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Proof of Hero

「………………!」


「テメェさんよ、今はまだ気を向けるな。戦場とはそう言うものじゃ」


「…………分かってるわよ」



 アイアスの魔力が消えた事に、シフィーは魔力探知にて気づく。

 だが死を悼む暇は無い―――二人は未だ、キメラを仕留められていないのだから。



「作戦は理解出来たな?」


「勿論よ―――ジュエリー、足を引っ張らないでね」


「よく吠えるわいっ!」



 瞬間、ジュエリーが指を鳴らした。

 するとキメラの立つ位置と同じ座標上、上空百メートルの地点で空間がひび割れ夜空か宇宙空間の様な景色が一部覗く。



 それと同時に駆け出したシフィーがキメラに一撃拳を振い。

 拳は腹部へとめり込み、キメラの巨体が僅かに浮き―――それを狙ってシフィーは蹴りを叩き込むが、キメラの肉体は爆散してしまい地面で再生を果たす。



「下手くそじゃのお」


「普通敵相手に加減なんて必要ないから、難しいのよ」


「今儂はロクに戦えん。テメェさんがちゃんとやるんじゃぞ」


「言われなくても分かってるわ」



 シフィーは身体強化を弱めて再突撃。

 それでもまだ速度はキメラの反応限界を遥かに超えており―――全くの無防備でシフィーの拳を受け入れた。


 肉体が飛び散ると同時に再生が開始―――間髪入れず次の拳を叩き込み、少しずつ身体強化を弱めて威力を調整。


 空中にある空間の亀裂までキメラを殴り上げられれば、シフィーの勝利だ。



「………………あら?」



 まだ体が原型を留めないと思っていた威力の攻撃が、不意に無傷で済まされた。

 シフィーは目を細めて威力を上げた拳を叩き込み―――それも無傷にて済まされた事で、自身の違和感が正しかった事を証明する。


 数秒前、キメラの体を砕いた拳が今はまるで効いていない―――キメラが強くなっている。



「厄介ね――――――」


「テメェさん、避けろ」



 ジュエリーの声がシフィーに届くと同時、ほぼ溜め無しでドラゴンブレスが放たれた。

 キメラとシフィーの距離は拳が届く程度、一メートル未満であり、回避の時間は無い。


 故にシフィーは左拳を解いて掌にてブレスを抑えた。


 普通のドラマのブレスと比べて遜色の無い威力を誇るソレをキメラの口元まで押し返し。

 掌に小さな魔力弾を作り出すと、そのままブレスとその先にあるキメラの喉目掛けて撃ち放った。



「無茶をするのお」


「左腕が使い物にならないわ。凄く痛い」


「あのブレスの直撃を受けてその程度なら、テメェさんやっぱり儂らと同格の化物じゃの」



 一度距離を距離を取る―――魔力弾にて貫かれたブレスは魔力の制御を失い炸裂。

 シフィーの左腕を芯まで焼いた。



「その程度なら医療魔術で治る。気にせず戦うんじゃな」


「………………片腕ね、厄介よ」



 未だ健在の右手で指先に魔力弾を作り、ジュエリーに見せつける様に放つ。

 ついさっきまでならば、魔力弾はキメラの鱗を砕いて体を貫通していた筈―――だがどうだ、今の一撃は鱗表面にて弾かれダメージは殆ど見えなかった。



「アイツ、硬くなってるわよ………………」


「あーそう言う事じゃったか、漸く理解したわい」



 ジュエリーが面倒臭そうに言う。

 ()()()()()の意味を理解していないシフィーを見てまあ仕方ないとカカっと笑うとキメラを、指差し―――直後放たれた腕を生やして殴りつける攻撃を避けながら話す。



「良いかテメェさんよ―――キメラというものには、必ずメインの特性、核となる生物がおる。その特性は他後付けよりも遥かに勝り、そのキメラの性能を決定付けると言って過言では無い」


「で、何を理解したの?」


「やつの核は、魔物では無い。テメェさんの言う硬くなってると言うのは急速な成長。そして、あの攻撃パターン数から見て取れる知性―――奴の核は、儂と同じプロトヒューマンじゃよ」


「…………じゃあ、様子見は駄目ね」



 重ねて繰り出される攻撃の数々を避けながら、シフィーは眉を顰め言う。


 魔王軍の身内、魔物や魔獣を使っているならまだ悪趣味で話は済む―――だが、こうなっては被害者が居る。

 シフィーとしては大変胸糞悪く、この戦いは早急に終わらせたいものとなった。



「次で済ませるわ―――魔力形式(マジックフォーム )7th( セブンス)



 翼を作り羽ばたく―――再度魔力の身体強化を行い、急接近した所で殴り上げ。

 浮き上がり、勢いが死んで落ちそうになった所にもう一撃殴り上げ。

 反撃を回避しては殴り上げ、防御を打ち壊して殴り上げ、カウンターで殴り上げ、隙を見つけては殴り上げ。


 徐々にキメラを空中の大穴へと近づけて行く。


 このまま済むならば随分と楽な仕事だが、そうは行かぬ様子―――プロトヒューマンの急速な成長は、耐久力だけで無く体の作りにまで関与する。


 人間進化論―――シフィーが前世にて生きた世界にある話で人が猿より生きるのに適した体に進化したが如く、このキメラは一代にて進化。


 腕を生やす要領で背に翼を生やして、殴り上げられるだけの現状を脱する。



「撃ち落とす―――魔力形式(マジックフォーム )2nd( セカンド)



 作り出した鎖を伸ばし、逃げるキメラの翼を貫き。

 自由落下を開始したが、追いかける事はしない―――シフィーはキメラを殴り上げる度に魔力を波状的に放っていた。


 地上、その魔力を受けて目を覚ました者が居る。


 一度はこのキメラに敗れ、手も足も出なく瓦礫に埋もれたその男。


 屈辱は無い―――あるのは、弱き己に対する怒りのみ。


 それを払拭する方法は、キメラと戦うしか無い。


 男の心は燃え上がる―――ここで再度立ち向かわねけば不甲斐なく、己の目指す存在になれはしないと。



「お目覚めね、ヒーロー」


超・集中型量子崩壊砲スーパー・ステラバーストッ!!!」



 目覚めたブルーノにより放たれたビームが、キメラにダメージを与える事はない。

 だがキメラの鱗と衝突すると、炸裂せずにその体を押し上げ空中の亀裂へと押し上げ。


 シフィー達の目指した勝利へと突き進む。



「この街を、これ以上傷つけさせはしないッ!!!」

 


 叫び、最後の一押し―――だが、亀裂寸前にて魔力切れ。


 先の戦いで散々魔力を消費したのだ。

 今放った超・集中型量子崩壊砲スーパー・ステラバーストも体に無茶を効かせて搾り出した残りカスの様なもの。

 ここが、現在の限界点だ。



「っ…………力、足りずか。尻拭いを頼む!」


「任せなさいな」



 自由落下の再会よりも早く、シフィーは羽ばたき空で勢いづいてキメラへ拳を振い。


 最後の一押しを行った。


 キメラさ亀裂に体の一部が入った瞬間吸い込まれる様に消えて行き、その気配が完全消失―――亀裂もすぐさま閉じて、空には元通り何もない。


 所謂BOSS戦は終わった―――このミレニアム防衛戦は、シフィー達の勝利である。

 

あの曲って、パルプフィクションだったんだね


(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

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