冒険者ギルド
「皆さん、見えて来ましたよ!」
「あれが…………! 立派な街ね」
行商人の声に反応してシフィーが荷馬車より外を見る。
魔導具の開発、実働によって栄えた王権都市ミレニアム―――魔導防衛システムによって自動で張られ、維持されている結界魔術の半透明な防壁が、この街の技術力を遠目にも誇示している。
「ミレニアムにようこそ! 身分証のご提示をお願いします!」
障壁の傍、衛兵が荷馬車の中を覗き言った。
行商人、エリオス、アイアス、ミリスの四人は直ぐに提出―――シフィーだけが、凍りつく。
「その………………無い場合というのは、どうすれば?」
「冒険者ギルドや商業ギルドの登録書を提出していただいても構いませんよ! また、身分証の紛失であれば衛兵付き添いの元再発行手続きを行なっていただきます!」
「そもそも身元不明の場合は…………?」
「身元を証明出来る方に変わりに手続きをしていただきます! それが叶わない場合は…………ね?」
「…………冒険仲間でいい?」
「不足です!」
と、言うことで話が付いた―――ミレニアム当日、初日。
シフィーは街を離れる訳にもいかず、留置所に宿を構える事となった。
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「さあシフィーさん! お出になられてくださいまし!」
「もう用は済んだの? 私に気を遣わず、もう少し滞在していても良いのよ?」
シフィーの留置所生活が始まって一週間が経った頃―――満面の笑みのミリスが訪ねて来た。
その手には幾つかの書類が。
少しの会話で監視の衛兵を退室させると、手に持つ鍵でシフィーを閉じ込める牢を開けた。
「お母様に会う目的は果たしましたが、お父様に報告した返事がまだなのでまだ滞在しますわよ―――それに、シフィーさんと回る為に観光もまだなんですの」
「? 私、身元不明だから回れないわよ」
「そんな事ありませんわ」
そこで、ミリスの持って来た書類である。
役所地味た記入欄の多い書類と、一枚のカード。
それはまごう事なき、身分証明書であった。
「シフィーさんはロロペチカ家と古く交友のある家の一人娘ですの。両親は魔物に襲われ死亡。天涯孤独の身という事にしましたわ」
「しましたわって…………つまり、どういう事?」
「偽造しましたの。このカードに少しの魔力を入れていただければ、晴れてシフィーさんは自由の身ですわ」
「ミリス…………貴女貴族ね」
「へ? そうですが…………何故突然?」
という事で、シフィーは身元を証明された。
正式な身分を手に入れ、自由の身である。
留置所を出ると、シフィーは初めてミレニアムの大地に足を着ける。
ここまでは街の外から護送用の馬車で送られて来たので、街の中を観れてすらいない状態。
故にシフィーは、留置場生活一週間分の感動を一斉に味わう事となる。
「さあシフィーさん! 改めて王権都市ミレニアム、到着ですわよ!」
「ええ、見渡すだけで楽しい街ね…………!」
空には警備用の鳥型監視魔導具が飛んでおり。
街の人々も、他の街では珍しい魔導具を当然の様に所持している。
「シフィーさん、何か見たいものはありまして?」
「色々あるのだけれど…………まず、エリオス達と連絡は取れないかしら? 冒険者ギルドに登録するという約束を果たしたいのだけれども」
「エリオスさんならば、今は冒険者ギルドにいらっしゃると思いますわ。明日からダンジョン攻略に向かうと仰られていたので、その申請をしている頃かと」
「案内をお願い出来る?」
「勿論ですの!」
先ずの目的地は決定―――冒険者ギルドとは、百年前にソロモン王がこの世界に存在する全ての国を統括した際、それまで行われていた数々の戦争で不足していた兵力を民間で補い、尚且つ浮浪者に対する仕事の提供と―――富裕層や商会と、民間人との仕事の橋渡しなどを目的として設立された組織である。
現在となってはフリーランスの傭兵窓口や、何でも屋に繋がる窓口の様な側面が強く、冒険者ギルドという名でかそあれど、一つの街に留まり仕事をする者も少なくは無い。
「あ? アンタ、シフィー嬢じゃねえか! もう出所したのか!」
「久々ねエリオス―――約束を果たしに来たわ」
「約束を護る奴は好きだぜ。こっちで推薦の話は通してある。受付に顔出して少し試験すりゃあ手続きは終わりだぜ」
「じゃあ直ぐにやって来るわ。待っててちょうだい」
冒険者ギルドに着くと、ダンジョン攻略の申請が済んだのか、エリオスは冒険者仲間と情報共有の最中であった。
示された受付は空いており、直ぐにでも手続きを開始できる様子―――シフィーが顔を出すと、直ぐ後ろに着いて来たエリオスを見た受付嬢が直ぐに目的を理解する。
「冒険者として登録したいのだけれど」
「はい、話は伺っております。シフィー・シルルフルさんですね?」
「ええ」
「一級冒険者のエリオス様からの推薦を受け取っておりますので、身分証を提出していただければ仮登録は終了致します。その地点で冒険者に対する依頼などは可能ですが、依頼の受理、ダンジョン探索の申請などを行いたい場合は、簡単な試験を済ませていただく必要がございます」
「試験というのは直ぐに受けれるの?」
「はい。当ギルドには元一級冒険者の職員が所属しておりますので、いつでもお気軽に試験を受けていただけます」
「じゃあ直ぐにでもお願いしたいわ」
「では、試験担当の職員を呼んでまいります。他職員と変わりますので、身分証ご提出の後に受付右手の扉を抜けまして、先の部屋でお待ちください」
機械と話している様な感覚に陥る、業務的な口調の受付嬢に従い行動。
身分証を提出してから支持された部屋に入ると、そこは木の柵で囲われた八角形の砂場があった。
シフィーは感動した―――前世の記憶にて強く印象に残り、夢にまで見た景色が今、目の前にあるのだ。
「ここが、最強を決める聖地………………!」
「冒険者登録試験の部屋だよ。馬鹿だね」
「………………誰だか知らないけれど、後ろから現れないで頂戴よ。こっちは私の白虎よ。ちゃんと青龍から現れなさい」
「何言ってんだい? あんま馬鹿言ってると試験落とすよ」
「てことは、貴方が試験官?」
「ああ。だからあんま生意気言っちゃいけないよ」
現れたのは、どうにもアンバランスな女。
腰の下まで伸びる金髪のポニーテールと丸メガネ。
身体の全体的なバランスは幼く見えるも身長は百七十を超え、十七歳程度に見える顔から老人の様な喋り口調。
高圧的な話し方だが着ている衣服は給仕服にポンチョであり、手には下緒を掴んでぶら下げられた刀がある。
「儂は試験官のジュエリー・ラフェーリア。シクヨロじゃ」
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