紳士たれ
ジェネイダーの判断、それ自体には何一つとしてミスは無かった。
ただ違ったのは、根本的な力量。
サレンは体内に魔力を巡らせ、そして魔法を発動。
普段は幼く留めている肉体を、全盛の頃まで老けさせた。
生命の体内に籠る魔力というものには、とある法則が存在する――――若い方が回復が速く、年を取るにつれ出力が上がる。
魔力総量が上な筈のシフィーがカイエンに負けたのもこれが理由だ。
今、サレンの肉体年齢は二万程。
前提としてエルフという生き物が中々老けない上、サレンは始祖というのもあるので他の比ではないが、それでも姿は九歳女児程から二十代女性程まで育っている。
「今のを受けて生き残ったか、中々しぶとい――――だが、次はどうだ?」
「生き残った? いえ、未だ吾輩は死体でございます」
急ぎ防御結界を張った事で重症には至らず。
続く二撃目は飛んで回避。
飛行する自身の傍から、杭を生やし障害物とする。
「おお、面白い! すばしっこいではないか! では、これではどうだ?」
悪意に満ちた笑顔で巨人を操り殴りかからせ――――それを紙一重で避けた確信を抱きながら、ジェネイダーは床に叩き落とされた。
言葉通り、皮一枚の差と言えよう。
魔力操作速度が急上昇し、障害物を作りながらの飛行に余裕で追いつける様になり、結果左足に肉が生えたのだ。
「今度は当たった! しかも落ちて来たのはわらわの目の前か――――おい下郎、貴様の態度次第ではわらわの群に混ぜてやっても良い。殴って面白いというのはそれだけでいくつもの役割を果たすからな」
「脳の育ち具合か、随分と言葉遣いが変わりましたね――――そして、変わらず傲慢だ」
「…………何が言いたい?」
「因子覚醒」
瞬間、ジェネイダーを中心に凄まじい魔力の本流が巻き起こる。
その魔力は骨身に纏わりつき、生命魔法によって生えたものとは別に肉や皮膚、内臓を作り出す。
「吾輩の因子覚醒は特別性でしてな――――他が先祖の力を起こすのに対して、生前の力を起こすのですよ」
「随分と若返ったな――――お前の様な魔族でそれだと、二百あたりか」
「ご明察」
生前の姿となったジェネイダーは、貴族紳士服に身を包んだ褐色の若者となった。
互いに見てくれの歳は同程度で、手を伸ばせば届く距離で睨み合い。
先に動いたジェネイダーは、下から拳を振るう。
実際の拳から少し遅れ、半透明な鉄腕が追従――――素手と鉄腕
による二重攻撃を目論むが、幼体の頃より段違いに固くなった木で作られた盾に防がれて終わり。
次いで手刀と炎の斧、次いで蹴りと雷撃、次いで双拳突きと二連刺突、次いでフェイントを織り交ぜた裏拳と隠しナイフ、次いで、次いで、次いで、次いでと連撃を放つも、直撃は一つもない。
「履歴合成」
言うと、ジェネイダーは後方へ飛んで下がり、残ったサレンを水で出来た大蛇が呑み込む。
水を老いさせて蒸発させてしまおうとするサレンだが、直ぐに異変に気付く。
水に世界樹の老いない特性が合わさっていると。
「驕りましたね、レディ」
そう言って、視界に収まるサレンを遠近にて手で包む。
それはかつて、恐ろしき魔王へ世界から向けられた最終手段。
殺さぬ代わりに、身動き一つ取れず、魔力の操作も敵わず、無限の時間を過ごさせるという殺意を込められた攻撃。
結界術の応用であり、簡易化され世に広まり、未だ世界で最も強固な檻――――亜空封印
「ふははっ、まさかこの忌まわしき力を吾輩が振るう事が来ようとは…………しかし、先ずはこれで始祖を一人」
「こういうのは効かないわ――――悪いけれど、それが始祖というものよ」
声に振り替えると、そこにはジェネイダーの背に触れるサレンの姿が。
見てくれは幼く戻っており、言葉遣いも同じく。
少しの消耗も見えず、少しの異変も無く、平然とそこにある。
「言い残すことは?」
「――――天晴です、レディ」
それを最後に、ジェネイダーの肉体は老いて朽ち果てる。
既に作られた罠などは消えず、依然脅威を残したまま。
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