キメラ
「………………いやあ! 辛くなってきた!」
民家の瓦礫に埋もれながらブルーノが言った。
視界の先には一体の魔物―――しかし、その姿は幾重にも複数の魔物が重なり合った様な異形だ。
魔物複合体、キメラ。
名の通り、複数の魔物を人為的に重ね作られる魔物の変異体―――その力は強力無比であり、様々な魔物の能力を併せ持ち複雑な攻撃手段が特徴。
にしても、通常であればブルーノ一人で余裕を持って対処可能な存在だ。
だが今回は例外―――この個体は魔王軍がミレニアム侵略に際して作り上げた特注品。
魔物の中でも選りすぐり、竜種なども混じった特殊個体だ。
「ドラゴンの鱗とブレス………………スライムの再生力とマーメイドの不死性、グリフォンの動体視力。それだけではないな………………困ったな」
瓦礫を退かして起き上がり、不退転の姿勢で再度キメラへと挑む。
勢い良く飛び上がり、顔面部分目掛け拳を一撃叩き込み。
相変わらず効いて居ないと見るや否や、拳を解いて掌を向ける。
「集中型量子崩壊砲ッ!」
叫び、超至近距離にてビームを放つ。
だが反応して放たれたブレスにて相殺され、それどころか首より突如生えた腕によって殴り飛ばされる。
「ゴブリン特異体の増殖性まで持っているか…………小賢しさまだ兼ね備える必要はないだろうに…………!」
手足からの魔力噴射で空中にて姿勢を整えつつ、新たな攻撃を放つべく掌をキメラへ向け。
普段よりも長く、魔力の圧縮を行なった。
「超・集中型量子崩壊砲ッ!」
またも、キメラはブレスを放って相殺を狙う―――だが、今度は様子が違った。
元々の集中型量子崩壊砲は集中型とはいえ人一人を丸々覆える程度の攻撃範囲があったが、今度のものは拳程度の範囲しかない。
だがその分貫通力特化であり、ブレスの中を突き進み―――そして、鱗へと届いた。
「やったか…………!」
魔力の炸裂を確認して言う。
だが、ブレスの煙が晴れた先に見えた景色は僅かな焦げ跡―――内部には、全くと言って良い程ダメージが通っていなかった。
「全く、効いていないのか…………」
超・集中型量子崩壊砲は、ブルーノが街中で使える攻撃の中で最高攻撃力。
これ以上を使うのであれば街が滅ぶ―――故に、ブルーノは立ちすくした。
これ以上の手が思いつかないのだ。
そんなブルーノの全身に対して、キメラの生やした拳が叩き込まれる。
殴り飛ばされ、民家五つをクッションとして漸く勢いは停止―――ブルーノの意識は絶え、キメラは自由の身として街に解き放たれた。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「やっぱ今は、こっちのがやりやすいわ…………!」
「らしいな…………!」
火花が散る―――ガントレットと太刀で打ち合い、互いに互角の攻防を。
普段の魔物相手とは違い、全力での攻撃を放とうと軽く流されてしまう。
故にこうして流れに乗った戦いを行うしかなく、口ではやりやすいと言いながらもシフィーは苦い思いをしていた。
「魔力形式・ 6th」
言うと、魔力の赤いマントが現れ、その表面より赤い魔力の霧が放たれ始めた。
赤いマントはその霧によく馴染み―――まるでロンドン、切り裂きジャックの様にシフィーは消えた。
「魔力形式・1st―――私が見えないでしょう? 魔力で探知しようにも無駄よ。この霧は全てが私の魔力。私に包まれている様な心地じゃない?」
「産まれたての様な心地だ―――良く、冴えわたる!」
シャルマンは魔力の霧の中、魔力が濃い箇所を発見して太刀を奮った―――だが空振り。
そこには、宙に浮いた魔力弾が一発。
それに気づいた瞬間、魔力弾は発射され顎を強く打った。
「冴えわたる? ニブチンじゃないの」
「小癪なッ!」
背後より忍び寄り、シフィーの刃がシャルマンの首筋に食い込む。
刃を引くよりも先、シャルマンはその刃の背を掴んでシフィーに向かい太刀を振い―――それを肘で叩き落としたシフィーが魔力の霧を手元に集めて第二のナイフを精製。
次こそトドメと、再度首筋目掛けて振るう。
瞬間、ソレは現れた――――――異形の怪物、キメラ。
さらにその後方より、キメラを追った二人の冒険者が飛び出した。
「油断しやがって!」
「くたばりやがれッ!」
双方その叫び声と共に、剣を振るう―――全くの意の外からの攻撃だ。
されど、相手はブルーノすら刃の立たなかったキメラであり、基礎スペックが違う。
僅かな傷すら付かず、剣の方が折れてしまった。
「既に随分と暴れた後の様だな―――面白くは無いが、我々は撤退か」
言うと、シャルマンは掴んだシフィーを投げてため息を一つ。
数度手を叩くと、街中より魔人達の魔力が消えた。
「逃げるつもり…………?」
「不服だがな。何、また出会う―――次は決着をつけようぞ」
「逃がすとでも?」
「追わせんわ」
「?! 魔力形式・5thっ!」
キメラがシフィー目掛けブレスを放つ。
即座に防御壁を張ったシフィーだが、その時既にシャルマンは空間に謎の穴を開いており。
その先へと消えて行こうとしていた。
「っ…………待ちなさい!」
「さらばだ、シフィー・シルルフル―――隠されし、我らが真の神子よ」
読んでくださりありがとうございます!
もし面白いと思ってくださった方は、レビューや感想、ブクマなどもらえると嬉しいです!
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




