大会前日
大会前日、最後の訓練を終えた二人は最後の食事を作った。最初は焦がしてしまった魚も今では焦がす事なく美味しく焼けるようになった。そして、二人は明日に備えて自室でゆっくり休む事にした。
「いよいよ明日だね、アジューリア。」
「ええ、わたし…、ここや焔の里でマッスルアーマーの訓練を受ける前まで…、こんな大きくも美しい身体になるなんて思わなかったわ。」
「僕も焔の里で重い物運ばされた時は地獄だったけど、今はそんなに重く感じなくなったな…。」
「わたしもあの臭くて重い物運ばされた時は嫌だったけど、皆に感謝されて嫌じゃなくなったわ。おかげで本当の美しさに出逢う事ができたのがとても嬉しいの。」
二人は焔の里での厳しい訓練を振り返り、自分達の成長を実感した。
「話は変わるけどアジューリア、あなたは何故BTに入隊したのかな?」
ケントはアジューリアがかつて所属していたBTに入隊した理由について尋ねた。
「…わたしには弟がいるの…。弟が安心して生きていける為に騎士の道を選んだの…。」
「他に家族は…?」
「弟だけよ…。」
「じゃあ、父や母は…?」
「父もBTの一員だったけど…、丁度10年前…、BBB団との戦いで殉職したの…。母は弟を産み落として亡くなって…、わたしが母代わりに…、弟を育ててきたの…。父が亡くなってから…、弟は施設に引き取られ…、わたしは雫の騎士団管轄の『ティーンアカデミー』で…、父の背中を追うのではなく…、弟を護りたい一心で…、騎士の訓練を受けてきたの…。」
アジューリアは涙を流しながら自分の生い立ちをケントに話した。
ティーンアカデミー…ティーンが対象のアカデミーで、レスティーンより高いレベルの学問や訓練が科される。入校並びに修了の義務のある『レスティーンスクール』とは違い、任意で入校可。
レスティーンスクール…レスティーンが対象の学校で、文字の読み書きや計算等の基礎学問が主体。義務教育だが、貧しさから学校に行けず労働に勤しまざるをえないレスティーン貧者もいる為、生活水準の指標になる事も。
「ねえ…、ケント…、あなたはどうしてAUの道を歩むのかしら…?わたしに聞かせて…。」
今度はアジューリアがケントに尋ねた。
「僕は…、護るべき者と出逢ったんだ。ただ…、あの時の僕はまだまだ無力だった…。だからその護るべき者を救うために多くの者を犠牲にしてしまった…。今もそれは覚えてる…。もう…、誰一人死なせる事なく護るべき者を護りたい…。そんな一心でAUの道を歩んだんだ…。」
「その護るべき者って一体…。あの街道で一緒だったジジョッタじゃないわよね?」
アジューリアはアクアヘイムの街道でケント達と初めて出逢った事を引き合いに出した。
「ああ…。その護るべき者はアスティア王女ヨシーナだ…。僕とジジョッタの主で、とても高貴で優しい女性なんだ…。でも、その高貴さから賊に狙われやすい為、僕らのAUの訓練に支障が出るという事で四つ葉の騎士団に預けたんだ…。」
「アスティア王女を護ってる…、という事はどうしてアスティア王国と敵対しているの?」
今度はアクアポリス最深部での件を引き合いに出した。
「現アスティア王が主人の父の仇なんだ…。ミドルガルドのブルー地方の一王国アスティアは平和な国だったが、自分の父であり、将軍王の異名を持った先王から政権を奪った現王が周辺諸国を手当たり次第蹂躙したんだ…。中には建国当初から同盟を結んでいた国もあった…。主人は現王によって『将軍王のココロザシ』が失われた祖国を見かねて亡命したんだ…。その過程で賊に捕まり、そこから脱けだしたジジョッタが父と僕に知らせ、父と共に僕も兵を率いて救出したんだ。」
「兵を率いる…、という事はあなたも騎士…、いえ、王侯貴族なのかしら?」
アジューリアはケントの父が率先して軍団を率いる様からケントの出自を王侯貴族と踏んだ。
「はい…。僕はミドルガルドのグリーン地方の一王国トラスティア第一王子『ケンウッド=フォン=トラスティア』…。これが僕の本名だ…。すまない…、今まで隠してて…。」
ケントはアジューリアに自分の出自を明かすと同時にこれまで隠していた事を詫びた。
「いえ…、事情があるのでしょう…。あなたの出自がどうあれ、わたしはあなたの事を『ケント』として接するつもりよ。だから…、安心なさい。決して口外しないわ。わたしにとってあなたも弟のように大切な存在よ。」
アジューリアはケントの出自を知ったとしても変わらず接すると同時に決して口外しないと約束した。そして、大切な人でもあると述べた。
「ありがとう、アジューリア。」
アジューリアの優しさにケントは感謝した。
「こちらこそありがとう。さあ、お休みなさい。」
二人は一寝入りし、遂にマッスルゴーレムコンテスト開催の日を迎えたのだった。




