十、少年少女は。
雄太は砂浜で胡坐をかいて座っている。
加奈は海中へ潜っている。勿論、真裸ではない。
(あった!)
彼女は光り輝くそれを、手を伸ばして拾いあげ、そのまま海面へとあがる。
顔を海面につきだすと、砂浜の彼に手を振って知らせた。
焚き火は赤々と燃えていた。
すでに陽は沈んで、8回目の夜が訪れていた。
今日は満月で、月の光が砂浜にやさしく差し込んでいる。
2人は無言だった。
雄太は傍らにあるMDを拾う。
外側のプラスチックケースは、朽ち果てていて中の円盤がはみだしていた。
さっき、海底で加奈が拾いあげたものだ。
「どういうことなんだろう」
加奈が呟く。彼女の頬が炎によって、真っ赤に染められたように雄太は見えた。
「・・・ノアの箱舟の話は知ってる?」
雄太は突然言いだした。彼の瞳には炎が映っている。加奈はこくりと頷いた。
「その船が発掘発見されたって」
「・・・・・・」
「もし、それが本当だとすると、一度、人類は滅んだことになるよね」
「それって・・・」
加奈はもう何も考えたくなかった。
「穴にあった朽ち果てた車、柱にかかれてあった2010の文字に、朽ち果てたMD・・・これは・・・」
彼が言わんとする核心をつこうとした時、
「きっと、誰かの悪戯よ」
加奈は話をはぐらかそうとする。
「誰がこんな手のこんだ悪戯をするんだよ」
「・・・・・・」
返しが思いつかず黙り込む彼女。
雄太は息を吸い込むと、吐き出すように一気に喋った。
「俺たちは地平線に吸い込まれた時、ずっと未来の世界に来てしまった。・・・そしてこの世界は、修学旅行を楽しんでいた世界とは違うかもしれないけど・・・人類はほろんでいるんだろう・・・・・・もしかしたら、俺たち人類は何度も何度も、同じことを繰り返しているのかも・・・」
「やめて!」
加奈の悲痛な叫び声に、雄太は我に返り苦笑した。
「ごめん、そうだね。もう一度、島をしっかり調べてみよう。何かまだ分かるかもしれない」
彼はそう言いつつ、半分諦めにも似た思いを自身に感じていた。
つとめて、彼女に笑顔を見せると家の中へ戻った。
加奈は、体操座りで身をかがめ、炎が消え入るまでじっと見つめていた。
それから数日、2人はくまなく島を探索した。
雄太は自分の持論が核心に変わるのを恐れつつ。
加奈はそれが間違いであることを信じたいに・・・が、これといって手がかりは掴めないままだった。
そして最後に唯一、探索していない島の険しい山頂部を目ざす。
絶壁を登るのは、かなりの危険をともなうが、2人は互いに真実を知りたいがゆえに、頂き目指し崖をよじ登る。
雄太が先に進み、木や岩の突起に安全を確認したうえで、蔓でつくったロープを降ろし、加奈は後に続く。慎重に2人は協力し、やがて微妙なわだかまりも消えていった。
ついに、彼の手が山頂へとかかる。加奈に手を差し伸べる。2人で頂きへと立つ。
「・・・・・・!」
それを見た。
2人の時が止まった。
頂きには、人類の行きついた先がそこにあった。
2人は再び洋上にいる。
共に同じ答えを持っていた。
何故、生かされたのか・・・。
生きるために・・・そうでなかったとしても・・・。
完
200202
読んでいただきまして、本当にありがとうございます。
2人が頂きで見たものとは・・・「猿の惑星」みたいに自由の女神?あるいは東京タワーやスカイツリーそれとも・・・人類の行きついた姿?
そこはみなさんの判断に委ねます。
壮大なお話で、よくも当時こんな話書いたなと・・・このド変態(笑)と、今の私は言ってやりたいです。
ま、若気の至りのチャレンジャーということで良しとしましょう。
重ねて、感謝でございます。




