院敵となった祖国
メフレックスは馬車をヴァリギッドの家の近くに停め、彼女の家の玄関の前に立ち、ノックしたが留守だった。近くではケント達がジビエラの指揮の元ヒノハナの花壇造りをしていた。
「!…メフレックス様…。わざわざこちらまで見に来て頂き有難うございます。」
「…ご足労感謝致す…。」
「メフレックス様、わざわざ足をお運び頂き感謝致します。」
「もうすぐ花壇出来るの!ユリア楽しみなの!」
ケント達は突然来たメフレックスに驚くも、直接見に来てくれた事に感謝した。
「ふふ…、元気そうで何よりね。綺麗なお花が咲くといいわね。…さて、ヴァリギッドは今どうしているかしら?」
メフレックスはケント達を労うと同時にヴァリギッドについて尋ねた。
「アジューリアの訓練に付き合ってるの!どんな訓練かは口じゃ言えないけど…、とってもやばい訓練なの!」
答えたのはジビエラだった。
「有難う。(やっぱり…)」
メフレックスはお礼を言ってすぐヴァリギッドの元に向かった。
アジューリアはヴァリギッドの指導の元、里の中のソイルプラントに屎尿を運んでいた。彼女の訓練は里のあちこちの家の屎尿を汲み、里のプラントの特殊な槽に流す作業だ。臭いのは勿論、重いのと相まって、大抵の人がやりたがらない作業だ。こんな訓練をヴァリギッドはアジューリアに科したのである。
「まだあるぞ!日暮れまで気を抜くな!」
アジューリアが槽に屎尿を流し終えるとヴァリギッドは彼女に言い放った。ヴァリギッドも両手に手袋して、鼻と口を布で覆って作業に臨んでいた。
「はい…。」
アジューリアはまた別の家に屎尿を汲みに回った。ヴァリギッドの元にメフレックスがやって来た。
「…ヴァリギッド…、ちょっといいかしら…?」
「…メフレックスか…。メールの件か…?」
「いいえ、アジューリアに科している訓練についてよ。」
「!!…なっ…」
メフレックスはヴァリギッドを呼びつけた。ヴァリギッドは両手袋に鼻と口を覆った布を外して作業を中断した。
一方、モルガナ元老院の執務室ではベム同様アスティアから傭兵として雇われ、元老院の監視役として派遣されたカモンが元老院長本人がいるにもかかわらず、横柄にも彼の机に座っていた。近くには同じく監視役のレスティーン兵もいた。
「院長、こん前トラスティアに使者として赴いたコンラッドの坊ちゃんが幽閉されたぜ。」
カモンはトラスティアとの外交の結果について元老院長に話した。
「…下手したら処刑されかねない程物騒な内容の書状だからのう…。幽閉で済んで良かったわい…。」
「こいつは明らかに宣戦布告って奴だぜ。そろそろ院敵にしてもいい頃合いだろ!?」
「…いや…、コンラッドは人質に取られたようなものだ…。院敵にして処刑されたらと考えると…。」
元老院長はコンラッドの事を考えると院敵にすべきかどうか迷った。
「処刑されたらされたで弔い合戦すりゃいいじゃねえか!なあ院長、アスティアの塔にいるあんたの嬢ちゃんとコンラッドの坊ちゃんとどっちを選ぶんだ!?」
「全てはアスティアの為に!」
元老院長の葛藤などそっちのけでカモンは弔い合戦すればいいと一蹴し、アスティアに人質となっている自分の娘とトラスティアに囚われているコンラッドの命を天秤にかけた。
「…背に腹は代えられぬ…。やはり娘だ…。」
「じゃあ決まりだな!『トラスティアを院敵に!』ってミドルガルド中に触れ回ってやろうぜ!」
「全てはアスティアの為に!」
かくして、元老院は公然とトラスティアを院敵に指定した。祖国がやがて戦火に晒される事をケントは未だ知る由もなかった。
メフレックスはヴァリギッドを里から少し離れた人気のない荒野に呼びつけた。荒野は錆びた鉄の匂いのする赤褐色の地面に地平線の向こうに赤褐色の複数の岩山…と殺風景な雰囲気を醸し出していた。
「メフレックス、私をこんな所に呼びつけて一体どういうつもりだ!?いくら友であれ容赦しないぞ!」
「それはこっちの科白よ。」
メフレックスとヴァリギッド…、屈強な女傑同士による一触即発の寸前であった…。




