無垢なる衝動
ブルーノは考える、目の前の双子をどのようにして無力化したものかと。
端から殺すという選択肢は無い――――嘗て己の魔法を介して見た異世界のヒーロー。
強きを挫き、弱きを護るその姿に憧れ、魔導鎧を作り言動を真似た。
正義のヒーローは子供の味方。
己の力と成長で、これから育つ子供を導くべき存在。
故に現状、敗北の危機に瀕しているのだ。
子供とはいえ、メニスとソニアの実力は一都市の侵略を率いるに足るもの。
二人を同時に相手どれば全力を尽くさねば危ない存在だ。
「まだ手加減してるの? マジ舐めすぎぃ」「まだまだ私達は無傷」
「全力を尽くすわけにもいかないからね」
二人の猛攻に対して全力で回避行動を取りながらも、行動パターンを読む。
狙われているのはブルーノ本体と、影。
予測をするに、ナイフは魔剣であり能力は影から本体への干渉。
そして双子の魔法が、攻撃を当てた対象の能力を一割削る。
魔法発動のトリガーは触れる事よりも一定以上の衝撃か傷をつける事である事は、刃を指で挟んでの防御で能力が削られない事から確証を得ている。
「君達は、どうして魔王軍に入った! 君達なりの正義があるのかい!? 事情があるのかい!?」
「ハハッ、如何にもって考え!」「正義? 事情? そんなの関係ない」
双子は刃を振るい、腕の一振りで弾かれた衝撃に乗って距離を取り。
着地した先で間を合わせると、声を合わせ楽しそうに言った。
「「因子覚醒」」
瞬間、双子の纏う魔力が跳ね上がる。
様子は依然楽し気、気に入りの玩具を手に入れた様に無邪気な殺意を抱えている。
「「私たちは壊したいから魔王軍に居る。正義とか悪じゃない、ただ好きのために」」
「そうか、なら何とかなりそうだ」
次の瞬間、双子はそれぞれナイフを投擲。
真っ直ぐ直線でブルーノを狙うものと、山なりに弧を描き狙うもの――――それぞれ時間差で直撃するという事で警戒し、直線のナイフを弾こうとした瞬間、ブルーノの頭が蹴られた。
「なッ…………!」
「ばぁーかっ、簡単に引っ掛かりすぎ」
そう言った双子の姉、メニス。
続いて山なりの軌道を描いたナイフの元へと現れたソニアがブルーノの頭へ全力の踵落としを放つと、その勢いで円谷の両肩部分を斬りつけ。
反撃に放たれた魔力弾を回避するとナイフをブルーノの背後へ放り。
それを蹴り飛ばされると、少し残念そうにその場から姿を消し、再度ナイフの元へ姿を現した。
「そうか、双子…………混ざっているんだね」
「せーかい。相変わらず鋭いね」「そう、私たちは混ぜ子」
母体に孕まれた双子がそれぞれ別の魔法を持っていた場合、羊水の中で互いの存在が混じり合い様々なものを共有する。
一つの魔力を共有し、五感を共有し、魔法を共有し、一つの命を共有する。
どちらかを傷つければもう片方も同様に傷つき、どちらかを殺せばもう片方も同様に死ぬ。
それが混ぜ子だ。
弱ければただ危ういだけの存在だが、双方生まれ持った魔法が協力ならば厄介。
人類の例外的に、二つの強力な魔法を操る存在が猛威を振るうのだから。
この場合共有された魔法は影への攻撃と、攻撃した対象の能力一割減。
魔剣の能力は別にあったと言うわけだ。
「そのナイフは、魔力を込めて投げた先への瞬間移動だね?」
「それもせーかい。全部分かるじゃん」「なんでもお見通し、お披露目し甲斐がある」
ブルーノの感想としては、厄介。
種が割れた時点で対策出来る様なものならば良かったが、今回のはそうもいかない。
二つの魔法はさっきまでと何も変わらない危険度であり、ナイフの瞬間移動は回避した投擲から意識を離せないという厄介さの上昇。
警戒出来る事と警戒させられる事の差は大きい――――強いられるストレスは、精神を削るのだ。
「ネタは出し尽くしたよ――――ここからは、終わるだけ」「もう死んでいいよお兄さん」
「そうか――――ならばここからは、僕が見せる番だ」
重くなった腕を上げ、掌を見せ、魔力を収束。
その一撃に攻撃性は無く、無力化を目的とし切った行動だ。
眩い閃光、鼓膜を震わす高音。
八手には無かった新機能だである。
「光音響弾」
通常の敵に使用すれば、一瞬怯む程度の代物だ。
だが五感を共有するこの二人に使えば威力は単純に倍。
視覚と聴覚を取り戻す頃には、手足を拘束した上でナイフを奪っていた。
「本当に殺さないつもり? 私達は壊すのを辞めないよ」「私達は無垢だから、付け入る罪悪感なんて持ち合わせてない」
「別に辞めろなんて言わない、壊せばいいさ――――ただ相手を選ぼう」
ブルーノの脳裏には一人の男の顔が浮かんでいた。
ただ壊したいがために力を振るう剣の鬼でありながら、社会に適応する存在。
冠級冒険者として、今も世界のためという大義名分の元、破壊を楽しむ存在。
「カイエン・キリギリという男は正義の名の元、破壊を尽くす。君達が目指すべき人物だ――――壊して良いものと悪いものを学び、欲を抑え込む。そう育ってはくれないかな?」
「やだよ、我慢なんて楽しくない」「同意。壊したいときに壊す」
「分からないか、そうだね…………同じ食事にしても、満腹より空腹時の方が美味しいだろ? 僕についてくれば、飢えず上手に腹を空かせる方法を教えよう」
「そ、そんな事言ったって…………」「ん、私魔王軍辞める――――そうしたら、もっと楽しい?」
「ああ、約束しよう」
「ちょっとソニア、何言ってんの!」「別に楽しければどこでもいい。でしょ?」「だからってこんな所で――――」
言い終えるより早く、ブルーノはメニスを押し倒す。
従わない自分を暴力で黙らせるつもりかと思い逃げ出そうとして一秒、額に血が流れた。
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