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かなた届かぬ夢を見て

 因子覚醒を行ったアンジェリカの戦力は、それ以前の十五倍は易く――――少し前とは打って変わりヘルムが防戦に回っていた。

 攻撃に動員されるツタの数は千二百。

 それらを回避し、焼き、反撃の隙を狙うも防御用ツタも同数。


 魔弾が通る僅かな隙間もない。



「手伝い、必要かしら?」


「エルフの始祖様ってのはお優しいね――――でも、結構」



 スカートの様なひらひら動くものがないレザーのライダースーツで、ツタの攻撃を潜り抜ける。

 腰に装備した魔力爆弾を投じ、焼け落ちたツタを壁にして炸裂を確認。

 未だ燃えるツタの炎で煙草に火をつけ一服――――笑顔は未だ耐えていない。



「良いね、ずっと的当ては飽きると思ってたんだ」



 吸殻を弾いて捨てると魔力を広げ、感知でツタの全てを把握。

 脳が負荷に耐えかね流れた鼻血を指で唇に広げ、銃身にキスをした。



「センサーフル勃ち、感度ビンビン――――戦おうじゃないか」



 瞬間、アンジェリカ目掛けて突撃を開始。

 回避の精度は上がり、ツタの棘が皮膚と絹一枚の距離まで接近。

 依然無傷を貫きながらも、その身は死と隣り合わせにあり続ける。



「ちょこちょこと動き回って鬱陶しい…………! 日撃砲(サンフラワー)!」



 ツタを束ね花弁を作り、その中心から光を放った。

 これまでアンジェリカが浴びた日光の一部を砲撃としており、触れたものはその高温に身を焼かれるドリアードの特性を活かした一撃。


 威力、速度、範囲の全てが申し分なし――――並みの魔物や冒険者相手ならば、回避など出来ず骨まで焼けたであろう。


 しかしそこは冠級――――青の魔弾を自身へ放ち、氷で光を屈折させる事でみを護り。

 光が止む頃には熱により氷は解け自由を取り戻していた。



「良いね、羨ましいよ――――私にはアンタや他の冠級みたいな決定力のある技がなくてね、ノミでもって女神様の銅像でも削る様に、チマチマと撃ち続けるしかないのさ」


「焦りが見え透いているぞ、ヘルム・ダーティネス!!!」


「私はアンタの鏡だよ」



 再度、日撃砲が用意される。

 今度は無言で放たれたソレから一度目と同じ方法で身を護るも、最早無傷ではいられない。


 いくら屈折させようが少なからず身を焼く光と、氷が解けて蒸発する際に発生する蒸気での火傷。

 少しずつではあるが、ヘルムのダメージは蓄積されている。


 対してアンジェリカは植物由来の回復力で焼けたツタを即座に再生。

 体力の差は次第に広がっていく。


 そんな中、初めてツタがヘルムに直撃した。

 胴を護る様に差し出された掌――――合皮の手袋を破き、皮膚を破き、浅くも確かに傷をつけた。


 掌に付いた傷というのは存外厄介で、命に直接関わる事はそう無いが、武器を握れば必ず痛み集中を阻害する。

 手の握りとタイミングの見極めが胆の早打ちで言えば、鳥の翼を捥いだ様なものだ。



「――――構造解析(キャッチ)


 

 ツタが掌から離れるより早く、傷の痛みに堪える事無くヘルムは言った。

 


魔弾抽出(リリース)



 続けて言うと、ツタに触れてのとは逆――――つまり魔導銃を持った手の中に一発緑の魔弾が現れる。

 これこそがヘルムの操る魔法、魔弾精製のキャッチ&リリース。

 掌で触れた物の作りを解析して、反対の掌から解析した効果を持った特殊な魔弾を精製する。

 作り出した魔弾の効果は実際に使用するまで不明とギャンブル性を孕むが、そこは使用者が使用者。

 ヘルムは隣に死が並ぶ危険区域の中、更なる危険へと笑顔で踏み入る。

 緑の魔弾を込め、銃口を己の首に向け、一発撃ち出し。

 

 ヘルムが何をしているのか理解に遅れ、一瞬動きを完全停止させたアンジェリカ。

 その一瞬は、勝負がつくのに充分過ぎる時間であった。



「あの世への直行パスだ。精々抱きしめな」



 緑の魔弾に込められた効果は、急速回復。

 ヘルムの負った傷全てを癒し、その身に早撃ちを取り戻させ。

 次に込めた赤の魔弾で胸部に風穴を開いた。



「ドリアードの討伐経験は何度かある――――その胸に人間の心臓と同じく宿る生命の源、種を破壊してしまえばあとは死を待つのみ。そうだろ?」


「まさか、私の再生力を…………っ!」


「同情してやるよ、ドリアードのアンジェリカ。アンタは可哀想だ。尽くす相手を間違えたね」



 倒れたアンジェリカに一言残しながら煙草に火を付けると、それ以上は一瞥もせずに城の中へと進み――――他五人も何も言わず、後に続く。


 もう助からぬ傷を負い、一歩動くことすら叶わない状態で放置されたアンジェリカは静かに涙を流すと、それを拭い肺に息を溜めた。

 捨て駒にされたと知ってなお崇拝し、敬愛し、恋慕するフリートのいる城に目を向けると、精一杯手を伸ばし、声を上げた。

 フリート様万歳、フリート様万歳と命尽きるまで繰り返し、その思いを叫び続けた。

 

読んでくださりありがとうございます!

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(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

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