ミリスの才
「ジュエリーと手を組むのはいいのよ、決まった事だから―――でも私って馬鹿ね。その事を伝える場所を決めていなかったわ」
「し、シフィーさんは馬鹿なんかじゃありませんわ! 大丈夫、探せばきっと直ぐに見つかりますの!」
「そうね。案外ふらっと現れるかも知れないし――――――」
言いながら、二人は出かけ支度を済ませて部屋を出た―――すると、そこは宿屋の廊下ではなく見慣れない埃っぽい部屋であった。
仄暗く、物が多く、本来そこにあるはずのない部屋―――想定外の未知に驚く二人を見て、部屋の奥に腰掛ける人物は楽しそうに笑った。
「昨日ぶりじゃのう、テメェさんや」
「どう言う事ですの?! 廊下に出たと思えば知らん部屋ですし、知らん部屋だと思ったらジュエリーさんが待機してらっしゃいますし、訳分からねえですわ!」
「ここは儂の道具屋じゃ―――儂の店とテメェさんらの部屋の扉を繋げた。原理の説明はめんどいからせんが、儂にはそんな事が出来るとだけ覚えておけばよい」
ジュエリーは部屋の奥、安物の椅子に浅く腰掛け立派なテーブルに足を乗せた状態で煙管に火をつける。
「ああそこ、扉を閉めい。元の位置に繋げ直さにゃ儂の仲間が入って来れんのじゃ」
「仲間?」
「そうじゃ仲間じゃ―――全員が弩級の実力者。テメェさんでもちょっと劣るかもの」
言われるがままに扉を閉めると、僅かに魔力が放たれた反応が。
これで扉は違う位置に接続され、もう開けた先に宿屋の部屋はないのだろうと二人は理解する。
「仲間っていうのはどれぐらいで帰るの?」
「なあに、直ぐじゃよ―――ほれ、三……二……一……」
直ぐという言葉通りに始められたカウントダウン。
慌てて二人は扉の方へと振り向き―――ゼロと唱えられた瞬間、金具を鳴らしながら扉が開く。
「ジュエリーさん、今帰りましたよ!」
「おいクソ店長…………この匂い、またやりやがったな」
現れたのは太い声でガタイの良い、かけ上げた赤茶色の髪が爽やかな男と、対照的に薄い体、鼻炎気味の鼻に抜ける声をした金髪の男。
金髪の男の方は部屋に入るなり、荷物をその場に置いてジュエリーへとかけより煙管を取り上げ。
火のついた草の匂いを嗅ぐや否や、絶望の表情を浮かべた。
「俺がエルフから十八年かけて手配したモンを、また勝手に使ったな…………」
「弟子のモンは師匠のモンじゃ。聞き分けよヴィンセント」
「クソババアが………………いつかくたばれ」
「いつかくたばって見たいの―――と、いう事で此奴は儂の弟子、ヴィンセントじゃ」
取り上げられた煙管は、せめて残りだけでもとヴィンセントが吸っていた。
それをやや不満そうに見ながらも、指差しながら一人目の紹介を終了―――続き、指をスライドしてもう一人の方を指差し。
「ドワーフで魔導具技師のブルーノじゃ。儂と同じ冠級冒険者―――中々やりおるよ」
「君がジュエリーさんの言っていたシフィー君だね! 成程確かに凄まじい魔力だ…………これから宜しく頼むよ!」
「テンションが高いのね…………嫌いじゃないわ」
「人を照らせる人になりたいんだ!」
シフィーが差し出した手を掴むと、ブルンブルンと振る様に握手を。
向日葵の様に明るい笑顔は一切の穢れを感じさせず、一挙手一投足に純粋を感じる男だ。
「さて紹介は簡単にこんなで良いじゃろう。もっと詳しく気になるなら勝手に仲良くやるんじゃな―――では本題じゃ。テメェさんら、儂らと手を組むかどうか、決めたんじゃろうな?」
「ええ―――私とミリスは、このミレニアムにいる間貴女達と行動を共にするわ。だから、情報共有お願いね」
「ヨシ来た、そうと来れば話は早くなるわい! テメェさんら、全員着いて来るがよい!」
立ち上がったジュエリーは奥の部屋に移動―――店舗スペースとは違い、ブルーノによって物がしっかりと整理された部屋だ。
「テメェさんら、何らかの手土産は持って来たんじゃろう? ホレホレ、出しよれよ」
「ええ…………ミリス、お願い」
「ええ! 一日見て回った限りのものですのでそう有益なものでも無いとは思いますが、それでも何かプラスがあれば良いですわね」
広々としたテーブルにミレニアムの地図を広げ、その中にある点の色について昨晩同様に説明―――青い点が二人の泊まる宿、黄色い点が二人が事件にあったカフェ、他の赤い点がこれまで事件の起きた場所。
それを説明し終えたタイミングで、ミリスの肩を叩いてシフィーが前に。
己の魔力で立体的な点を地図に追加―――事件発生現場でもなく、ミレニアムの土地として重要な地点でもなく。
一見無造作な場所である。
「他の点は大体儂らの調査と同じじゃが…………テメェさん、それは?」
「夜の内に、事件現場を一人で回って来たわ―――そうしたらこの位置に魔族の魔力痕を感じた。全ての事件発生現場は、この魔力痕から一キロの位地に円形。それが混ざってこうも複雑に見えているのよ」
分かりやすい様に、魔力の線で縁を描く。
すると全ての事件発生現場が例外なく、魔力の点から一キロの距離で円形となっており―――そして一箇所、未だ未完成の円が残っていた。
「ミリスの纏めてくれた資料からでは事件発生の順番が分からなかったから、この円が全体バラバラで、ランダムに作られているのか。それとも一つ一つ順番に作られているのかは分からない―――でも、きっと無意味な形では無いと思うわ」
「事件発生の順番ならこっちで纏めておる…………ブルーノ、そこに纏めた用紙が有るじゃろ、取ってくれ!」
反応からしてこの円形は新情報だった様子―――事件発生の順番と照らし合わせれば、その縁は一つずつ順番に作られていた事が判明。
これにより、一見ミレニアム全域が候補に見えた次の事件発生現場が推察可能となった。
「テメェさんよ、いきなり手柄じゃな…………」
「一日でここまでの前知識を調べ上げたミリスの手柄よ」
言いながらミリスの頭を撫でてやると、何よりも嬉しそうな表情を見せながら頭を猫の様に擦り付け。
これ程の情報を集めた諜報能力は機械類などないこの世界に於いて、冒険者の戦闘力と同等レベルに求められる才能。
それを当人は、未だ自覚していない。
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