鉄騎士団
獣達と交戦中のケントAU団を救った二人の女性。暫くして大柄な女性の方が重い口を開いた。
「私はブリジット族の『女傑君ヴァリギッド』。ヒノカヘイムの『焔の里』の長だ。」
「ジビエラは焔の里の一員で火の部族『ゴブティーン族』の『ジビエラ』っていうの。皆の近くにいる身体が火で出来た犬はジビエラの相棒、『火猟犬ホムライヌ』というカムイなの。」
二人はそれぞれ自己紹介した。
「僕はケントAU団団長のケントと申します。助けて頂いて有難うございました。」
「私は副長のアジューリアと申します。弓矢を得物とする者です。」
「我は風の部族シュバリア族のムスタンだ…。グルンガルドでの狩猟の心得もある…。」
「わたくしは参謀役のメイドのジジョッタと申します。」
「ユリアは諜報のユリアって言うの。宜しくね。」
ケントAU団も二人に自己紹介をした。
ゴブティーン族…レッドガルドの火の部族で、小柄で褐色の肌と尖り耳が特徴の種族。小柄なため、斧を扱うのが苦手だが、短剣を扱うのが得意で、狩猟、料理、諜報を特技とする個体が多い。
「あの…、すみません…。僕達はこれからペンテヘイムの鉄騎士団の団長に書状を渡しに行く途中ですが…。道を教えて頂けないでしょうか…?」
ケントはヴァリギッドに恐る恐る尋ねた。
「…わかった…。直接案内しよう。ジビエラ、お前は里の者共を呼んで、死んだ獣共を里に運んで解体しろ!」
ヴァリギッドはケント達一行の案内を引き受け、連れのジビエラに狩りの後始末を命じた。
「ジビエラ、了解なの!ハウンド、里の人達こっちに呼んで来て!」
ジビエラに促されたホムライヌは里の方に走って行った。ケント達一行はヴァリギッドの案内で無事にペンテヘイムの鉄騎士団の本拠に辿り着いた。
鉄騎士団の本拠の応接室に一行は案内された。暫くしてヴァリギッドと、長い銀髪を後ろにシニヨン状に纏めた垂れ目ながらも彼女に勝るとも劣らない精悍さを誇るもう一人のブリジット族の女性が一行の前に現れた。
「わたしの友がお世話になったわね。わたしは『女傑王メフレックス』。鉄騎士団団長よ。」
メフレックスに続いて、ケントAU団も自己紹介をした。
「メフレックス様、菫の騎士団団長サキュバーナ様からの書状です。」
ケントはメフレックスにサキュバーナから預かった書状を渡した。メフレックスは書状に目を通した。
一方、ミドルガルドのモルガナ元老院ではまたアスティア王スパイデルからの書状がアスティア王国のレスティーン兵の使者によって届けられた。
「…何!?『トラスティア王国を院敵とせよ』と…!?」
元老院長は突然の命令に動揺した。
「『トラスティア王ロイ=フォン=トラスティアは吾輩の妃ヨシーナ=フォン=アスティアを人質に取って、吾輩が世界の頂に立つ事を阻もうとする心無い輩だ。』と…!?わしは彼の事を信頼しておる。彼がこのような狡猾な手段に訴える筈がない!」
元老院長はスパイデル王の方針に疑問を抱いていた。それもその筈。トラスティア王国とは建国当初から今日まで親交が続いている。そんな国といきなり親交を絶って何の得があるのだろうかと彼は考えた。
「全てはアスティアの為に!…全てはアスティアの為に!…全てはアスティアの為に!…」
使者のレスティーン兵は元老院長の思惑を一切無視するかの如く、「全てはアスティアの為に」を執拗に連呼し続けた。
「…くっ…、わかった…。これよりトラスティアを院敵と致そう…。」
元老院長が書状に承諾の押印をするとレスティーン兵の連呼は止んだ。かくして祖国が院敵となり、大いなる国難の道を歩み始めた事をケントは未だ知る由もなかった。
話を戻して、鉄騎士団本部の応接室では…
「わかったわ、AUとしての訓練の継続ね。ところであなた達、ヴァリギッドから話は聞いたけど…、レッドガルドに入ってから彼女と会うまでの出来事について話して貰えないかしら?」
「はい、僕達は獣が多いヒノカヘイムを通る際、なるべく獣との戦闘を避けようとしましたが、ムスタンが獣達を挑発して戦闘に発展してそこに…の始末です。」
「…我はこそこそするのが嫌いな性分でな…。」
「なるほどね…、不要な戦闘を避けたいあなた達の気持ちもわかるし、ムスタンの気持ちもわからなくもないわ。わたし達ブリジット族の女性もこそこそするのを恥としているから。」
メフレックスはケント達の気持ちもムスタンの気持ちもわかると述べた。
「ヴァリギッド、訓練の件だけど、こうして出逢った事だし、一年間彼らの訓練をお願いしたいの。訓練の内容はあなたに任せるわ。」
「承知した。このヴァリギッド、彼らを鍛え上げてみせよう。」
ケントAU団は一年間ヴァリギッドの元で訓練を受ける事となった。果たしてケント達は彼女の訓練に耐えられるのか?




