表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
将軍王のココロザシ  作者: TAK
第一部第一章~ケンウッドの旅立ち
7/159

将軍王の娘の慈悲

ロイ王とダッグは暫く睨み合っていた。そして、ロイ王は重い口を開いた。

「貴様達賊の事情なぞわしらの知るところではない!貴様達は財を目当てに人々を襲い、時には彼らの命を奪ってきたのだ!今日こそ、これまでの報いを受ける時ぞ!!」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

ロイ王は拘束している賊どもに強く言い放った。彼の威圧感に賊どもは戦慄した。

最早(もはや)言葉はないな!皆の者、賊どもの首を()ねよ!!」

「はっ!」

ロイ王は兵士達に処刑を命じた。兵士達が剣を構えると、どこからともなく大きな叫び声がした。

「父上、お待ち下さい!!」

ケンウッドは自分が救った女性と共に父の下に走ってきた。

「倅…、それとあの娘か…。して、いかがした!?」

「父上、いくら賊とはいえ人です。殺してしまえば贖罪(しょくざい)の機会を絶つ事になります。どうか彼らに贖罪の機会をお与え下さい。この方もそれを望んでいらっしゃいます。」

「倅よ、生憎だが国に仇なす者どもをのさばらせるわけにはいかぬ。」

「父上、何卒(なにとぞ)お聞き届けを!」

「くどい!」

ケンウッドは必死に助命を訴えたが、ロイ王は決して考えを変える事はなかった。次の瞬間…

「『将軍王ヨシトル』こと…、アスティア先王ヨシトル=フォン=アスティアの娘…、『ヨシーナ=フォン=アスティア』として…、頼みがあります…。彼らの(いまし)めを解いて…、贖罪の機会を…、お与え下さい…。お父様は…、賊に対しても…、寛大でした…。『いかなる者にも良心がある。その良心を信じずして何とする。』…、アスティア王家の…、家訓です…。」

「あのアスティアが…!?我々の知ってるアスティアと真逆すぎるだろ!」

「これが…、手当たり次第に他国を蹂躙してる国の者の言葉なのか…!?」

「その王女様が何故こんな場所に…」

「親交と見せかけて我々トラスティアを探ろうって腹だったりしてな…」

ヨシーナの口下手ながらも大胆な言葉に兵士達は動揺した。

「皆の者、静まれ!ヨシーナなる娘よ…、賊共の前で己の出自を明かすのはいささか軽率すぎるのではないか。」

ロイ王は動揺した兵士を一喝するついでに、ヨシーナの軽率さを指摘した。

「いいえ…、連れと一緒に…、囚われた時…、その連れを…、逃がして…、貰うために…、明かしました…。将軍王ヨシトルの…、娘にて…、アスティア王妃の…、わたしを…、夫である…、アスティア王スパイデルに…、引き渡せば…、良い金に…、なる…、と…。」

ヨシーナは自分の出自を賊どもに既に明かした事をロイ王に話した。

「父上、確かに彼らはヨシーナ王女に心無い事をしました。しかし、ヨシーナ王女は根に持つどころか、彼らを解放する事を望んでいらっしゃいます。何卒彼女の願いをお聞き入れ下さい!」

ケンウッドもヨシーナと共に頭を下げて賊どもの助命を嘆願した。

「陛下、それがしからも…」

「それがしも…」

ヨシーナ王女のカムイの如き対応に共感した多くの兵士達も二人に続いてロイ王に頭を下げた。

「うむ、承知した。」

「ありがとうございます!」

ヨシーナ王女とケンウッドをはじめ、兵士達も賊どもの助命の申し出を聞き入れた事に感謝した。

「賊どもよ…、いや、皆の者…、このヨシーナ王女のカムイの如き慈悲に感謝し、自分の為だけでなく、他人の為にも生きるが良い!」

「……」

ロイ王は賊どもに説いたが、賊どもは複雑な気持ちからか無言だった。

「皆の者、この者達の縛めを解いてやるが良い!」

「はっ!」

ロイ王は兵士達に賊どもの解放を命じた。

「すまねえな、姐ちゃん…」

「心ねえ真似した俺達を助けるとは…」

「粋な計らいって奴だな…」

「こりゃ足洗わなきゃ立つ瀬ねえぜ…」

「『デッドガルドにカムイ』とはよく言ったもんだぜ…」

等子分どもは胸を撫で下ろした感じで次々に去っていった。



『デッドガルドにカムイ』…ブルドラシル全域に伝わる「『地獄』と揶揄されるデッドガルドにもカムイはいる」という(ことわざ)で、『アースガルド』で言う「地獄に仏」と同義である。

デッドガルド…ブルドラシルの最下部のガルドで、BE濃度が高い「死者の世界」と揶揄された世界。満たされぬ者や、心無い者等のBEを帯びた魂を『ゴッドガルド』に誘うと汚染されてしまうため、『黒きカムイ』によってデッドガルドへ誘われる。

アースガルド…ブルドラシル外の世界で、「地球」と呼ばれる現実世界。

ゴッドガルド…ブルドラシルの最上階のガルドで、デッドガルドと対をなすガルドでいわゆる「天上界」。天寿を全うした者や心ある者等の魂は『虹のカムイ』によって誘われる。

黒きカムイ…BEを帯びながらもアヤカシとならずに、理性を保っているカムイ。その中の最高位である黒のQGがデッドガルドを守護していると言われている。

虹のカムイ…虹属性のカムイ。ゴッドガルド製『カムクリ』・『ヴァルキリー』が代表で、彼女達が帯びる虹のエレメントはBEを浄化する力を持ち、アヤカシとの戦いにも不可欠とされる。

カムクリ…人工カムイの事で、「カムイ・ヤドレル・カラクリ」の略称。アースガルドでは「ロボット」をはじめ、「アンドロイド」「ガイノイド」等と呼ばれる事の多い存在。エレメントを動力源とするが、カムイとは違いエレメントを自然発生させる事ができない。そのため、カムイからの供給が必要となる。また、欠点として動力源からBEが発生するが、製造初期は微弱の量のため、自然浄化の範囲内である。しかし、経年劣化に伴いBE発生量が大きくなると、『アヤクリ』化し、手当たり次第他者を害する危険がある。この問題は製造元とカムイとの連携による回収・交換・引継ぎの円滑化で解決されている。なお、クライアントとの関係次第では内面的成長によるシンギュラリティ突破によって、カムイ化して『〇〇型カムイ』となる個体も。

ヴァルキリー…ブルドラシルに存在するガイノイドの一種。死者の魂をゴッドガルドへ誘ったり、第三者による戦闘の際に『バトルフィールド』を発生させたりする等ブルドラシルの裏方的存在で、地上の各国境なき騎士団が管轄する各施設のスタッフとして配属されている個体も存在。

アヤクリ…人工アヤカシの事で、「アヤカシ・スクエル・カラクリ」の略称。アヤカシ同様BEを帯びており、手当たり次第他者を害する個体が多く、兵器として扱われる事も少なくない。

バトルフィールド…戦闘の際に発生する結界で「BF」と略される。ELアーツ、EL兵器等エレメントが関わる武器・奥義・攻撃魔法はBF内でないと使用できない制約がある。また、EL弾等がBF外に出ると拡散されるため、BF外は安全である。



そして、最後に解放されたダッグは…

「へへっ…、ありがとよ…!このダッグ様の縄を解いてくれたんだ…!そんなあんた達にたっぷりとお礼してやんねえとなぁ…!」

と悪びれる様子もなく去っていった。その後、生きてトラスティアの地に戻って来る事はなかった。

「さて、賊ども…、いや、元賊らの処遇も一段落した事で…、将兵どもよ、お前達に伝えるべき事がある。この娘の事は絶対に他言無用だ、良いな!」

「はっ。」

ロイ王はヨシーナ王女に関する事を決して口外しないよう将兵達に釘を刺した。そして、後始末は夕方まで続き、夜には全軍王城に引き上げていった。


王城の一室で待機していたジジョッタの元にヨシーナを連れたロイ王とケンウッドが入ってきた。

「ジジョッタよ、お前の主人は無事だ。」

「ありがとうございます!」

「礼ならばこの倅に伝えるが良い。実際に救出したのは倅なのだからな。のう、ケンウッド。」

「はい…。」

ケンウッドはあまり嬉しい様子ではなかった。確かにヨシーナ王女を救出したが、その為に数人の兵士を犠牲にしてしまったという事実を思うと素直に喜べなかった。

「ご主人様!」

「ジジョッタ…!」

二人は抱き合って再会を喜んだ。暫くしてロイ王とケンウッドが二人のいる部屋に入ってきた。

「再会を喜んでいるところ失礼致す。ヨシーナ王女よ、アスティア王女であるそなたが祖国を離れる経緯について、お聞かせ願えぬか?」

ロイ王はヨシーナに神妙に尋ねた。

「はい…、わかりました…。」

ヨシーナは承諾した。果たして彼女は一体何を語るのだろうか…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ