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新三国志 退廃帝曹叡と賢英帝劉禅  作者: 水源
建興7年(229年)
17/41

劉禅は己の正義を貫く

 さて、蜀漢の皇帝である劉禅は街亭の戦いの後は楊儀や趙兄弟、馬謖、姜維などと共に成都の治安維持や補給線の確立、交易などによる財源の確保などに全力を注いでいた。


 そして諸葛亮や司馬懿はそれをもとに全力で函谷関まで攻め入ったが、曹叡の頭脳と嫌がらせにより敗退し、最終的には長安も奪回されてしまった。


 そして呉の孫権が皇帝を名乗ったことで呉を討伐すべしという声が高まったことで、諸葛亮は北伐を中断して成都に戻り群臣を説き伏せて呉との同盟を結びなおしたがわだかまりが完全に溶けたわけではなかった。


 劉禅は急展開する現状にため息を付いてつぶやいた。


「なかなかうまくは行かぬものだな。

 朕は心を入れ替え、丞相などの手助けをしようと思っておるのだが」


 彼の后となった李厳の義娘、李星彩はそんな劉禅を慰めようとする。


「陛下は最善を尽くされておられますわ。

 そして丞相(諸葛亮)も大将軍(司馬懿)も、ですが……」


「うむ、新たに魏皇帝となった曹叡とその側近たち。

 司馬懿が我が方に下ってもなおまだ彼我の国力差は大きすぎ、そしてその才能は恐るべきものがあるということか」


「……残念ながらそのとおりかと」


 この時代における国力とはすなわち人口そのものである。


 蜀の戸籍上の人口がおよそ100万人で、軍人は10万、呉の戸籍上の人口はおよそ230万人で、軍人は23万、魏の戸籍上の人口はおよそ450万人で、軍人は45万程度と言われるが、実際の人口は軍屯田や民屯田の耕作を行う戦乱のある地方から流れてきた耕作や軍役を行っていても戸籍のない流民や戸籍に乗らない子供や老人の人数がいるはずでそれらを加えるとおおよそ、それぞれが魏の人口1800万人ほど、呉の人口750万人ほど蜀の人口450万人ほどになると思われる。


 更に平地が多い魏の中原や華北と山地が多い揚州荊州や巴蜀では面積が同じでも農産物の取れ高が違う。


 結局、国力の比率は魏6:呉2・5:蜀1・5から魏6:呉2:蜀1ぐらいになり圧倒的に魏が抜きん出ているのは変わらないのである。


「なれど、献帝を弑逆した魏は必ずや打倒せねばならぬ」


 劉禅は以前に孔明の講義を聞くき、帝は民のために何をするべきか、何をしなければならないかをおそわることで論理的思考というものが大事だということを再認識していたがあまり得意と言えなかった。


 しかし曹叡という男はそれを得意とするだけでまるで千里眼を持つがごとく遠くの状況を予想して対応しているといい、雍州の北部を奪いかえされ、長安も同じく奪い返されたのは曹叡の頭脳によるものであるらしい。


「朕は負けるわけには行かぬ、卑劣で傲慢な曹叡などにはな」


 李星彩はうなずく。


「そのとおりでございます」


 しかし曹叡は人格的には多大な問題があっても、彼が政治や軍事における超天才であることは間違いがなく、この先の困難が大きいことは劉禅も李星彩もよくわかっていた。


 軍事における才能では諸葛亮や司馬懿今はなき先帝劉備や関羽・張飛・趙雲、そして恐るべき敵である曹叡に勝つことができるとは思えぬのであらば、内政や後方支援で諸葛亮や司馬懿の手助けをするべきであり、呉の孫権の思い上がった行動に内心は腸が煮え返る思いではあるが劉禅は厳しい現実を考えれそれもやむおえぬと己に言い聞かせているのであった。


 多方面に才能が抜きん出た人物はそう多く出現するわけではない。


 それを考えるのであれば美貌・軍事・政治のすべてに老いて優れた才能を持つ曹叡は恐るべき人物であるとは言える。


 しかし、そうでない者にとって大切なのは、自分の意を正確に受け取って、うまく行動のできる人物を多く集めて、助言を吟味して正しい判断を行い、適材適所にて配置することが大事なはずである。


 漢の高祖たる劉邦はまさしくこれを行った人物であり、魏の太祖となった曹操や曹丕、先帝劉備もこれに近いところがあった。


 少なくともこれができる人物はただ単に戦争に勝ったり、戦略や謀略をを練ったりできる人物より稀有でありそれが故に強い。


 ならば自分もそれを目指すべきであると劉禅は再び思い直したのである。

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