鉄を打つ者
100話!
上質な鉱石の眠る鉱山の傍、この世界の戦闘を支える隠れ里がある。
名をファウグス――――総人口千人前後、その全てがドワーフだ。
街中へ繋がる唯一の山道は崖に囲われ一本道。
そこに立ち塞がるフェーローがかつてない程影のかかった表情で道の先を睨んだ。
「この場所は一度住まえば生涯出れず、行商も儂自ら信頼した者のみ――――にも拘らずこのありさまとは、悲しいわい」
黒い外套の集団、ジュエリーから聞いた埋葬機関の特徴と一致している。
それ即ち、内通者が存在する。
「さて警告をしておいてやろう。何もせず去れい」
「始祖のドワーフ、フェーローを確認。抗戦を開始する」
ため息を一つ溢すと、戦斧を手に取り一閃。
自身後方の崖を斬る落とし道を塞いだ。
「さて、老人なりに斧を振るってみるとするか――――何、一人二人は生かしてやる故ゆるりと祈れ」
担いだ戦斧を、重さだけで振り下ろし。
間合いの遥か外に居る埋葬機関の戦闘員が、何か目に見えないものに斬られ倒れた。
「散れ」
その一言で戦闘員は皆バラバラに。
フェーローを囲う様にして位置取ると、一斉に唱えた――――因子覚醒と。
瞬間襲い掛かった戦闘員達、先ずは十名。
内八名は戦斧の間合いに入るより早く胴が両断され、残り二名も戦斧で直接同じ様に。
突撃せず残っていた者達が、直ぐに原理に気づいた。
それは武器に強化を施すため魔力を流す様、薄く流れる魔力。
ただその魔力が刃を離れ広く、薄く流れるものだから、感知し難い上に本物の刃同様斬れる。
全ての武器が間合い無用、魔力の刃を切り抜けた先には巧みに操られる真の刃。
なんとも厄介な二段構えではあるが、戦闘員達は別の点に戦慄する。
ここまでの数手、未だ魔法が一切使われていない。
フェーローは普段鉄を打ってばかりなので、始祖の中で最も戦闘データが少なく未知。
戦闘スタイル、戦闘力、魔法、その全てが解明されていないのだ。
「双牙っ!」
「なんじゃこれは、研ぎが全く足りんではないか」
背後より穿つ様に放たれた双式の短剣。
それを戦斧の腹で止めると、そのまま腹を滑らせ――――刃を超えて相手の腕を斬り落とした頃には、すっかり刃が研がれている。
戦斧に研ぎ石としての役割など無いが、流す魔力をミリ以下の単位で操りざらつかせ研ぎ石代わりとする神業によって行われた所業だ。
「うむ、これで良し。この仕上げはバルタン製じゃな。適当な仕事をしよってからに…………」
次いで投擲されたダガーを人差し指と親指で掴めば、今度はほう! と感心して見せ、刃の腹を指で撫でる。
「機能性を落とさず見事な装飾、これはベルーゼ製か――――だが」
ダガーをノールックで背後へと振るい、迫る戦闘員の顔面へと突き刺し、鍵を回す様に傷を抉った。
「少々柄が長いな――――どれ、これはドルトン、こっちはサーガ。メニトレイン、バサス、メルニカ。おっ、ココリアか。腕を上げたのう」
戦闘員を次々に仕留めながら武器を一つずつ品定め――――未熟さにため息をついたり、成長に目を細め喜んだり。
しかし内心はその様な穏やかさとは無縁――――ファウグスの場所を敵に流しただけでなく、ドワーフの誇りである武器を悪へ渡した内通者へ怒りを滾らせる。
「心を敵に売り、鉄を打つより算盤弾いた恥知らず…………安心して儂を待てい。貴様の骨を炉で溶かし、一振りの刃としてやろう」
築き上げた死の山に立ち、歪んだ表情で言った。
怒りに声は震え、握った拳には青筋が走る。
ドワーフの祖として、一人の鍛冶師として、絶対に許せぬ敵が出来てしまった。
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