朝食に特攻
「気を取り直して紹介しますわ! こちら私のお母様ですの!」
「貴女のお母様…………どこよ」
「どこってここに…………お母様?!」
案内されたホテルの最上階にある一室―――そこは生活感こそあれど、誰も居らず。
そこにはただ、立ち尽くす二人が居た。
「お母様が、失踪しましたわ〜!!!」
それが、朝一番の出来事である。
ミリスの母に対する挨拶は延期となり、二人は一旦朝食を済ませる事に。
ホテルを出てすぐのカフェに入り、キッシュ二つとエスプレッソ、アイスティーを注文。
テラス席に着き、今後の予定を決めながら食事を開始する。
「先ずは仕事を探さなければならないわね―――旅の資金が無いでしょう?」
「資金問題については、この街に到着した時点で解決したも同然ですわ。テストであった手紙を受け渡した時点でお母様からお小遣いを戴きましたし、後日報告に対する返事と共に旅の資金が送られて来ますの―――私の世話代として、シフィーさんの旅資金とお小遣いも含め」
「世話代って…………それ、言ってて悲しくならないの?」
「シフィーさんを好きに可愛がって世話したいとは前々から思っていましたが、シフィーさんに愛玩動物のように世話されるのも悪くありませんわ」
「資金問題は解決なのね―――なら、今日この後はお買い物にしましょう。貴女のお父さん…………ロベリス卿がお小遣いをくれた様だし、服でも買いたいわ」
「服ですの? それなら昨日、沢山持って帰って来ましたわよね?」
「女主人公は扉絵で可愛い服を着て可愛いポーズをするものよ。それなら、服なんていくらあっても困らないわ」
「女主人公…………? どういう事でして?」
「私の旅の目標よ」
行っていなかったかと思い出し、シフィーはキッシュを切っていたフォークを一度置き。
可愛らしくも普段は変わり映えのしない表情の顔に笑みを浮かべ、己の旅の目標を告げる。
「私はね、最高の主人公になりたいの―――折角生まれて人生を、自分の物語を好きにする権利を持ったのだからそれをつまらないものにはしたくない。沢山の景色を見て、沢山の人に会って、たくさんの物に飾られた、素敵な物語を作りたいの。私は、私の主人公なんだから」
「あてもなく放浪していたわけじゃございませんでしたのね―――てっきり、若者特有のそういうアレかとばかり」
「ちゃんと失礼ね。貴女、放浪者に着いて旅に出たつもりだったの?」
「私がシフィーさんに着いて来たのは、目標に惚れてではなくシフィーさんに惚れてですのよ」
恥ずかしげもなく言うミリスから顔を逸らしたシフィーは、照れ隠しにアイスティーを飲みながら街を見る。
道から空まで、どこを見ても魔導具―――どこか前世の記憶にあった、皆が携帯電話という機械を持っている光景に似ているなと思いながらアイスティーを飲み干した。
「………………魔力形式・7th」
不意にシフィーが呟き、作り出された翼で自身とミリス、そして二人の食事が乗るテーブルを覆い隠した。
瞬間、翼の外側より幾つかの爆発音が。
鳴り止んだ頃に翼を開くと、地面には鳥型監視魔導具の残骸が転がっていた。
宛ら、自爆特攻でも仕掛けたかの様な壊れ方で。
「シフィーさん、これは?!」
「知らないわ―――敵意を感じたから防いだだけよ。空に沢山飛んでいる奴よね?」
「ええ。監視用の魔導具ですわね………………」
二人は周囲に対する警戒を開始―――人通りの多い道だ、騒ぎに紛れてこの攻撃を仕掛けた者が見ている、或いは逃亡している可能性があるからだ。
だが二人の予想は外れ。
そもそも、騒ぎなど起きていのだ。
観衆の反応は、またかと呆れた様子―――今月に入って何機目だと言う声がチラホラ上がっていることから、この手の魔導具の暴走は多いのだろうと二人は理解した。
人混みを掻き分けて、近くを見回っていた衛兵が現れる。
落ちた魔導具の残骸に簡単な現場保存用の魔術を施し、すぐに来た店の店員に調査協力の依頼を取り付け。
腰につけた小さな魔導銃から緑の煙弾を空に撃ち上げ、救援要請を終えた後に漸く二人の方へと目を向けた。
「君達、怪我は?」
「ええ問題ないわ。無傷よ」
「同じく、こちらのシフィーさんが護って下さったので無傷ですわ! 衛兵さん、これは一体何事でして? 私達、この街に来たばかりで状況がよく分かっていませんの」
「最近増えた事故でね…………自動操縦されてる魔導具が壊れて墜落するんだよ」
「それってとても危険ですわよね? 一体何故まだ運用を続けているんですの?」
「この街はもう十年以上コレ頼りの監視システムだからね…………今急ぎで新しい形態を用意しているらしいけど、当面は使い続けるしかないんだよ」
便利なものに頼りすぎたツケだ。
ミレニアムの人々は、この続く事故を魔力を注ぐバッテリーの劣化だと思い込んでいる―――だが、シフィーの考えは違った。
常人では察知する事も出来ない、魔導具に残された微かな魔力痕。
それは確かに、魔族のものであった。
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