表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/120

結果と代償

「ねえエリオス、帰ろうよ! 明日には村長さんが冒険者に依頼をするって言ってたし、私達が行かなくてもいいじゃない………………」


「私達って、お前が勝手に着いて来てんだろ。魔獣の畑荒らしなんかに冒険者なんて呼んでたら、うちの貧乏村は三日で潰れるぞ」


「でも、危ないし…………!」


「あ〜もう、お前だけ帰っていいよ面倒くせえ」

 


 エリオスとアイアスは、揃って貧乏な村で育った。

 この日エリオスは畑を荒らす猪の魔獣を討伐するため、納屋にあった古い槍を持ち山に入り。

 そして目ざとくアイアスに発見され、今だ。



「別に魔獣なんて良く出るものでも無いし、今回冒険者に頼むぐらい別に――――――」


「静かに、アイアス」



 順調に山道を進んでいる途中、突然エリオスがアイアスの口を塞ぎ。

 そのまま姿勢を低くして生い茂る草の中より先を見る。


 立ち上がった成人男性程の大きさがある猪の魔獣―――それが直ぐ先で、鹿の死骸を貪っている。



「デケェな………………」


「やっぱり帰ろうよ、あんなの槍一本じゃ勝てないよ…………」


「まだ分かんねえだろ」


「いつ分かるの?」


「今に分かる!」



 引き金を引いた様に、エリオスは飛び出す。

 当時よりエリオスは魔力による身体強化を取得済み―――魔獣の背を遥かに超える跳躍を見せて、首根っこに槍を突き立てた。



「っと! 思ったよりも暴れやがる!」



 激しく首を振る魔獣―――槍にしがみつき、なんとか振り下ろされぬ様にするエリオスだが、それではこれ以上のダメージは与えられない。


 普通の獣を相手するつもりでエリオスは上から首を狙ったが、このサイズの魔獣相手では顎の下から喉を狙わなければ命に届かない。


 ならばとエリオスは槍を引き抜き飛び―――空中で身を翻しながら次の攻撃に繋げるべく魔獣へと目を向けた。



「やっべえ…………!」



 目を向けた瞬間、既に魔獣は攻撃を開始しており。

 その鋭い牙、硬い額を武器としてエリオス目掛け突進をしていた。


 身体強化最大の上で、体と魔獣の間に槍を挟んで防御。

 突き飛ばされはしたが五体満足と思った矢先に、魔獣の突進はまだ終わっていない事に気づく。



「エリオス、動かないで!」



 アイアスが叫んだと同時、魔獣が結界に衝突し突撃は停止。

 その隙を狙いエリオスは立ち上がり駆けると、喉を槍で切り裂いた。

 魔獣を仕留めた二人は、山を下ると一部の大人に褒められ、一部の大人に叱られ。

 そして、最後には大変だったと笑い合った。

 

 元々、戦闘の才能はエリオスよりもアイアスの方が上―――魔力を先に操ったのも、エリオスに身体強化を教えたのもアイアスだ。


 エリオスはアイアスの、力を持ちながら自分のためにと振り翳さない人間性が好きだった。

 決して自己の感情に任せて力を扱わず、今の様な誰かの危機に初めてその実力を行使する。

 そんな性格が好きだった。


 アイアスは普段は文句を言いながらも、誰かのために凶暴な魔獣に立ち向かう勇気や、人々を照らす太陽の様な明るさのあるエリオスが好きだった。


 故に、エリオスはこの戦いの少し後に旅に出た。

 見知った村人の側でこそ実力を発揮出来るだろうアイアスを残し、一人で村を発とうとした。

 アイアスはそれを当然の様に察知し、当然の様に着いていった―――あの魔獣との戦いで、自分がいなければエリオスは死んでいた。

 自分の知らないところで死んでいたに違いない―――そんな考えらから、放っておけぬと判断して着いていくことに決めたのだ。


 あの日から、自分が太陽(エリオス)を護ると決めたのだ。


 


 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘




 魔力砲の威力は依然弱まらず―――だが、他魔物の戦力は減りつつあった。

 ミレニアムの衛兵達が操る魔導具、魔導兵達が支度を終え動き始めたのだ。


 性能は機械ならではの死を恐れぬ突撃力と、劣化版ではあるがブルーノのビームを再現した攻撃手段と上々。

 キメラとグリフォン以外の魔物は、この魔導兵で大方相当可能であろう。


 そうなれば、やはり問題はこのキメラとグリフォン。

 特にグリフォンに関しては、敗北の危機に瀕しているのだ。



「俺の事はいい! だからとっとと退きやがれアイアス!」


「それが出来るなら、私村から出てないわ…………! エリオス、私貴方の刻印術、本当に凄いと思うの」


「突然何言い出してんだ…………?」


「新しいものの開発、とても素敵だわ………………だから、私も真似して一つ、新しいものを作った」



 言うと、アイアスはエリオスに全力の防護結界を重ねがけしてから、一度深く深呼吸を―――そして、僅かに震える手で結界に注ぎ込み続ける魔力を打ち切った。



「運が良ければ生き残れるわ―――見せてあげる、エリオス。これが私の奥の手」


「お前、何をっ!」



 瞬間、アイアスは結界を解除―――そして、新たに別の結界を張った。

 受ける魔力の反転効果が付与された結界であり、アイアス作り出した全く新しい魔術。

 元の結界程の防御力はなく、一瞬にて砕け散ったが、その一瞬で魔力砲は跳ね返されグリフォンの元へと帰り炸裂。

 二体のグリフォンを同時に討伐してしまった。


 刻印解放という新技術を作り出したエリオスの相棒を勤めても誰も異論を上げることの出来ぬ結界術の天才、アイアスの奥の手と呼ぶに相応しい成果―――それは確かな結果と代償を持って、この戦場における一つの局面を決着させた。   


(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
Xの方から伺わせていただきました! この物語に対して、異世界転生ものの定石的な要素を汲み取りつつも、ゴシックで小洒落た感じや厨二感のある格好良さを目指した作品という印象を受けました! 安易に立身出世…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ