これから為すべき事
歯車騎士団本部に向かったケントとアジューリアが応接室に案内されると、団長のサターナをはじめ、ケントAU団の他の面々が集っていた。
「よく来たわね。では、あなた達ケントAU団のこれからについてお話しするわ。さあ、お席に。」
サターナに促されたケントAU団は彼女と面と向かう形で席に着いた。
「まず、この親書をサンドガルドの『コーンヘイム』にある流星騎士団の団長にお渡しなさい。あなた達がAUとしての訓練を受ける為の紹介状よ。」
「はい。」
サターナはケントに一通の書簡を渡した。
「それから、今後の訓練の件なんだけど……」
一方、ミドルガルドのトラスティア王国の地下牢では、髪がボサボサで髭が伸びまくってまるで別人なコンラッドがまだ幽閉されていた。幽閉されたあの日から二年経ったのだ。浮浪者のような姿になってもおかしくないだろう。そんな彼の元に複数の影がやって来て、その中で最も大きな影が牢の鍵を開けた。
「!……」
コンラッドは息を呑んだ。自分はどうなるのだろうか不安だった。
「……釈放だ……。」
大きな影の正体は武装したロイ王だった。
「……それがしを……、釈放ですか……?」
コンラッドは自分が釈放される事に複雑な気持ちだった。
「ああ……、これから貴殿にはこの若き兵共と共にグルンガルドの四つ葉の騎士団に行って貰う。」
ロイ王の背後の数名はトラスティアの若手の兵士達だった。
「……グルンガルドの……、四つ葉の騎士団……?」
コンラッドは初めて聞く言葉に戸惑った。
「そうだ。貴殿もこれからそこでここの兵共と共に英雄の訓練を受けるのだ。倅と同じようにな。」
「英雄の訓練……?」
「それからこの書状をわしの倅であるケンウッド=フォン=トラスティアに渡せ。いつか四つ葉の騎士団に戻ってくる筈だ。そして、そのまま倅に仕えよ。兵達と共にな。」
「わかりました……。」
ロイ王はコンラッドに一通の書簡を渡した。
「間もなくブルー地方を統一したアスティアがこのトラスティアに攻めてくる。兵共よ、コンラッドを連れてすぐ様脱出せよ!」
「陛下、出来ればあなたも一緒に……」
「わしには王の責務がある!その責務を放り出す訳にはいかぬ!」
「しかし……、王を亡くしてしまったらそれがし共は……」
「くどい!……わしは……、若きお前達に……、未来を託すのだ……。倅の事もな……。だから……、お前達は……、生きよ!!」
ロイ王はコンラッドと兵士達に未来と息子を託す故生きるよう命じた。
「……わかりました……。陛下……、どうかご武運を……。」
兵士達はロイ王に一礼し、コンラッドと共にトラスティア王城を脱出し、グルンガルドの四つ葉の騎士団に向かった。それから間もなく、アスティア軍によるトラスティア王城への総攻撃が開始された。
話を戻して、歯車騎士団本部の応接室では……
「……そうですか……。なるべく目立たないように……。」
「ええ、ケントとアジューリアは先の大会で入賞したでしょ。それに目を付けて良からぬ事を企む輩も少なくないわ。特に……、『UD商会』にはくれぐれも気をつけなさい。」
「UD商会って一体……?」
ケントはサターナにUD商会について尋ねた。
「UD商会はフルネームで『アルティメットデストラクション商会』と呼ばれているブラック組織なの。戦争の絶えないミドルガルドに独自に製造した兵器を売り飛ばしたり、不良品の武器を安く買い叩いては独自に改良して高値で売り飛ばしたり……、とやってる事はまさに『死の商人』そのものよ。このロードガルドで兵器開発並びに製造し、サンドガルドで闇取引をしているの。わたし達歯車騎士団は勿論、サンドガルドの流星騎士団もマークしているの。彼らと関わったら何されるかわからないわ。」
サターナはUD商会の事をケントAU団全体に話した。
「わかりました。」
「何か物騒ね……。」
「ああ……、いかにもな感じだな……。」
「このジジョッタ、気を付けます。」
「ユリア、良くわからないけど、怖い事だけはわかる。」
ケントAU団はサターナからUD商会の事を聞いて警戒対象である事を確認した。
「それから……、サンドガルドは砂漠の世界よ。近くの街で水や陽除け等の準備をしてから行きなさい。」
「はい。」
いよいよ、ケントAU団はロードガルドを発つ刻が来た。
「サターナ様、一年間有難うございました。」
「あなた達にも土の加護を……。」
「あなた方歯車騎士団にもココロザシを!」
「あなた達歯車騎士団にも……、水の加護がありますように。」
「そなたらに……、風の加護を……。」
「あなた達にも……、真の業を……。」
「かっこいいエムブレムを有難う!ユリア大事にするね!」
「ふふっ……」
ケントAU団はサターナに別れを告げ、歯車騎士団を後にした。
一行は街で砂漠に向かう為の装備を整えて出発した。皆フードをしておりやや物々しい感じだ。
「ジジョッタ……、君達はこのロードガルドでエムブレムを授からなかったか……?」
ケントは自分やアジューリアが歯車の紋章を授かっているため、他の団員は授かっているのか気になった。
「大丈夫です。全員授かっています。」
ジジョッタは歯車の紋章を見せた。ムスタンの義手には歯車の紋章が彫られていた。
「そうか……、良かった……。(今度はサンドガルド……、どんな出逢いが待っているか……、楽しみだな……。)」
ケントAU団はサンドガルドに向かって進んで行った。
本編に登場する主要キャラの一人『戦の申し子ベム』の魂の成長を描いた短編外伝『ラピスラズリの夏の夜』を投稿しました。
ご愛顧頂けたら嬉しい限りです。




