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憧れのダンジョン

「指名依頼?」


「ええそうです…………シフィーさんと、一級冒険者のエリオスさん、アイアスさんに、名指しでのダンジョン探索依頼が」



 ジュエリーの衝撃発言により暫く入院した結果か、いつもより少し顔色の良いシェリンが言う。


 スピカとの生活が始まり一週間が過ぎた頃―――冒険者ギルドに呼び出されたシフィーはとある依頼を受けた。

 

 それはミレニアムの街より約二十kmの距離にあるダンジョンの探索。


 そのダンジョン自体はずっと昔に発掘されて以来、多くの冒険者に探索され尽くした筈の場所―――しかし先日、新たな通路が発見された。


 危険度は未知数―――故に、ダンジョン探索に慣れたエリオスとアイアス。

 そして先日街中で、レゴリスとの見事な戦いを繰り広げたシフィーに白羽の矢が立ったという訳だ。



「ジュエリーなんかは呼ばないの?」


「勘弁してください…………あの人はなるべく触れたくないですし、単純に高いんですよ………………」


「高いって依頼料の話よね? どれぐらいになるのかしら?」


「そうですね………………大体、都市開発が出来る程度でしょうか」


「それで依頼なんて来るの?」


「あるにはありますよ。七王竜の襲撃でしたり、魔族の軍勢が攻め込んできたりだとか…………まあ、ここの様な王権都市が滅びかねない危機なんかだと」


「成程―――じゃあ無理ね、了解したわ。依頼を引き受けましょう」


「ではダンジョン探索の申請はこちらで出しておきますので、明日以降一週間以内に向かわれてください………………どうか、お気をつけて」




 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘




 次の日、シフィー達は街を出た。

 

 ミリスには三日ほど空けると伝え、何かあった時緊急用に連絡用魔道具を渡した。


 目的地のダンジョンには昼頃到着―――入る前にしっかりと持ち物に不足が無いかを確認したら、いざダンジョン探索スタート。


 入り口の地点で、既にシフィーの口角は緩んでいる。



「やけに嬉しそうだな、シフィーの嬢ちゃんよ」


「ダンジョンなんて、RPGらしさそのものだもの…………!」



 入場手続きを済ませて、いざダンジョン―――一歩踏み入ると、中は濃い魔力が不規則に漂う空間。

 魔力を糧として生きる魔族のシフィーとしては、ただ歩くだけで水中とその外を出入りする様な心地だ。


 苔の生えた石のタイルに囲われた上下左右、日の当たらない地下を照らす松明、そして遠方漂う魔物の気配。



「テーマパークに来たみたい、テンション上がるわ」


「何を言ってるの?」


「ハッ、テーマパークにしちゃあ酷でえ死臭なこって」



 ダンジョンとは、別名魔力溜まり―――遺跡や洞窟などに魔物由来の魔力が溜まり、簡易魔界の様な状態を作り出している。


 内部には大量の魔物が存在し、遺跡洞窟に眠る秘宝文明の発見を遅らせる大きな原因となっており―――それを討伐、探索するのは、冒険者に多く回される仕事の一つだ。



「今回見つかった隠し通路っていうのはどこにあるの?」


「すぐそこだぜ―――要領は刻印術( エンチャント)と変わらねえ。決まったタイルに順番に魔力を注いで、この通路一帯を魔法陣として成立させる。まあ俺のオハコってわけだ」



 四方八方、エリオスの指示でアイアスが魔力を流す。


 すると壁の一面が稼働し、更に地下へと続く階段が現れ―――それこそが、此度新たに発見された隠し通路である。



「行くぜ―――こっからが、冒険だ」



 連続する一瞬の選択こそが常に隣立つものであり、友である―――冒険者ギルド創始者、ベディヴィアの言葉だ。


 未だ松明の設置もなく一寸先は闇―――潜む魔物の数、危険度、そしてトラップ。

 それら全てが未知数であり、一瞬の選択ミスが命取りになる魔境。


 かつてベディヴィアの語った理念が、己の創設した組織、冒険者ギルドの冒険者達によって再現される。



「ランタンを起動しろ、進むぞ」



 魔道具、自己浮遊提燈(ランタン)

 少量の魔力で浮き上がり、一定範囲を照らしながら使用者の半径一メートル以内を自動で追走するという物だ。



「明るくしたら、面白いものが見えたわ」


「生憎だがありゃ面白かねえぜ―――雑魚だ、俺とアイアスでやる」



 ランタンで照らされた先、見えたのはネズミの骨の様な魔物、ボーンラット。

 エリオスは槍を構え突撃―――アイアスはそれを追う様に魔力弾の援護を放ちつつ、メインはエリオスの死角の防御壁の展開に専念する。



「あの程度の魔物じゃあ、エリオスの刻印術(エンチャント)付きの服を突破できないんじゃないの?」


「あのタイプの魔物は大体呪いを持ってる…………厄介ですよ」


「成程ね―――私も行ったほうがいい?」


「不要です。私とエリーだけで充分です」


「エリー? 随分と親しい中なのね。男女で愛称だなんて、私ドキがムネムネしちゃうわ」


「バカ言わないで下さい―――私とエリーは同郷の出、それだけです」


「幼馴染だなんて、萌えるわ」



 雑談しながらもアイアスはしっかりと仕事を果たし。

 この程度の魔物相手ならば魔力弾も牽制ではなくダメージが入ると踏んで、攻撃の手を増やす。


 雨の様に降り注ぐ魔力弾はエリオスの動きを完全に見切り同線を塞がぬ様に放たれ―――熟年の仲、一言の合図もなく完璧なコンビネーションを披露する。



「勘ですが、貴女恋愛小説なんかを好みますね?」


「ラブロマンス、大好物よ」


「では先に言っておきましょう―――エリーは太陽、私は凡人。貴女の期待する様な仲には決してなりません。決して勘違いなさらぬ様に――――――」


「悲しいこと言ってくれるじゃねえか、アイアス。俺ァお前にぞっこんだぜ?」


「ひゃあっ!?」



 情報の訂正に一瞬夢中となったアイアスは、突然真横から響いたエリオスの声に悲鳴を上げる。

 フードを摘まれ、その顔を露わとされ―――シフィーの目の前で初公開されたその顔は、ハイカラでなく田舎っぽさが残りつつも非常に整った可愛らしい顔立ちの、宝石の原石であった。



「可愛い………………」


「おっ、分かるかシフィーの嬢ちゃん! そうなんだよコイツ可愛いんだよ。芋臭えからって顔を出したがらねえがよ、俺はそんな事ねえと思うんだよな」


「確かに垢抜けない感じはあるけれど、あるけれど! そこがとても可愛いわ…………! 何というか、幼馴染彼女のお手本みたいな………………私、田舎に生まれてアイアスと結婚したいわ」


「そうかそうか! アンタやべえな――――――見てみな、俺の事を太陽とか言ってやがったが、あの顔」


「あら、あらあらあら。アイアスこそ、照れて顔が太陽みたいに赤いじゃない―――本当に可愛いわ」


「…………っさい」



 小さなアイアスの声が、ダンジョンの闇に消えて行く。

 シフィーとエリオスの二人が何か言ったかと聞き返すと、今度は深呼吸―――そして、今度は更に顔を赤くして叫んだ。


「う…………うっさい、うっさい! さっさと奥に進むの! いい?!」



 話の流れに耐えかねたアイアスは叫んだ。

 その声は消えず、ダンジョンの闇の奥底にまで響き―――三人は、その闇へと更に歩を進める。


人生で初めてコスプレイベント見に来てる

楽しい



(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

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