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新三国志 退廃帝曹叡と賢英帝劉禅  作者: 水源
建興12年(234年)
38/41

五丈原に巨星墜つ

 孔明の元では魏延・呉壱・呉班・高翔・王平・廖化・張翼らが将軍として兵を率いていた。


「さて、みなさん今こそ先帝の行いに報いるべきときです」


「おう、そのとおりだ!」


 そういうのは魏延で、彼は諸葛亮とはソリの合わないところもあったが、無名の自分を引き上げてくれた先帝劉備への忠誠という意味ではどちらも同じであることもわかっていた。


 そして魏延以外は地味だが堅実に戦果を上げてきた歴戦の将軍たちである。


 魏延については武将としては非常に有能だし、先帝劉備への忠誠心も間違いないのだが、その一方で己の武勇を誇る余り、諸葛亮を臆病者と言ったりしており、また狭量で傲慢な人間で、そういう点では関羽にも似ているだろう。


 だからこそ諸葛亮は彼を自分の目の届く範囲の手元で使うしかなかったのだ。


 関羽のように同僚に裏切られて魏や呉の侵攻を許しては元もこもないからだ。


 呉壱と呉班については妹である穆皇后が、孫尚香のあとに劉備の皇后となった関係で彼等は外戚であることから諸葛亮に警戒されていた。


 もっとも当人たちは”硬骨漢かつ博愛の人物。弱兵によって強敵を撃破し、苦境に陥ることがなかった”と賞賛される人物であって、外戚だからと専横を振るうようなタイプではなかったようではあるが。


 街亭の戦いでも魏延や呉壱を派遣して街亭を守らせたほうがいいのではないかとの声を無視してまで馬謖を使ったのは魏延や呉壱を手元においておきたいがためであった。


 高翔は漢中一帯に攻め込んだ劉備に従軍しており、曹真や郭淮には撃破されたりしているが、彼も歴戦の将軍。


 王平も漢中一帯に攻め込んだ劉備に従軍しており堅実に功績を立ててきた。


 廖化は関羽の主簿として荊州で闘っていたが、後に丞相参軍、右車騎将軍と昇進し、北伐へ参戦しており、史実では姜維と共に蜀が滅亡する日まで戦い抜いた歴戦の将軍。


 張翼は前漢の張良の子孫であり、高祖父は司空となった張晧、だが劉備が益州を平定したときに採り立てられ、定軍山の戦いでは趙雲の指揮下で曹操軍を大いに撃退した。


 魏延を除けば基本に忠実で地味に戦える堅実な将軍たちであり、曹操の配下であれば魏延は張遼、他の諸将は楽進や于禁タイプであった。


「魏(延)将軍は前鋒にたち、突撃して魏軍を混乱させてください」


「おう、任せろ! 魏の兵など俺の部隊で打ち破ってくれるわ」


 初活用に命じられた魏延は先頭に立って敵陣に突入しつつ、敵兵を切り伏せて、武曲の長を斬りすてて魏軍の奥まで突き進み、混乱を作り出した。


 かって関羽が曹操のもとにいた時に顔良を即座に切り伏せたことにも似ているが、このあたりは天性の嗅覚というものであろう。


「なぜ兵の数でまさる我々が正面からぶつかっているにもかかわらず押されている?」


 曹叡は相手よりも数の多い自軍が混乱する理由がわからなかった。


 しかし、項羽が劉邦の大軍、劉秀が王莽の大軍を打ち破ったり、張遼が孫権の大軍を打ち破ったりなど時に個人的武勇により少数が大軍を撃破する例というのは出るのである。


 そして曹叡は戦略眼が優れていたからこそ、戦術でのありえないような逆転劇までは予想していなかった。


「ここは一旦引くべきか」


 そのように逡巡しているのはこの状態で退却しようとすれば間違いなく多くの兵が離散するということであったが、その逡巡が命取りとなった。


 正面からは魏延、右後方からは司馬懿、左後方からは趙兄弟を先頭とする劉禅の部隊が兵をなぎ倒して曹叡の元とへたどり着いたのであった。


「陛下、ここは自分が引き受けます。

 お逃げください!」


 曹宇がそう言って正面の魏延の前に立ちふさがった


「すまぬ、生きて戻れよ」


「無論でございます」


「おのれ逃げるとは卑怯な!」


 曹叡は真後ろへ向かい逃げようとしたが司馬懿の馬の脚の速さは予想を遥かに上回っていた。


「曹叡よ! いつかのお前の行いを悔やんで死ぬがいい!」」


「陛下!」


 司馬懿の元へまた別の将が立ちふさがった。


 許褚の息子の許儀である。


「すまぬ」


 だがさらに彼の前に立ちふさがったものがいた。


 姜維と馬謖である。


「その首、貰い受ける!」


「援護いたしますぞ」


 彼等にもまた別の将が立ちふさがった。


 夏侯覇である。


「そうはいかぬ」


「すまぬ」


 だがさらに彼の前に立ちふさがったものがいた。


 趙統と趙広の趙兄弟である。


「父の敵! ここで取らせてもらう!」


「わが怒り! 思い知れ!」


「いや? 一体なんのことだ?」


 曹叡が直接趙雲を殺したわけではないので曹叡には意味がわからないが、俚諺を謀反させた張本人である曹叡を趙兄弟が敵というのは当然である。


 そして劉禅もその後ろにいた。


「漢室より帝位を簒奪したものよ、その報いを今こそ受けるが良い」


 趙統と趙広の趙兄弟が曹叡に切りかかった。


 曹叡は何度かは二人から振るわれる剣を打ち払ったものの、ついに趙統の剣が曹叡を捉えた。


「くっ」


 そして曹叡がバランスを崩して落馬したところで趙広がトドメの一撃を打ち込んだ。


「くっ……まさかこのようなところで命を落とすことになるとはな……」


 魏の2代目皇帝曹叡は五丈原にて戦死したのであった。



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