老輩と紳士
「神まで従えておったか…………フリートめ、因子覚醒といい幾つ手の内を隠しておるのじゃ」
シフィーの城に設置された本部のソファーにて、寛ぐ様な体制になりながら全ての戦場を見渡すジュエリー。
ふと窓の外へ目をやるが、まあ全ての戦いが嘘ではないのかと錯覚する程には静かなものだ。
サーニャや他金級冒険者らが警邏しているものの、そちらからも攻撃確認の報告は無く。
異常なほどに、異常が無い。
「嫌な予感がするのう…………」
呟き、ため息を一つ。
杞憂などではなかろうと確信し、より深く世界を見渡した。
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魔王城一階――――シフィーは違和を感じている。
普通こういう場所では他よりも強い魔物が出てきたり、罠があったりで侵入者の行く手を阻むものではないのかと。
「そうそう無いわよ」
「ムっ!!!」
不意にサレンがシフィーへ目を向け言う。
まるで心を読んだように、すっかり見透かして。
「期待してますって顔に出過ぎよ。それと物語の読み過ぎね――――ここは魔王の所有物であることを除けば普通の城よ。敵なら兎も角、罠なんて無いわ」
「別に期待とかしていないわ」
少しむすっとしながら進み――――不意に、足元でガコンと音が。
シフィーが下へ目を向けると左足を置いた位置の床が凹んでおり、次にサレンへ目を向けると、既に両手を合わせて謝罪していた。
「白状するわ、期待していました――――でもこのタイミングは無いじゃない」
次の瞬間、天井からギロチンの様に刃が落ちた。
エルドラとベスターがそれを拳で砕くが罠は終わりでは無い様で、続いて前方から無数の矢が飛来。
カザリームの出す肉壁で防ぐが、矢の刺さった部分から発火――――香ばしい香りを上げながら肉壁が消えた先には、一体の骸骨が居た。
「不死の王、ノーライフキングね」
「ええ――――Miss.シフィーをを除けば皆さまお初にお目にかかります。吾輩アンデット、ノーライフキングのジェネイターと申します。どうぞお見知りおきを」
ジェネイターの背後には、先程ギロチンの様に落ちて来た刃が左右に揺れ己が存在を主張している。
肉壁を出すまでは、ジェネイダーが現れるまでは存在しなかったものだ。
「吾輩死人であれど紳士。戦うならば公平を重んじましょう――――一つ、問われれば答えましょう。吾輩の魔法、戦闘スタイル、無論それ以外の事だろうと、好きに情報を仕入れなさい」
「ならばそうね――――ならば因子覚醒とは何か、聞きましょうか」
「ほう、中々に鋭い」
問うたのはサレンだった。
ジェネイダーは眼球のハマっていない目の奥にある光を細める。
「因子覚醒とは、つまるところ目覚めの力――――血に眠る優秀な先祖の因子を呼び覚まし、行使するというものです」
「道理で、急に魔力の質が変わってるわけね――――さて、殺すわ」
「既に死者ですがね」
「殺し直してあげるわ」
「面白い」
サレンが一歩ジェネイダーへ近づいた瞬間、骸骨の頬に僅かながら肉が生える。
驚愕し、骨の体で後ろへ飛びのくジェネイター――――天井と床に魔力を流すと、その個所に三十掛ける三十でそれぞれ穴が出来。
穴から鋭く殺意たっぷりな杭が飛び出す。
「恐ろしく素早い魔力操作…………成る程、吾輩を生き返らせてから殺そうというわけですか」
「障害物を増やす、正しいけれど切りがない対策ね」
「何、この戦いが終わるまでです――――レディ、初めての死をプレゼントして差し上げましょう」
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