宵の出
フリートの身で行う、因子覚醒――――継がれた力の元は明白である。
ジュエリーは即座に、己の全てを擲つと覚悟し、次の瞬間肉体が爆散した。
「見えているぞ、ジュエリー・ラフェーリア」
「ジュエリー様!」
「案ずるなッ!」
既に再生を始めたジュエリーが叫ぶと同時に、治りかけの体へ追加の魔力弾が撃ち込まれ。
それに気を取られたミリスの腹へ、蹴りが叩き込まれる。
「心地よい。言うならばそうだな…………歌でも歌いたい気分だ」
逢魔が言うと同時、背後より迫ったシフィーが振るう刃を、軽く避ける。
魔力不足は、お世辞にも全快とは言えないまでも解決している。
普段は刀身の見えない霧切が、その姿を白日の下に晒していることから、刀を通して蜃の魔力を受け取ったのだと逢魔は見抜く。
「良い表情をしてくれるな、全く…………敵の進化に恐怖せず、揺るがぬ相貌で立ち向かう。お前は主人公だよ」
「何を言いたいかは、よく分かるわ…………! だって、貴方は私だったんだもの!」
「ならば分かるであろう? 俺が、今何をしようとしているか」
「ずっと変わらない、主人公でしょう…………? ただ、ジャンルは随分と暗いらしいけれど!」
「視点の問題だ。魔王の飛躍を人類の悲劇とするか、魔族に喜劇とするか!」
バルムンクと霧切で繰り返し打ち合う。
霧切が龍の魔力を多く孕むこと、そして現在持っている魔力量の差などにより、逢魔が優勢だ。
だが、武器の性質と魔力量を遥かに凌ぐ、優劣の分け目がある。
因子覚醒した瞬間より逢魔の纏う、魔力以外の力だ。
「剣だけに集中するなよ」
逢魔が言うと、シフィーの頭上より巨大な水の槌が迫り、直撃。
霧切で迎え撃とうと刃を振るいはしたが、圧倒的な魔力量で攻撃を焼き斬れる普段とは違い、ただの刃は水を傷つけない。
直撃のダメージは大したものではないが、水が不規則な流れを作る水槌からの脱出が困難。
少しずつ酸素が減り、命のタイムリミットが近づく。
シフィーが魔力弾を炸裂させ対処しようと、魔力を収束――――そのとき、水槌へマグマの巨槍が投じられる。
それは、マヨネーズと粉塵爆発に次いで異世界から多く持ち込まれる技術。
狙いを理解し、シフィーは魔力防御を硬め――――凄まじく、炸裂した。
「水蒸気爆発、幼い頃より一度試してみたかったんだ」
「次はくらってみると良いわ」
魔力防御があれど、なおダメージが大きかった。
シフィーの肌は一部爛れ、髪も結っていた紐が焼け、ばらっと下ろされる。
部屋は消し飛び、外界が見える――――シフィーは自分がさっきまでと同じ魔王城に居ると思っていたが、その実は全くの別で。
元の位置から千キロ以上離れた、荒野にクレーターが出来た景色がそこにはあった。
「他の奴らも、上手く生き残ったようだな――――さて、その傷でまだ続けるか?」
「貴方、向こうで生きてるとき何を見て来たの?」
「愚問だったな」
黒鉄の拘束具が、突如としてシフィーを捕らえた。
魔力での精製、操作、拘束と、普段のシフィーならば充分察知出来る手数を踏んでの結果だが、疲弊しきった今の状態で気付けなかった。
「俺がお前より強かったとして、それが諦める理由には成り得ない――――分かるよ。俺もそう思って、主人公達に打ちのめされ続けて来た」
「ッ…………だから、魔王に堕ちたって?」
「主人公への道筋を変えただけだ――――それに、夢に上下などないだろう?」
「卑屈になりながらこなす夢なんて、下の下よ」
「果たさねば始まらぬ。俺はそれを――――ん?」
ふと、逢魔が小さな振動を感じ取る――――そして、探るより早くそれは飛び出した。
巨大なワームが、逢魔を突き上げながら地面を破り現れたのだ。
ここまで使わず、元はフリート、今や逢魔の意識から外して来た、魔物精製の魔法を解禁。
同時に、シフィー本来の魔力も回復が進み、蜃の魔力を含めれば元の二割までは溜まった。
故に――――その一撃は放たれる。
「王片、閃黒――――!!!」
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