不死の怪物
「へえ、これが例の報告の…………確かに、比較に私を引き出すだけの事があるわね」
箒に乗った女が深く抉れた山々を見ながら言う。
楽しそうに微笑み、真っ赤なルージュの塗られた下唇を舐め、空気に溶け切らず残った魔力の痕跡を手に掬い取って口に入れて舌の上で転がす。
「濃っ厚…………! たまんない、ゾクゾクしちゃう………………シフィー・シルルフル。欲しいわ」
漏らした赤い吐息同様、女の全身に熱が回る。
欲情した様に頬を赤らめ、蠱惑的な視線をミレニアムへと向け―――箒を二度軽く叩いた。
それが発進の合図―――箒は視線の方向目掛け水平移動を開始。
彼女の名はアドミニストレータ。
ジュエリーやブルーノと同じ、冠級冒険者である。
今ミレニアムに、世界に五人しか存在しない冠級冒険者の内三人が集結しようとしていた。
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「魔力形式・2nd」
シフィーが出した十の鎖が、キメラの全身を貫く。
鎖が刺さったたまにも関わらず、傷口はブクブクと泡立って肉を生やして癒着。
体から鎖を生やした様な形となる。
そこ鎖を勢いよく振い、キメラを上空へと投げて魔力弾を二十発撃ち込み―――これも全てキメラの鱗を砕き貫通するが、即座に断面が泡立ち傷は消えた。
「苦戦している様じゃのお」
「シフィーさん、私完全復活致しましたわ!」
ジュエリーと、魔力の回復したミリスが到着。
ヴィンセントはスピカの面倒見で留守番として、この追加戦力二人で戦況がどう変わるか―――それをシフィーは計りかねる。
「魔力はもう平気なの?」
「魔剤キメて来ましたわ!」
「何その…………眠い時に飲みそうな名前のものは」
「魔力回復促進剤ですわ!」
「そう、きっと飲み過ぎは良くないのでしょうね―――アイツ傷は直ぐに再生するわ。気をつけて」
簡単に忠告を済ますと、シフィーは再度キメラへ立ち向かう。
吐かれたブレスを魔力形式・5thで防ぎながら、魔力形式・2ndの鎖をキメラの首にかけて強く引き。
斬撃や魔力弾がダメならと、自分の眼前まで引っ張られたキメラを全力で殴る。
衝撃か内部に響くどころか、キメラの体は耐え切れず破裂。
最も頭に近い肉片が泡立ち、全身が再生した。
「このレベルの再生…………では、空間ごと体を捻び切られればどうなるか見せてみるのじゃ」
ジュエリーが言うと、キメラの立つ空間が歪んで体が中心で捻じ切れ。
傷口同士が重なり合い、再生する肉体の存在する空間が出来ない様に傷を与えた。
しかし傷口を覆う別の傷口を突き破りながらも、キメラは最終的な完全回復を目指して再生。
この攻撃も全く効いていない様子で、ジュエリー目掛け拳を生やし振るった。
「ややっ、中々の怪力っ! 儂でも楽しめそうじゃのお」
拳を鞘から抜かない太刀で防ぎなら余裕綽々と言う。
抜刀し、その伸びた腕を断ち切ると太刀を放ってキメラの頭部に突き刺す。
自身も後を追って飛びつき、太刀の柄を握って刃伝いで魔力を流し込み弾けさせ。
頭部破裂という大ダメージを負わせるが、数秒で無かった事になる。
「訂正、楽しくないわこれ―――儂じゃ切り心地も何も無いし、どんだけ攻撃しても直ぐ治るし。何が楽しいんじゃこれ?」
「これどうやって倒すの?」
「殺さないで封じるか、再生の核がある事を祈って探すかじゃな」
「確実な方でいきましょう」
二人が話し合う間、魔導銃をキメラに向かい撃ちまくるも毛程のダメージすら無く。
何か仕組みがある様な口振りでキメラにダメージを与えるジュエリーと、単純な攻撃力でキメラにダメージを与えるシフィーは、やはり異質なのだと再確認する。
「私何をすれば良いでしょうか?!」
「魔族は消えたけど魔物は残ってるしやって来る。ミリスはそっちをお願い!」
「お任せくださいましっ! 私、シフィーさんのお力になりますわよ!」
キメラという巨大な肉が弾け、砕け、打ち付けられる音―――そして吹き出す血に反応して多くの魔物が現れた。
魔物の展覧会とでも呼べそうな程多種多様な魔物の数々。
キメラを相手しながらそれぞれの特性を見分けて対応するのは面倒と判断して、処理はミリスへと預ける。
「シフィーさんに任せられたこの仕事、私張り切って参りますわ―――始祖の獣」
初めから全力―――一時的に純一級と同格の魔力を得たミリスの操る魔導銃は先程までと段違いの威力を誇り。
一撃十殺の規模で戦闘を進めて行く。
「あの娘も中々のモンじゃの―――十年も儂が鍛えればヴィンセントにも並ぶじゃろう」
「よそ見しないで、やるわよ」
「真面目じゃのお。しゃーなし、封殺してやるかの」
二人はミリスからキメラへと視線を戻し。
鎖と太刀を持って戦闘体制を取る。
「儂が封じる、テメェさんが運べ。あと準備が済むまで時間を稼ぐのじゃ」
「了解よ」
応えるとシフィーは跳ぶ―――元居た位置には光線が通過していた。
ゲイザーの扱う精神崩壊の性質を持つ光線だ。
「瞳ね、危ないわ―――魔力形式・7th」
空中で翼を生成して羽ばたき。
上空から見える燃える街に僅かながら目を細めてから、キメラへと突き進む。
敵の頭が逃げた今、シフィーにとってこの戦いに大義は無く―――ただ単に、憂さ晴らしである。
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