名探偵始動
「ミリス、この街の警備レベルが今どの程度のものなのか、仮に魔族の襲撃があったとして、耐え切れる物なのか、調べて」
それだけ言うと、シフィーは一人街に消えていった。
屋根を渡り、路地裏を通り、魔族の魔力を探るべく駆け回った。
探し物を見つけるまで、そう長くはかからなかった―――街に溢れる鳥型監視用魔導具のうち一つに、魔族の魔力を発見。
少し離れた時計塔に登り、暫く観察することとした。
「テメェさん勘が良いのう」
「みっ?!」
突然、背後から挙げられた声に驚き奇声を上げる。
そこに居たのはジュエリー―――足音を鳴らす事も、魔力や気配を感じさせる事もなく現れ、怪しい笑みを浮かべていた。
「なっ、何で貴女がここに…………?」
「テメェさんと目的は一緒じゃ。アレの大元を探っておる―――どうじゃ? どうせ同じ敵を見てんなら手を組まんか? テメェさんの実力は見た。アレなら足手纏いにはならんじゃろう」
「嫌よ、貴女怪しいんだもの」
「儂が怪しいじゃとぉ? そんな事言うでない! 否定はせんが言うでない! 儂は繊細なんじゃぞ!」
「繊細な人は繊細って主張出来ないわ」
「そうじゃったか…………そりゃミスったの。実は儂繊細じゃないんじゃ」
「何がしたいの?」
観察対象からは離れているので見つかる事はあり得ないと考えてはいるが、それにしても何かを観察するには煩過ぎる。
ジュエリーに対する対応は雑に済ませて、シフィーは己のやりたい事を続けようと―――だが、ジュエリーはこの程度の事で引き下がる女ではなかった。
取り出された一枚のカード。
面倒に思いながらも目をやると、それは冒険者ギルドの登録カードだ。
ジュエリー・ラフェーリア、プロとヒューマン。
階級、冠級―――それは一級冒険者の更に上。
全冒険者の頂点に君臨する存在であり、人類のラストウェポンであり。
その階級に登録された者の全てが、個人で国を相手取る事の出来る実力者だとされている。
シフィーがその存在を知ったのは昨晩の事―――宿に帰ってから、冒険者登録の後に受ける筈であった冒険者ギルドの仕組みの説明をミリスから聞いた。
説明を聞いた時には、個人で国を相手取るなど世を見下ろす獣エルドラの様な伝説に残るドラゴンでないと不可能だと考えていたが、実物を見て納得。
昨日よりもより鮮明に感じ取ることが出来るジュエリーの底知れなさ―――それは、確かに国を飲み込んでなお全容の見えぬ暗闇だ。
「信用は得られたかの―――さて、もう一度問おうか。テメェさん、儂と手を組まんか?」
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「冠級冒険者であれば、頼りになりますわね―――私、シフィーさんと別れた後に色々調べましたわ。そうしたらこれ、個人で調査するには事が起きる範囲が広すぎますのよ」
ジュエリーと手を組むかどうかは明日まで保留とし、日が暮れてから宿に戻るとミリスは少々疲れた様子でシフィーを待っていた。
あの後、ミリスは一人図書館へと赴き魔導具墜落の事件が始まった頃からの新聞記事を読み漁り、その後は衛兵の詰所にて事件の起きた正確な場所を聞いてその場所を回りながら近隣住民に対する聞き込みを行い。
シフィーよりも早く宿に戻ると、手に入れた情報を纏めて資料とまとめ上げていた。
「これはミレニアム全体の地図ですわ―――この青い点が今私達の居る宿で、黄色い点が今朝のカフェ。他の赤い点がこれまで事件の起きた場所―――見ての通り、事件はミレニアム全体で起きてますの。その範囲を私とシフィーさんの二人で調べ尽くそうと言うのは、現実的ではありませんわね」
「ミリスから見て、冠級冒険者という肩書は信頼に足るのかしら?」
「一級までと違い、冠級というのはソロモン王のお墨付きがなければ昇格できない地位なんですの。充分信頼に足ると私は思いましてよ」
「じゃあ決定ね―――明日はミリスも一緒に来てくれる?」
「ええ! 今日調べた情報だけではきっと不足もありますわ―――共有していただける情報なんかがあればとても有意義ですの」
「よく頑張ってくれるのね―――何か、やる気の種があるのかしら?」
「シフィーさんのお役に立てるのは嬉しいですわ! シフィーさんこそ、どうしてこの事件に首を突っ込むんですの?」
「最近魔族に因縁が出来たの―――晴らさないとね」
それはシュレディンガー領での戦い。
敵を倒しこそしたが、被害は大きく多くの人が死んだ。
シフィーは魔族ジャマキリ個人だけでなく、ジャマキリを送り込んできた魔王軍というものを完全に敵対視。
今回もその手の相手であったならば、必ず前回の二の舞にだけはさせないと意気込んだのだ。
「ミリス、この地図以外にも資料はあるのかしら?」
「各地事件発生時の状況と、被害―――一部対応した衛兵の話などを纏めていますわ」
「見せてちょうだい―――夜の内に読んでおくわ。急な仕事を任せてしまったわね、お疲れ様ミリス。今日はもうゆっくりと休んで」
資料を受け取ると、ミリスを先に休ませる。
宿で頼んだ夕食と、桶とタオルで済ませる身の洗浄。
それが終わればミリスの忙しい一日は終わり―――暗くなった部屋の中、指先に灯した小さな魔力の灯りを頼りに文字を読む姿を眺めながら眠りについた。
触れずとも、確かにそこに居るシフィーを感じながら。
読んでくださりありがとうございます!
もし面白いと思ってくださった方は、レビューや感想、ブクマなどもらえると嬉しいです!
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




