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始祖の人よ

 種族には、それぞれ内訳として純度が存在する。 

 全くの純血―――他種族の血が全く混じらぬ始祖と同じ状態のものが純一級。

 種族としての個性が薄いプロトヒューマンの血が薄く混じったものが純二級。


 それ以外最低純六級までの純度が現状確認されており、血が純に近ければ近い程その生き物は魔力の質が良く、生き物として格が高いとされる。


 その中でもミリスは純二級―――純一級の獣人を母に持ち、父は他様々混じりながらもプロトヒューマンの血が濃く無個性の血。


 そんな血縁のミリスが扱う特殊な()()―――名を、始祖の獣(モード・ビースト)


 己の中に混じった純一級の血を覚醒させ、短時間ながら純一級レベルの力を扱う魔法だ。


 制限時間は、三百十五秒。



「ご機嫌よう―――って、随分と不機嫌そうですわね」



 獣人の女は、気づけば前後左右の感覚を失っていた。

 反射の外側にある速度で置いた防御に攻撃を叩き込まれ、気づけば飛行魔法の制御が狂っていたのだ。


 なんとか飛行魔法を立て直し、近くの民家の屋根に着陸―――獣人が好んで使う魔術、魔力による爪の拡張で戦闘体制を整えて、暫くは様子見に回ろうと判断した。



「向こうは任せてよさそうだな。では我々は奴を! 行くぞ、シフィー君!」


「ミリス…………あんなかっこいいのを隠していただなんて、ずるいわ」



 身に纏う魔力が熱となり炎の毛皮のように揺らめく姿を見て、文句を言いながらもシフィーは蛙のような低姿勢で構え。

 空に浮かぶ魔族目掛けて跳ねた。


 ブルーノは両手両足より魔力を放出して飛び上がり。


 やはりその特撮ヒーローじみた見た目の鎧と反して、挙動はアメリカのヒーローだ。



「次は君がメインだ!」


「オーケーよ、ヒーロー」



 飛び跳ねた勢いで通り過ぎざま振るったシフィーの一撃は回避され。

 勢い余った所で、身を回転させながら視線を魔族へと向け。


 即座ナイフを投擲した。



「………………」



 魔族は無言で回避―――無作為な投擲など、飛ぶ身をゆらりと逸らすだけで当たらなくなる。

 だが、その程度は想定済みだ。



魔力形式(マジックフォーム )2nd( セカンド)



 遅れ伸ばした鎖がナイフを追尾し、シフィー魔力同士接続される。


 ナイフを先端として、鎖は魔族の全身を巻き取り拘束。

 その瞬間、ブルーノは攻撃の支度を整えていた。



集中型量子崩壊砲(ステラバースト)ッ!」



 ブルーノの扱う長距離攻撃は、本来細かい粒子状の魔力をより細かく分解し、それを敵対存在の細胞に潜り込ませ内部で炸裂させるというもの。


 通常より細かい魔力は通常の魔力による防御を当然すり抜け、必殺の一撃と呼ぶに相応しい確実性を持つ。



魔力強制解除(マジックキャンセル)



 魔族が言った―――瞬間、ブルーノが放った攻撃の魔力同士の接続が解けて崩壊。

 攻撃は全くの破壊力を失い、ただの強風となって魔族に直撃した。


 ダメージはなくとも影響はあり、風は深く被られたマントのフードを脱がせていった。

 よって魔族の顔が露わとなる―――褐色白髪の、エキゾチックな雰囲気を纏う美しい女だ。



「正体は隠しておくつもりでしたが………………この街では顔さえ明かされればすぐさま調べはつくでしょう。ならば、自己紹介でもしましょうか」



 顔を隠す効果を失ったマントを脱ぎ捨て、魔族は胸元に刺したメガネをかける。



「私はレゴリス―――レゴリス・ベルフェゴール。魔王秘書を務める者です」


「まあ、そんな所じゃとは思っとったわ」



 その瞬間―――魔族の女改めレゴリスの心臓は、突如として現れたジュエリーの握る刀に貫かれた。


 この場に居る誰もが、刃が貫通するまでその存在に気づけず。

 

 レゴリスはシフィーとブルーノ二人を同時に捌ける程の実力者―――にも関わらず、他不意打ち可能なタイミングを見逃して正体を明かすその瞬間を待った。


 見逃す傲慢、勝利に加えたプラスの情報を求める傲慢。

 そして、それら全てが許される程の確かな強さ。


 これが冠級冒険者―――老獪ジュエリー・ラフェーリアである。



「魔王秘書といえば、最近ホルソン渓谷を落とした勢力の指揮官を務めておったらしいの―――これ、儂大手柄なのではないか?」


「流石ですね、始祖の人よ」


「それを知っているとは――――――」



 言い終えるより先、ジュエリーの言葉は強制的に中断されていた。

 

 そこにあったのは拘束回転する砂の円盤。

 ソレがジュエリーの首を落とし、なお回転を続けていた。



「全く、油断していました………………魔法なんていつ以来でしょうか」



 胸を貫いた刃が、体を透過したように落下する。

 だがよく見れば刃に付着した砂―――それこそが、レゴリスの扱う魔法の正体。


 己の体を砂と化、また砂を自由に操る魔法―――刃はレゴリスにダメージを与えてなどいなかった。

 ただ、砂の中をかき分けて貫通したに過ぎなかったのだ。


 魔法の使用によって拘束も容易く脱出―――この場の戦力とまともに戦い、無事切り抜けられるか。

 それを冷静に分析する。

 


「ジュエリー!」


「ジュエリーさん!」


「騒ぐな騒々しい―――首が落ちただけじゃろう」



 落ちたジュエリーの首が言う。

 拾われ、胴体側の断面に置かれ、癒着し。


 何事もなかったように、そこに健在した。



「死んだわけでもあるまいし、そう騒ぐでないわ」



 ジュエリーは平気な顔をして言った。

 首が落ちたにも関わらず、当然の様に。



「試すかレゴリスよ―――もう一度、砂になれるか?」


「何故生きているのですか? というか何を言って………………?」



 出来て当然かの様に、ジュエリーはレゴリスの首根っこを捕まえた。

 砂化して逃亡を図るも不発――――レゴリスは何故だか体を砂に変えられず、首根っこは捕えられたままだ。



何故(なぜ)?」


「分からぬか? 掌の内を儂の魔力で充満させ、テメェさんの魔力を挟む余地を無くした。魔法の不発なんぞそれで達成される児戯じゃわ」


「どんな密度で………………成程、今後の参考にします」



 冷や汗をかきながらも、レゴリスは唾を飲み。

 覚悟を決め、その場を飛び立った。


 レゴリスの拘束を振り解けた訳ではない―――首根っこは依然捕えられたまま。

 だが逃げようはある―――捕えられた部分以外を砂に変え、体の一部を切り離す事でその場を離脱したのだ。



「その覚悟天晴れじゃなあ! 次はどうする!」



 叫んだジュエリー―――レゴリスの飛び立った先の経路には、ナイフを振り上げたシフィーが待ち構えていた。



「どうって、普通に逃げますよ」



 レゴリスは迷わず、全身を砂化した―――風に乗り、全身は散り散りに。

 再びその身が形成される瞬間まで、思考すら叶わずただ宙を舞う存在となった。


 幸か不幸か標的を見逃しはするも、一時的の策略は停止となり。

 決着はお預けいう事で事を終えた。

排水溝の溝掃除してたら、時間だいぶ過ぎてた



(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

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