砂の城
「そうか、原初とぶつかったか…………レゴリスよ、奴を放つぞ」
「本当にやられるのですか…………? 平時の様子でこそ落ち着いたものの、ひとたび戦いの場に出ればあれは…………」
「良い。それと、もう一つの仕事も同時にだ」
「…………かしこまりました、フリート様の御心のままに」
言うと、王座に腰掛けていたレゴリスが全身を砂に変えてどこぞへ消えた。
空いた席にフリートが座ると、肘置きを撫でる。
王座は床と一体化した、半透明な魔晶石の土台を削り成立している。
その土台の中心、体を丸めて眠る少女の姿があった。
名を、メアリー・シルルフル。
始祖の魔族であり、シフィーやフリートの母その人だ。
「喜べ母よ――――もうじき、お前の望んでいた世界が実現するぞ」
メアリーは魔晶石の中で眠ったまま、返事をしない。
ただ僅かに、魔力とは違った力の鼓動を放つのみだ。
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ゲネシス――――歩けば草花を生やし、全身から小型の己を複製する。
数の力は、原初の中でも圧倒的と言えよう。
無数の複製体がベスターに襲い掛かり、殴り飛ばされてはまた増える。
複製体が母体となり、新たな複製体を産み。
その処理に見舞われた所へ、防御不可の腕が叩き込まれる。
ディアプトラ――――触れたものは無条件で消滅し、全身のその効果が適応されることから攻防一体。
ベスターとしては、一番処理のしやすい原初でもある。
消滅に対して、その効果すら焼く白亜の炎を当てる事で相殺。
肉体に消滅効果のあるディアプトラと、遠距離からでも炎を放てるベスター。
耐久戦に持ち込めば、ベスターに負けは無い。
そんな勝ち筋を妨害する存在は、ベスターにとって最も厄介。
シグマ――――全てを己とし、生半可な攻撃を放てば衝撃とすら結合される。
一対一で倒すのならば訳ないが、多数との戦いに入り込まれると厄介極まる。
「――――獣皇咬掌刻」
厄介とは思うものの、三種類全て対処方は同じだ。
増える前に、消される前に、結合される前に、焼き尽くす。
「前より固くなっていやがるな…………」
呟くと、魔力で足場を作って空高くまで飛び上り。
突き立てた親指以外の指四本に白亜を灯す。
ベスターは踏と掌纏めて、バニシング・プライド以外で己の技に名をつけていない。
だが、群れの長として生きてきた長年の間、放った数々の技は観測され、畏怖と尊敬を込め勝手に名付けられた。
そしてベスターは、下々の思いを受け取り糧とする。
「獣皇牙赤砲」
炎をクロスボウの矢のように引き、一斉に撃ち放つ。
空中で分裂した炎が原初達を燃やし、それにケリがついたかとベスターは地上へ降り立ち。
瞬間、その場に倒れた。
全身に凄まじい重さがのしかかり、魔力で原因を探れば足元に魔力の反応が。
ゲネシスが己の力で作り出した、新たな原初――――名を、ディーノ。
行ったことは簡単、ベスターに対し、ゲネシスの作り出した仮想の重さを与えたのだ。
「不味いわ…………っ!」
戦いを見守っていたシフィー以外の全員が、ベスターの救助に向かう。
仮想の重さと同じように今、新たな宇宙が作られベスターを包み込もうとしているのだ。
エルドラがベスターを抱え、その場を離脱――――それとほぼ同時、この場に新たな魔力が現れた。
「皆さま、我が主の城へようこそお越しくださいました――――主賓、シフィー・シルルフル様をお迎えに上がりました」
その声に、皆一斉に目を向ける。
魔王専属秘書、レゴリスが砂を人の体へ組み直し、シフィーの背後を取った。
無詠唱にて魔力形式・1stを発動し、シフィーは即座に斬りかかり。
だが、刃はレゴリスの体をさらさらとすり抜けて行く。
「そうだったわね」
呟くと、今度は掌に魔力を集めて掌底を叩き込み。
以前レゴリスに対してジュエリーが行った対処法であり、この戦いまでに身に着けた魔力操作の応用だ。
「――――ええ、以前ならば私如き、今の一撃で体が弾け飛んでいたでしょう」
レゴリスの体が砂となり、崩れ落ちては体を再形成。
相も変わらずの無傷である。
「良い表情でございますね――――恐ろしいでしょう? 分からぬということは」
言いながら、シフィーを抱きしめる。
そして壁に体を溶け込ませ、どこぞへと消えてしまった。
依然残る原初、そしてレゴリスとシフィーの戦闘を見て険しい表情となった始祖と龍達。
状況は、最悪に尽きる。
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