表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/120

刻印術

行商人がやって来た―――商品を売り終え、すっかり軽くなった荷馬車には護衛の冒険者が二人。


 槍を持った赤髪の男、エリオス。

 杖を持ち深くフードを被っている、アイアス。


 二人は冒険者内にある階級の上から二番目、一級冒険者に位置する実力者らしく、この行商人の護衛として雇われているとの事。


 行商人は既に二人連れているので食糧の提供などは出来ないが、ミレニアムまでの同伴を許可。

 シフィーとミリスはすっかり親しんだ村人達に見送られながら、村を出た。



「ここからミレニアムまでは、何もなければ三日って所だな―――それ程長い道のりでもねえが、まあ仲良くしようぜ」


「ええよろしく。貴方、結構強そうね」


「おっ、分かるか? これでも結構名の知れたモンだぜ。この槍を見せりゃあ余程の田舎じゃねえ限り俺だって気づかれるぐらいにはな」



 エリオスは、楽しそうに槍を見せる。

 刃と管、それぞれに刻印術(エンチャント)が刻まれ魔術的効果を持った特殊な槍だ。

 


「やっぱり―――じゃあミリスもエリオスの事を知ってるの?」


「勿論ですわ! 一度お父様が護衛依頼を出していましたので、屋敷で目にした事もありますの」


「アンタ貴族様のご令嬢かい―――どこの家だ?」


「ロロペチカ家ですの」


「ってえと、アンタがあのロベリス卿の一人娘かい! ありゃあ金払いの良い、良い依頼人様だったな。縁がありゃまた依頼を受けると伝えておいてくんな!」


「機会があれば伝えておきますわ」



 皆を乗せた荷馬車が走り出し、十五分程―――無言のアイアスと馬を操る行商人を除けば、会話が弾み団欒の空気が広まっていた。



「シフィー嬢って言ったか? アンタも相当強そうだな―――冒険者か?」


「いえ、冒険者自体よく知らないただの旅人」


「勿体ねえな…………アンタとは一緒に仕事してみてえ。ミレニアムに着いたら登録してみる気はねえか? 俺の推薦付きなら、ある程度上のランクから始められると思うぜ」


「興味はあるの……………ただ、登録費用とかあるのなら無理よ?」


「心配しなさんな。はなっから払う金もねえ奴らのする仕事だ」



 そうして、シフィーの冒険者登録が決定。

 冒険者について幾つか質問をしようとシフィーが考えていると突如、行商人がエリオスとアイアスの名を叫んだ。



「仕事の時間だな―――じゃあ依頼人様よ、少し先で止まってな。アイアス、援護任せるぜ」



 荷馬車の後方より美しい銀の毛皮を持つ狼に似た魔物のレディウルフの群れが追走していた。

 鋼鉄より硬く、されど柔軟な毛皮は貴族や冒険者の衣服に多く使われるので、素材の買取価格は高い。



「レディウルフ、雑魚だな」



 言うと、エリオスは馬車を蹴って飛び出した。

 転げ落ちる危険性など省みず、放たれた槍の様に一直線で突き進み一撃穿ち。

 早速レディウルフの一体を撃破する。



「傷口が荒いと、素材の買取がダメになる」



 飛行魔術で飛び上がったアイアスが呟き、空中より魔力弾を幾つか発射。

 シフィーが普段使いする魔力弾の様な殺傷力は無いが、牽制でレディウルフを散らし、エリオスに対する攻撃のタイミングを分散させる効果はある。



「ミリスは待っていて―――魔力形式(マジックフォーム )1st( ファースト)



 遅れ、ミリスも荷馬車から飛び出した。

 地面スレスレを滑空しながらレディウルフ二体の首を刈り取ってから土埃を上げながらの着地。


 傷口はまな板の上で調理された肉の様に滑らかで美しく、それを見たエリオスは面白そうに笑った。



「やっぱ強えな」



 片手間にレディウルフを仕留めながシフィーを観察。

 程度の敵ならば苦戦する必要もなく力の底を見せることは無いが、少なくとも現時点での底知れなさは理解出来る。

 ナイフとして扱われる超圧縮された魔力は魔導士であるアイアスの総魔力保有量を優に超えており、それを操るシフィーの身体能力も魔力強化がされていないにも関わらず並大抵の魔獣魔物に勝るレベル。


 何かを真似ている様な雰囲気ではあるが、技術も皆無ではない―――冒険者となれば、すぐに自分を超えるランクになるだろうと考察した。



「一気に方をつけるぜ―――刻印解放」



 それは、刻印術(エンチャント)の真価を引き出す言葉。

 槍全体に刻まれた刻印術(エンチャント)のいくつかを開放し、勢い良く投擲。


 槍は周囲に魔力を渦巻かせ突き進み。

 周囲のレディウルフを引き寄せ、触れたものの体を削りながら飛んだ。


 唸るレディウルフ―――その槍の一撃に恐れ慄き、まだ生きている個体は一斉に逃亡を開始。

 槍は自動的にエリオスの手元へと戻り、数秒前までの凶暴性が嘘の様に鎮まっている。



「凄い一撃ね」


「あるだけで効果のある刻印術(エンチャント)だが、追加で魔力を注ぐとこうなんだ。刻印開放ってのは、普段身体強化なんかに使ってる魔力が刻印術(エンチャント)に流れ込まねえ様にかけてある鍵を開ける呪文見てえなモンだな」


刻印術(エンチャント)にそんな使い方が…………知らなかったわ」


「俺が発見したんだ。凄えだろ?」



 ちょっとした発見の様に言うが、それは教科書に載るレベルの偉業である―――この力をエリオスが発見した際は魔導学会が荒れに荒れ、一部刻印術(エンチャント)の刻まれたアイテムを持つ者が無秩序に刻印開放を扱う事で、酷い魔力枯渇に陥ったり、災害級の被害を出した事もあった。


 冒険者エリオス―――世界的にも有名な、刻印術(エンチャント)の第一人者である。

読んでくださりありがとうございます!

もし面白いと思ってくださった方は、レビューや感想、ブクマなどもらえると嬉しいです!


(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ