暴力
「ハッハッハッハッハッ!!! 愉快愉快! どうする、防ぎきれるか!?」
「これだから、神というものは…………」
一筋、冷や汗を流しながら逢魔は言った。
世界の炸裂を、逢魔は己の神通力で抑える。
それを、無から再生しながら笑うジュエリーの手元には、既に同じく新たな世界が補充済み。
炸裂まで、残り二秒。
「ならば、同じ土俵に上がって見せよう」
「まあ、しかないわな」
逢魔は、既に炸裂した世界と、これから炸裂する世界を、自分達とは全く無縁の、別世界へ転送した。
数秒目を閉じ、眉間に皺を寄せる逢魔――――今この瞬間、己の選択によって世界を滅ぼした。
土地、歴史、人々の一切を滅ぼしたのだ。
それに、もう後戻りは出来ないと再認識する。
真っ当な主人公は、もう目指せないのだと。
「勝手だが、恨むぞ」
「それを受け止めるのが神の責務じゃ」
ジュエリーはため息を溢してから、掌同士を合わせて、拝むようにする。
それから掌を離し、掌の間にある空間を膨張させ、槍のような形を作り、投じた。
その槍を、他の空間が避ける。
逢魔は回避行動を取るために、空中で体を操ろうとするが――――そこで気付く、体が少しも動かないと。
「ならばこれも、別世界に飛ばすまでだ」
「ほう、テメェさんに出来るのか?」
その槍へ、逢魔が転送を仕掛けようとする。
しかし神通力の存在する空間が槍を割けてしまうので、逢魔の思惑は果たされなかった。
「まあ、無駄なんじゃろうなあ――――いくら傷付けど再生って、儂らみたいじゃ」
割れた頭が治癒する逢魔を見ながら、呆れた様子でジュエリーは言った。
「違うのは、儂らはそういうものとして復活するだけなのに対し、テメェさんのそれは魔力やら、今の場合は神通力を消費してやってるとこじゃ。だから、魔力お化けのシフィーにテメェさんを消耗戦で叩かせようと思っておったが…………面倒想定外迷惑千万。困ったもんじゃ」
言い終えると、ジュエリーは空間に穴を開けた。
その穴の先には武器があるでもなく、ただ逃げ道として。
「儂が消耗戦をすればテメェさんに分があるでな、帰るわ。また攻め込んできたいなら、まあ頑張れ」
言い残すと、ジュエリーは穴を潜り、空間を閉じた。
逢魔の体が自由に動くようになったのは、それから半日先のことである。
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「俄かに信じ難いわ…………ジュエリー、貴女がそうならざるを得なかっただなんて」
原初を殲滅し、シフィーの捜索を行っていた魔界組にジュエリーが合流した。
まず声を掛けた相手は、サレン――――ミリスが連れて来たシフィーの体を若返らせ、傷を治そうと励むが、シフィー自身に溜まる魔力が、生命魔法の侵入を邪魔する。
「儂も今回の魔王がここまでだとは思っておらんかった。それに、アクシデントもあったしのう」
「ミリスから聞いているわ。前世の意識が自立して人の体を乗っ取るだなんて、例外も例外よ」
「無いことも…………無いのかのう」
「ええ。三百年ほど前に、降霊の魔法を使える男がいたでしょう?」
「原理は違うんじゃがなぁ…………サレンよ、治療はまだ済まんのか」
「ええ。こんなに治しにくい相手は久々よ。私の魔法がこの子の体全体に回るのが先か、この子が死ぬのが先か。私でも分からないわ」
サレンの額より、汗が一筋。
今シフィーの体は、傷ついた体を癒すべく、回復した魔力を全身に、普段以上に濃く巡らせている。
意識してやるならば、相手の攻撃を防ぐ用途に使える技術だが、今の状況では厄介である。
「…………一つ、案があるが乗るか?」
「乗るしかない話なのでしょう?」
「薄々分かっているとは思うがのう」
そこまで言って数秒、ジュエリーは言い淀む。
嫌気がさしたようにため息を漏らし、仕方ないと目を伏せながら口を開く。
「儂らの、献身の話じゃ」
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