知識革命
「先のレディウルフで見たが…………改めてアンタ、相当だな?」
「貴方の方こそ、強いのね」
「アンタ程じゃねえさ」
日が暮れ始めると、一行は馬を停めて夕食と野営の支度を始めた。
シフィーはテントを建て終えた後、エリオスに呼ばれて皆から少し離れた場所まで。
少し行った所で、エリオスは真剣な剣幕で槍を持ち言った。
「乙女の私を連れ出して、何をするつもり?」
「アンタが俺より随分と強え事を理解した―――その上で、今俺がどれだけやれるのか興味がある」
「手合わせしたいと?」
「胸借りるぜ」
「良いわ――――――魔力形式・2nd」
低姿勢―――身を低くして槍を構えるエリオスに対して、シフィーは先端に鏃の着いた鎖を作り。
手元で軽く回して見せる。
「刻印―――全開放」
言った次の瞬間―――エリオスは十メートル程の距離を潰してシフィーの背後へと回り込み。
螺旋に渦巻く魔力を纏った槍で、躊躇なくシフィーの背を突く。
「成程な…………ッ!」
「流石に早いわね」
シフィーは軸足一本残して身を回転させる事で槍を回避。
鎖を鞭の様に振い、胴に巻き付けてエリオスの自由な動きを封じる。
鎖を振い、拘束したエリオスを地面に叩き付けようとするがら勿論抵抗はある。
しかし無駄―――鎖を引き、シフィーを自分の方へと引き寄せようとするが、その鎖が伸び切った状態から縮まらない。
「何だっ、これ…………!」
「私の魔力で出来てるから、どうとでも出来るの」
抵抗虚しく、エリオスは地面に激突。
だが槍を間に挟みクッションにした事と、魔力の身体強化もあって、そこまで大きなダメージは無い。
地面との激突で立ち上った土煙の中より、勢い良く投擲された槍が飛来する。
シフィーはそれを容易く蹴り上げたが、そこまではエリオスの想定通り。
次に遅れて飛び出したエリオスが空中で槍を掴み、着地と同時に一撃突き。
回避されるが、連続で突きを放ち少しずつ回避に合わせた攻撃を修正して行く。
一秒に十を超える突きの数だが、直撃は皆無。
それどころかシフィーは、回避をしながら指先に魔力を集め、攻撃の支度を整えていた。
「頑張って防いでね」
宣告し、撃ち放ち―――軌道は指の先から真っ直ぐ、速度も普段の戦闘時よりは遅い。
にも関わらず、ソレはエリオスが山勘で張った全力の魔力障壁と、服に刻まれた防御の刻印術を破り。
残った衝撃だけで、エリオスを十メートル近く弾き飛ばした。
「満足、した?」
「あぁ、腹一杯だ―――差を測ろうとしたが、そんな次元じゃあねえな」
「貴方も中々だったわよ。速度じゃそこらの魔物に負けないでしょう?」
「まあな。さっき見たいに捕まっちまうとどうにもならない事もあるが、大抵の場合は逃げ切れる」
エリオスの攻撃、移動速度は決して刻印術によるものだけでは無い。
その刻印術による強化に耐え得るだけの鍛えられらた健脚と、その速度に反応出来るだけの反射、動体視力。
それらを掛け合わせた、素の実力あってこそだ。
「ねえ、もし良ければ槍を見せてもらえない?」
「ん? 良いぜ、好きなだけ観察しな」
差し出された槍の刻印術を見ると、それはシフィーの扱う刻印術の様な、烙印じみたものではなく文字。
それもシフィーが知る文献に一部使われていたレベルの、古代文字だ。
「私の扱う刻印術とは随分と違うわね…………確かに古代文字ならば、内容を弄りやすいし魔力の通りも良いわ」
「アンタ刻印師だったのか? どんなモンだ?」
「私の装備に着いてるのは全て私が刻んだものね―――」どうぞ好きに見て頂戴」
衣服から小道具まで、満遍なく張り巡らされた刻印術―――それを目にしたエリオスの表情はギョッとして、急ぎ槍の底で地面に長文を書き始める。
「魔鉱石を溶かしてインクにするセオリーとは違げえ…………全部自分の魔力でやってやがるのか! 消費魔力が並じゃねえだろ…………ああ、バケモンなのか。これなら魔鉱石と違って人体に害がねぇし、効果の書き換えと容易。革命的じゃねえか! この絵は何だ? 古代文字じゃねえな。魔導陣みてえな効果を持たせてるのか? これなら古代文字使える相手にも刻印術の効果がバレねえ上に、仲間内じゃその効果を共有し易いと。今まで無かった発想だ…………」
「夢中ね。目新しいなら、サンプルいる?」
「良いのか?! こういう新しい技術は大体秘匿されるからな、有り難え!」
「何か適当な物、出して」
「あ…………荷物が全部向こうだな。帰るか」
という事で、二人はテントの側へと戻り。
エリオスは自身の荷物から、適当な布切れを取り出してシフィーに渡した。
魔力形式・9thにて刻印術を驚異的な速度で描き終えた後、少し頭を悩ませて重ねるようにもう一つの絵を追加。
エリオスがそれについて尋ねると、シフィーは魔力の追加口だと答えた。
エリオスがシフィーの刻印術から新しい知識を得た様に、シフィーからしても刻印開放というのは新しい知識。
この知識の出会いが後の世で、とある大戦の局面を傾けるまでの波紋と広がる事を、知る者はまだ居ない。
物語シリーズまたアニメやるらしくて嬉しい
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




