドミニストレータの手の両掌に種が一粒ずつ産まれる。
それをシフィー達の居る魔物の群れへと放って、ジュエリー、ブルーノを連れて少々避難。
狙った先の地面に着弾と同時、魔法の名を呼ぶ―――まるで恋人の名を呼ぶかの様に、甘えた声で嬉々として。
「爆発の種子」
瞬間、種子は炸裂した―――アドミニストレータの使う魔法は爆弾。
注いだ魔力量によって威力の変わる魔術の爆弾とは違い、これはアドミニストレータによる完全オリジナルだ。
僅かな魔力消費にて威力自由設定の爆弾を生み出す―――ここまでが魔力を消費する工程。
その後の威力設定と爆発は、既に爆弾によって行われる事情であり魔術でも魔法でも無く。
魔力を消費する事など無いのである。
「おお、相変わらず凄い威力じゃなあ〜」
「爆発、好きです」
「知っとるわ………………じゃがな、儂らがなるべく被害を出さぬ様にと戦った矢先にこれ…………どうしてくれるんじゃ?」
爆発は魔物の掃討と同時に辺り一角の建造物を全て吹き飛ばし。
もはや、そこが街であったという痕跡など何も残っていない。
シフィーとミリスは二人共、瞬時に魔力形式・5thの球体に籠り無傷―――だが、急にこの爆発が起きたという事に驚き、揃って周囲をキョロキョロと見たいた。
これがアドミニストレータ―――多くの問題を持ち込み、何かあればすぐに容疑者扱い―――そして、多くの場合で事実犯人である事から二つ名を、容疑者常習犯とされる女だ。
「ふふ、賠償は覚悟の上よ」
「………………この、馬鹿者が」
ジュエリーが困った様に呟く。
だがこれでこの街に魔物は居なくなった―――とても引き締まった雰囲気と呼べる物では無いがしかし、この戦いは本当に終幕。
ミレニアムの街から、危機は去ったのだ。
お昼ご飯がスムージー。
僕はOLかもしれん。
ところで今日誕生日で成人したので、祝ってください。
(更新状況とか)
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