Sunflower, don't sink.
反射され、グリフォンに直撃した魔力砲が炸裂して酷く土起こりを巻き起こす。
もうグリフォンの魔力はない―――見ずとも、討伐完了は理解出来た。
生き残ったエリオスは徐々に体が回復し始め、槍を杖にしながらなんとか立ち上がり辺りを見渡す。
「アイアス…………! どこだアイアス、返事をしろ!」
「そんな大声を出さないでも聞こえてるわ……………ここよ、エリオス………………」
「っ…………アイアス!」
声の聞こえた方へと突き進む。
魔力砲炸裂の爆風に飛ばされ、元居た居たより随分と離れた位置で瓦礫に凭れるアイアスを発見。
口より血を漏らし浅い呼吸を繰り返し、肋骨が肺に刺さった様子―――四肢も拉げ、回復するしないで立てるものでもない。
「お前、自分に防護結界を張らなかったのか…………?!」
問われると、それを肯定する様にアイアスは小さく笑い。
照れ隠しをする様に目を伏した。
「防護結界無しじゃこうなるって分かってた筈だ! にも関わらず…………何故俺を優先した!」
「死にたくはないわ…………でも、それよりも死んでほしくなかった。私の中での優先順位が貴方の方が…………エリオスの方が大事だった。それだけの事…………」
言い終えると咳き込み―――更に血を吐く。
目元はすっかり力無く、視界は掠れている。
「もう時間がない…………だから、知ってると思うけど言っておくわ。好きよエリオス…………ずっと、ずっと昔から好きよ…………」
「こんな時に何言ってんだ…………! すぐに医療兵の元に運ぶ、それまで静かにしてろッ!」
「こんな時だからよ…………知ってるんだから、エリオスが私を好きな事」
「なっ…………!」
「やっと眉間のシワがなくなった…………最後なんだから、怖い顔なんて見せないで頂戴…………」
息をするだけで全身が痛む程の重症にも関わらず、痛みよりも胸の高鳴りが勝る。
強がりながらも意識は途絶える寸前―――血が足りず、頭の回転も遅くなる。
「呪いを残す様で申し訳ないけれど、その…………これが、私なり精一杯の告白…………出来れば、返事が欲しいわ…………」
「…………ああ、分かったよ」
静かに言うと、エリオスはアイアスに抱きつく様に密着して首元に腕を回し。
アイアスが何が起きているのか混乱している間に、拉げた足の付け根にも腕を回す。
「エリオス…………何を…………?」
「医療兵んとこまで行く。俺は恋人が死ぬのをただ見てるような馬鹿じゃねえんだ…………!」
駆け出したエリオスの腕の中、胸板に当たった耳で鼓動を感じ取りながらアイアスは静かに目を閉じる。
息は更に小さくなり、目は光を受け取らなくなり―――次第に力が抜ける。
「ああ……………貴方の胸の中で最期を迎えられるだなんて…………助けられてあげられなくて、ごめんなさい……………」
「俺の足ならすぐに着く! もう少し、もう少しだけ耐えろ!」
その瞬間、魔物の群れの中で戦うミリスと目が合った。
ミリスとて一眼見てアイアスに復活の望みがない事は理解出来た―――だが、止めない。
視線で行けとも言わず、すぐに目を背けて完全に意識を戦いに戻し、その姿で行けと伝える。
「そんなに悲しそうな顔をしないで…………私は今、本当に幸せ…………いえ、今までもずっと、貴方の横で、幸せだったの………………エリオス、大好き」
小さくなった息は軅感じ取れぬ様になり、表情は微笑んだままで固まり、腕の中の体が僅かに重みを増す。
脈を測ったわけでは無い、瞳孔を確認したわけじゃ無い―――だが、エリオスは確信を持った。
今、この瞬間、アイアスは死んだと。
確認はしない―――この確信を事実に変える事は、エリオスには出来ないのだ。
「死ぬな、死ぬなアイアス…………!」
もはや返事のない叫びが戦場に響く。
エリオスとて体は満身創痍―――アイアスを医療兵の元へ連れて行くという気力だけで動かしていた体だ、こうもなれば足が限界を迎え絡れ、横転。
自分の体でアイアスの遺体を庇い、下敷きに―――意図せずとも実感してしまう、自身に覆い被さったアイアスの生気のなさ。
動き出す気配も、脈も、大凡生物と呼べる特徴は残っていない。
確信が現実へと変わり、叫びは慟哭へと変わった―――エリオスの心は、完全に折れてしまった。
少なくとも、この戦いでは完全に復帰不可能な程に。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
ミリスは考える―――アイアスは助からないであろうと。
ミリスは本来、希望的観測を愛する楽観主義者だ―――だが、一瞬だが目の合ったエリオスが抱えていたアイアスの体は、希望的観測を少しも許さぬ残酷な現実の姿そのもの。
冷静に戦況を見て戦力を考えるならば、エリオスはアイアスを諦めこの場に残り戦うべきだ―――だが、ミリスはこの状況でなおそれは正しくないと考える。
今の自分はジュエリーに魔剤を貰い戦場に出て、シフィーに任され魔物の群れの中に居る。
単身で戦っていようと、独りでは無い。
だがアイアスを失ったエリオスの心はどうだ―――常に隣立つ幼馴染を、そして側から見ても恋心を持つと分かる相手を失ったエリオスは、独りだ。
ロロペチカ家のとある家訓を、ミリスは持論として持つ―――人が人たり得る理由は、戦う理由が孤独で無いからだ。
例えば誰かを助けるために、例えば誰かを倒すために、戦いの理由にはそんな誰かが無くてはならない。
誰のためでも、自分のためですら無く戦うならば、その姿は最早人で無く機械―――のんな物を、人と呼んではいけないのだ。
故に、ミリスはエリオスを行かせた。
愛する者を失ってなお、エリオスを人のままにするために。
(更新状況とか)
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