原初
「…………これで何回目よ」
「二十三じゃな」
「馬鹿じゃあないの?」
けだるげに言うシフィーへ、エルドラが答える。
ジェネイダーに勝利してからというもの、再度フリートの魔力を探って探索を進めるも、その道中は無限迷宮そのもの。
転移魔法陣や攻撃性のある罠に行く手を阻まれ続けている。
「もう天井とか壁を突き破っちゃだめなの?」
「魔法陣がご丁寧に張り巡らされてるぜ。大体の事は力づくで何とかなるが、ここ魔王城じゃあ危うい」
「ベスターが賢そうなこと言うの、似合わないわ」
「んだとシフィーてめぇ」
「…………静かにせよ」
エルドラが突如、シフィーとベスターを黙らせた。
それまで馬鹿話をしていた両名が一瞬で真剣な表情となり、耳を澄ます――――細く、軽い足跡が無数接近。
音の発生源を探るため、シフィー以外の五名が魔力を広げる。
「特殊仕様ね」
サレンが呟いた――――通常、転移の魔法陣はその陣内に魔力を持ったものが触れる事をトリガーとして発動する。
そうでなければ、魔法陣を描き上げた途端、床やら画材やらを転移させてしまうからだ。
その対策としてのトリガーだが、今回は別。
魔法陣を僅かに浮かせる事で、魔力を含まない音ですら魔法陣を通過するのだ。
それがどういう事か――――周囲を囲う魔法陣、どこから足音の正体が飛び出すかもわからず、場所、タイミング、数と選択肢は無限大。
囲った敵を圧倒的情報量と質量ですり潰す。
古いダンジョンなんかでよく見られるトラップである。
「ねえサレン、貴女の魔法で魔法陣全部消せないの?」
「無理ね。魔法がどこかに消されておしまいよ」
「ならいっそ、どこかの魔法陣に飛び込んでみるとか?」
「飛んだ先は地平線のずっと向こうかもしれないわよ」
「ならどうするの?」
「こうするのよ」
サレンの魔法が発動。
空気が魔力によって、いくらか重くなる。
「私が先頭を行くわ。皆は私と同じペースで着いて来て――――少しでもズレたら骨になって死ぬわよ」
魔法は全員の体に合わせて、ぴったりと展開された。
一人一人の動きに合わせて魔法の形を変化させる、魔力操作の極致とも言える神業――――近づく足音、魔法陣から飛び出す魔物と、同時に剥き出しとなった白骨。
通路を抜けた先、もう安全と魔法を解いて振り返れば、死骸の山が積み重なっていた。
「金級だけならすぐに全滅する罠ね…………進みましょう」
「…………ここから先は俺が先だ」
鼻を鳴らしたベスターが言うと、数歩先に進む。
瞬間、前方に続いていた廊下の景色が消滅した。
「何だい、これは…………!」
「ああ、アンタは知らねえか。他は知ってるな?」
その脅威をただ一人知らないヘルムが驚愕する。
この世へ最初に降り立った生物、三つの原初――――ゲネシス、ディアプトラ、シグマ。
それが今、群れを成して現れた。
「私も手伝うよ…………この数は一人じゃあ無理だ」
「空気と魔力の体。アンタじゃあ撃ち抜けねえよ」
一人ベスターは、ディアプトラの消した通路だった瓦礫の山へ飛び降りる。
首を鳴らし、犬歯を剥き出し、その鋭い眼光で敵を睨み、嗤った。
覚えていてくださりありがとうございます。
もし面白いと思ってくださった方は、レビューや感想、ブクマなどもらえると嬉しいです!
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




