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恐るるは落陽

「任されたはいいものの………………キリがございませんこわね」



 既に百以上の魔物を倒したミリスだが、一向に終わりの見えない戦いに消耗し肩で息をし始める。

 魔剤を飲んで活性化させた魔力も枯渇し始め、敵戦力とミリス―――どちらの終わりが近いかは一目瞭然だ。



「こうなりましたら、残った魔力でもう一度始祖の獣(モード・ビースト)に………………」


「戻ってきたらこれたあ、シフィーの嬢ちゃんも人使いが荒いってモンじゃあねえな」


「それに、この大群に一人を当てるだなんて人員投下が下手過ぎるわ。人事には向かないわね」


「まっ! 貴方方は!」



 ヤケクソ気味に最後の魔力を使い果たそうとしていたミリスの前に現れたのは、既に若干ボロボロのエリオスとアイアス。

 あの 砕けたダンジョンでただ二人のみの力でドリアードを討伐し駆けつけた。


 シフィーの移動速度には遠く及ばぬが、それでも馬など比べ物にならぬ速度で。



「さて、ミリスの嬢ちゃんよ―――オレ達が来たからにゃあもう安心だな! どうする、休んでっか?」


「いえ…………これはシフィーさんが(わたくし )に預けてくださった戦い! (わたくし )、最後まで戦いますわ!」


「よく言ったッ!」



 エリオスは槍を超低姿勢で構えると魔物の大群目掛け突撃。

 ダンジョンからここまで、既に刻印開放は発動済み。

 渦巻く魔力が、ただの単純な突きを数十の魔物を纏めて屠る必殺の一撃へと変貌させる。



「私の魔力を少し分けてあげるわ―――私もあまり余裕があるわけじゃあないから節約して使いなさい」


「アイアス様! これだけ頂ければ充分ですわ、感謝致しますの!」



 言うと、ミリスはエリオスの暴れる魔物の群れへと突撃を開始。

 武器が魔導銃とはいえ、ミリスの戦闘スタイルは近距離戦。

 自分より一回りも二回りも大きな魔物の懐へと潜り込み、超至近距離で魔力弾を撃ち放つ。


 背後に近づく魔物は銃の底で打ち、怯んだ瞬間に魔力弾を撃ち込んで処理。

 遠距離攻撃は最低限の動きで回避して元を辿り射撃。


 獣人の濃い血によって与えられた超人的な反射神経あっての紙一重な戦闘には、思わずエリオスも関心してしまう。



「アンタ中々やるなあ! これなら一級冒険者に推薦してやってもいい!」


「光栄ですわ!」


「喋ってないで………………大きいの、来るわよ!」



 アイアスの言う通り、遠方より民家から頭が出る程のサイズがある魔物が飛来する。

 鷲の頭、獅子の体、蛇の尾と、どこかキメラに似て複数の生物の特徴を併せ持った魔物―――グリフォン。

 かつてシフィーがエルモアース領付近で討伐した個体達よりも大きな個体だ。



「俺が狩る、お前らは雑魚を仕留めろ!」



 自身を囲む魔物の群れを蹴散らすと、エリオスはグリフォンに向かい一直線。

 胴体に向かって槍を振るうが、分厚い毛皮で刃が滑る。



「だと思ってよ、土産モンだ」



 エリオスの動線上、尾を引くように残された魔力の線に新たな魔力が送り込まれる。

 続く先はグリフォンの胴体、槍の刃が当たった位置―――そこには、肌に起爆の刻印術が刻まれた魔導具、爆札が貼られていた。


 魔力が届き次第ソレは起爆。

 グリフォンの腹を焼き、僅かながら有効打を与えた。



「火…………なら、切り替えるか。刻印開放!」



 螺旋の魔力を作り出す刻印術に重ねられた、別の刻印術へと魔力を流し込む。

 炎の刻印術―――通常時は傷口を僅かに焼く程度のものだが、こうして魔力を流し込めば、螺旋の魔力が炎に変換され。

 全ての攻撃に炎による追撃を重ねられる。


 再度槍を構え突撃―――今度は槍が滑ろうと、纏う炎がグリフォンの毛皮を焼いて確かなダメージが確認された。


 通常の魔力による身体強化と刻印術による身体強化の重ね掛けが行われた状態での超速にて行われるエリオスの連撃―――グリフォンは空気を震わせる大音量で鳴き、苦しみを訴える。

 

 我慢の限界と堪らず飛び上がったグリフォンを追うようにエリオスも跳ね―――そこにアイアスによって地上より、魔力弾の要領で空高く登るための結界で作られた足場が送られる。


 グリフォンよりも上に登り、飛び降り首を落とそうと槍を振い―――回避不可能な速度、充分な火力、そして刃が滑らない角度を完璧に捉え。


 次の瞬間―――エリオスの体は強い衝撃を受け、弾き飛ばされていた。



「エリオスっ!!!」



 アイアスの叫び声が響いた頃には、エリオスは民家を下敷きにして倒れていた。


 朦朧とした意識で空を見上げる―――衝撃の正体は、もう一体のグリフォン。


 グリフォンとは、そもそも群れで行動する魔物―――後から一体遅れてやって来ても、なんら不思議では無い。


 二体のグリフォンが地上へと降り立ち、後からやって来た個体が口を大きく開く。


 狙いは捕食では無い―――口の中に、魔力が集められている。

 ソレは魔物の中でもごく一部の個体のみが持つ、魔術行使という手段。


 ここまでの戦いを遠方より観察していたこのグリフォンは、エリオスに直接攻撃をするのは危険と判断して触れずに殺すと決定。


 放たれるのは魔力弾ではない。

 一度放てば敵を仕留めるまで魔力放出を続け、やろうとすれば魔力が切れるまで絶え間なく攻撃の続く上位魔術―――魔力砲だ。



「………………クソがッ」



 体が動かず、回避も叶わないエリオスが呟いた。

 視線は真っ直ぐグリフォンに向け―――最後まで魔物などに媚びず、敵意を向け続ける姿勢だ。


 それとほぼ同時、墜落したエリオスをアイアスが発見。

 だが距離が遠く、結界の長距離展開では魔力砲の威力を抑えきれない。


 どう対処するかと考えるよりも先、アイアスの体は動いていた。


 魔力の残量を考えぬ速度での高速飛行でグリフォンとエリオスの間に割って入り、結界を展開する。


 

「アイアス、逃げろ………! 防ぎ切れない…………!」



 発射された魔力砲は、すぐにアイアスの結界に亀裂を入れた。

 エリオスの想定通り、この結界は長く持たない―――既に結界のヒビより漏れ出した魔力がアイアスの体を焼き、腹を貫いている。


 今ならば重症で済むが、あと数秒後には死体が跡形もなく消し飛ぶ威力の魔力砲を全身に浴びることとなり。


 アイアスが取れる自らが助かる方法は、エリオスを見捨てる他になかった。



「エリオス様! アイアス様!」



 二人の様子に気づいたミリスが駆け付けようとするが、他多くの魔物がそれを許さず。

 一瞬二人に気をやった隙に、背後から迫った魔物に突き飛ばされる結果となった。



「私が逃げたら、貴方死んでしまうでしょう…………?」


「俺の事はいい! だからとっとと退きやがれアイアス!」


「それが出来るなら、私村から出てないわ…………!」



 結界に魔力を流し亀裂を修復。

 だが直した先から結界には亀裂が走り―――グリフォンとアイアス、どちらの魔力が先に切れるかという見え透いたレースが行われている。


 こんな状況にも関わらず、アイアスの心にある感情は恐怖ではない―――懐かしき日々を思い出し、ある種喜びにも似た感情を抱いていた。


 アレは二人が故郷を出る前の日々。

 今から十年も前の日常であった。

読んでくださりありがとうございます!

もし面白いと思ってくださった方は、レビューや感想、ブクマなどもらえると嬉しいです!


(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

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