UD商会
ミドルガルドのトラスティア王城を多くのアスティア兵が取り囲んでいた。
「全てはアスティアの為に!」
アスティア兵は皆口を揃えて叫んだ。
アスティア王スパイデルはコルホ山の麓に陣を張っていた。スパイデル王は黒い甲冑で武装して葉巻を吸いながらふんぞり返っていた。陣中には女性騎士も居合わせていた。
「何をちんたら取り囲んでおるのだ!あんなちっぽけな城、力攻めで容易く落とせる筈だろう!」
スパイデル王は女性騎士に言い放った。
「スパイデル王…、確かにトラスティア軍は元老院軍やそれを支持する各国の軍による度重なる攻撃で兵力も攻略を開始した二年前の二割以下の状態だ。しかし、相手は城に籠っている。相手の兵力が少ないとはいえ、下手に攻撃すれば罠等でこちらの被害も大きくなる。いたずらに兵を死なせるおつもりか?」
女性騎士はスパイデル王に相手の戦力を伝えると同時に力攻めはすべきでないと伝えた。
「なら貴公はどう攻略するつもりだ!?『戦女帝』と呼ばれる貴公の事だ。何か結構な策でもあるのだろう!」
スパイデル王は戦女帝にどう戦術を展開するか尋ねた。
「策なら…、ある…。戦の申し子よ、いるんだろ。こっちに来い。」
戦女帝が戦の申し子ベムに陣に来るよう促すとすぐに彼がやって来た。
「元BBB団の傭兵か?」
「そうだ。彼奴を城に潜入させる。ベム、訓練の成果を見せてやれ!」
戦女帝はスパイデル王にベムを城に潜入させる提案をし、彼に訓練の成果を見せるよう背中を押した。
「ああ…。」
ベムは陣を出ようとしたが、スパイデル王が呼び止めた。
「ベム!トラスティア王は何としても生け捕りにしろ!奴には聞き出したい事がある!それから他の奴らは皆殺しだ!いいな!」
「…わかった…。(…随分と偉そうだな…)」
ベムはスパイデル王に顎で遣われる事に内心不服としながらもトラスティア城に向かった。
話を戻して、街の郊外の空き家に連れ出されたケントAU団一行は二人の男性からの話を聞かされていた。一行は窓側で、男性側は扉側で向かい合っており、大柄な男性がユリアを人質として拘束していた。
「あなた方の鍛え上げられた身体は実に素晴らしい。しかし、それだけでは宝の持ち腐れ。その素晴らしい身体を活かすべく、うちの技術でより最強の存在へと生まれ変われます。勿論、シュバリア族の義手も兵器化すれば最強は間違いないでしょう。さあ、サインを…。」
男性にサインを催促されるも、ケントはサインすべきかどうか迷っていた。
「団長…、サインすべきではありません…。」
ケントにサインすべきでないと説いたのはジジョッタだった。
「あなた達からは…、かなりのBEを感じます…。わたくしの目はごまかせません…。」
続けざまにジジョッタは男性二人を明らかに怪しいと毅然と主張した。一行も彼女と同じ表情だ。
「ほほう…、あなた達はこの娘の命が惜しくないのですか?」
男性はユリアを指さして自分達は人質を取っている事を主張した。
「何を言っている!?」
ケントは男性に言い放った。
「何故そんな強気でいられるのです!?」
男性は一行が人質に取られても何故強気でいられるのか疑問だった。
「この娘は…、既に死んでるんだ!」
ケントはユリアが既に死んでいる事を二人に明かした。
「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
男性二人は狼狽した。ユリアは大男の拘束が緩んだところを脱け、大男のすねに蹴りを放つと、橙色の歯車の形をした閃光が発生し、大男は怯んだ。そして、一行の元に戻った。
「…おのれ…、わたくし共UD商会のご厚意を反故になさるとは…。『スケロック』、一行共を叩き潰してやりなさい!」
「承知した…、『ドリー』会長…。」
UD商会会長ドリーは交渉決裂の腹いせとして連れの大男スケロックにケントAU団一行への攻撃を命じた。しかし、次の瞬間、何者かが扉を破壊してやって来た。大きな剣と大きな盾を携えた大柄な全身黄金の甲冑の騎士と黄色装束でやや短めの金髪の女性騎士だった。両者の左胸には星の紋章が施されていた。
「UD商会よ、ここで不適切な商談が行われていると聞きこの流星騎士団が参った次第だ!『キング』、窓際の一行を護るんだ!」
流星騎士団に属する女性騎士はUD商会の二人に不適切な商談を聞きつけ駆けつけたと言い放つ一方、黄金の騎士にはケントAU団を守護するよう命じた。
「承知…。ELアビリティ、『シャイニングフィールド』!」
黄金の騎士はケントAU団に駆け寄り、盾から黄色い星の形をした閃光を発し、光属性ELアビリティ『シャイニングフィールド』で光の障壁を発生させて一行を包み込んだ。
「くっ…、スケロック!撤退です!」
「了解だ…。」
スケロックはドリーを抱えて脱出した。
「有難うございました。」
「感謝致す…。」
「ユリア、怖かった!」
流星騎士団のおかげで事なきを得た一行は二人に感謝した。
「私は『ステラ』。流星騎士団の騎士。そして、こちらが私の相棒のカムイ。キング、一行に挨拶を。」
「わしは『甲冑王』…、略して『キング』と申す…。光属性の騎士型カムイだ…。」
女性騎士はステラ、黄金の騎士はキングとそれぞれ名乗った。
「それがしはケントAU団長のケントと申します。」
「私は副長のアジューリアと申します。」
「我はシュバリア族のムスタンだ…。」
「わたくしは参謀のジジョッタと申します…。」
「ユリアは諜報のユリアなの!」
ケントAU団も自己紹介をした。
「唐突で失礼致します。それがし共は歯車騎士団から預かった書状を渡すべく流星騎士団に向かう途中ですが、ご案内頂けないでしょうか?」
ケントはステラに流星騎士団に案内して貰えないか交渉した。
「うん、いいよ。あなた達を心なき者から護るのも国境なき騎士団の務めだしね。」
ステラは快諾した。彼女とキングの案内によって一行は無事に流星騎士団に着いたのだった。
『戦の申し子ベム』は何気なく見る夜空に何を感じたか…。そんな一幕を描いた短編外伝『ラピスラズリの夏の夜』を投稿しました。
ご愛顧頂けたら嬉しい限りです。




