からがらさながら
「アンタ、何やってんの…………!」
「寝返りと見るや否や子供を殺そうと…………軍隊としては正しい判断だ」
額に滴る血を辿れば、ブルーノの腕へ行き着く。
見れば刃が魔導鎧に食い込んでいる――――刃の元には、双子の部下であった筈の魔族が。
自分達の破壊衝動を満たすため後方で待機させていたにも関わらず出て来たという事は、双子の命令が効力を失ったという事。
今この状態が、裏切りと判断されたという事だ。
「これを持って冒険者ギルドへ走るんだ――――きっと受け入れられる」
言うと、ブルーノは二人の拘束を解いて自分の冒険者ギルド登録証を差し出す。
その言葉を信じるべきか疑うべきか、脳内を様々な情報が駆け巡っていると気付くや否や、仕方がないと乱暴な手へ移行。
自身の腕を斬りつけた魔族を蹴り飛ばし、双子の首根っこを掴み街中へと放り投げ。
護る為に孤立した。
「軍隊としては正しい判断だが、僕としては見逃せない行為だ――――敵味方問わず、子供は大人が護り育てるべき存在。にも拘らず刃を向けたお前達こそが、この戦場で唯一僕の真なる敵だ」
腕の傷は深いが、円谷の内部に仕込んだ自動回復の刻印術が発動している。
魔力も未だ八割と余裕を持って余り、ここからを戦いと定義するに充分な余力である。
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アルカディア近郊、魔物の死骸が積み重なる。
その頂点から降り立つは剣の鬼、カイエン――――戦闘の最中着物がはだけ剝き出しとなった筋骨隆々の上半身からは、汗が蒸発して蒸気が上っている。
「お疲れ様です――――うちだけでこの数とは、凄い勢力ですね魔王軍というのは」
「足りねえ」
「斬り足りないと?」
「違げえ…………俺を殺しに来る戦力としちゃあ、足りなさ過ぎるって言ってんだ」
「それは、どう言う――――――――」
次の瞬間、魔物の死骸より魔力が湧き上がる。
2人揃って目を向けると、個々が生き返ったかの様に起き上がり――――空の一点に向かい浮き上がって集まり、固まる。
「これは、死霊術…………!」
「やっぱりな、ここからが本番だ!」
その獣人程鋭い犬歯を剥き出しにして、再度魔物の山へと突撃。
一振りで数十を薙飛ばすも、相手は既に骸。
痛みなど感じず、危機など感じず、体が動かなくなるまで何度でもカイエンに向かい襲いかかる。
敵の中心へと飛び込み、出血すらしなくなった体を叩き斬り、最初はいくら斬っても立ち上がる敵に喜んでいたが、次第に表情が曇る。
見守るシェリンは体力が尽き始めたのかと心配するも、一度武器を取り替えに戻った様子を見るとどうやら違う。
何せ欠伸を零しているのだ――――シェリンはジュエリーちゃん係として長らく過ごした結果、冠級となる、所謂ヤバい奴の扱いにすっかり長けてしまった。
その経験からくる感が脳裏で繰り返す――――この男は、飽きているぞと。
少し考えればわかる話だ。
カイエンが普段から斬りたがるのは、物言わぬ無機物ではなく敵――――つまり、心を持たずただ操られるだけの魔物などいくら斬っても楽しくないのだ。
急ぎ脳を回す――――武器を渡す一瞬に、何かカイエンを再度楽しませる一言を言わねばと。
「………………魔物は、武器に過ぎません!」
「あのババアが気に入る筈だぜ」
刀を握る手に、より一層の力が籠る。
再び魔物へ向かう一歩目は激しく、地面を砕き跳び去った。
体が直線の軌道から浮き上がる程の速度で突き進み、大口開けて待つジャイアントワームを両断。
先にあるワイバーンの群れへ着地すると、両翼を落とし落下開始――――自由落下中、身動きはとれまいと統率の取れた動きで襲い来る有象無象は急所よりも手足や羽を斬り。
落下が終わり着地すると、地面が砂化して蟻地獄の仕組みでカイエンを呑み込もうとする。
「止めときな、腹ァ壊すぜ」
足元に向かい、一度刀を空振り――――ただそれだけの風圧が砂を巻き上げ砂塵を起こし、残った砂同士が強く押し付け合う事で足場は固まる。
脱出すると今度は巨大な蜘蛛の巣が待ち構えており、拘束と同時にチッチッチと音が聞こえ。
聞こえる方へ目を向ければ、顔のない猿が石を打ち火花で巣に着火。
細い糸の所々には火薬が染みており、数珠繋ぎに見える形で爆発が連鎖する。
が、向かい火の様に垂れ流されるカイエンの魔力には押し負ける。
爆炎は肌を焼く一歩手前で掻き消え、徐々に勢力を弱め。
そんな火中、鋭い眼光の目玉が死骸の山に向かいぎょろりと動いた。
「そこだな」
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