相反する平和
夜のアスティア城の塔の牢獄に囚われている女性にベムは語りかけた。
「俺な…、一刻も早く世界を平和にしたいんだよ…。」
「だったら何故わたくしをお父様から引き離すのです!?」
「あんたの親父を…、マスターの駒にする為さ…。」
「!!…なら…、あなたの掲げる平和とは一体何ですか?」
女性はベムに自分の掲げる平和が何か尋ねた。自分を人質に取って父を駒にしようと目論む程の事だ。ただならぬ考えがあっての事だろうと彼女は踏んでいた。
「貧困の根絶だ。」
「どのように実現なさるおつもりですか…?」
「弱いくせにぬくぬくと生きてる富裕層の奴らを叩き潰すのさ。俺はスラムの貧者だったガキの頃から金持ちが気に入らないんでね。」
「何故金持ちを憎むのですか…?」
女性はベムに金持ちを憎む理由を尋ねた。排斥を望む程憎いという事はただ貧しいからという単純な理由ではない筈と踏んでの事だ。
「俺の妹が病にかかった時…、医者をあちこち回ったけど、どこもスラムの貧者ってだけで門前払いを喰らったんだ…。だから俺は腐った富裕層どもを文無しにしてやらなきゃ気が済まないのさ。」
「…あなたのやり方は…、ただ貧困に喘ぐ者が入れ替わるだけ…。それでは賊と同じです…。」
女性はベムの平和に対する考えが賊と同じと軽蔑した。
「じゃあ、あんたの掲げる平和は何だ!?」
ベムは彼女に自分の掲げる平和について尋ね返した。
「貴族と平民が…、手を携え合う事です…。」
「ふん、絵空事だな。」
女性の掲げる平和をベムは絵空事と吐き捨てた。
「…どうして絵空事なのですか…?」
「貧者は富裕層を快く思わないもんだ。相手が貴族なら尚更だな。」
ベムは女性の掲げる平和が絵空事だと思う理由を述べた。
「だったら、あなたは何故アスティア王国に仕えているのです!?何故スパイデル王の元にいるのです!?」
女性はベムが貴族を憎んでいるなら何故貴族に身を寄せているのか疑問に感じた。
「傭兵として雇われてるからな。」
「そうじゃなくて、わたくしが聞いているのは『あなたが仕える貴族の元で自分の掲げる平和は実現出来るのか』という事です!」
「ああ。マスターが世界の頂に立ってくれたら実力に不相応の富を持つ奴らが全て淘汰される事により全ての貧困は根絶され、俺の妹が貧者ってだけで医者に診て貰えないような事も無くなると俺は思うな。」
「…わかりました…。…弱者が強者に虐げられる世界…、…心ある者達の嘆き悲しむ様しかわたくしには見えません…。…そんな世界は…、…間違いなく破綻する事でしょう…。」
「マスターの治世が破綻するかどうか…、いずれ時代が示してくれるさ。さあ、話は終わりだ。パン喰い終わったらしっかり寝てろ。」
「…。」
ベムは話を切り上げて牢を後にした。
一方、ケイブガルドの菫の騎士団のAU屋敷でケントとアジューリアは伝言板に目を通した。
『シュバリア族の男性を連れし一行へ、休息が済み次第本部に来られたし。シノビクイーン』
「『シノビクイーン』って一体?」
ケントはシノビクイーンについて気になった。
「サキュバーナ様の事よ。彼女は『忍女王』と名高いくノ一なの。書かれている内容からすれば、わたし達もうすぐケイブガルドを出る事になるわね。」
「はい。次はどこに行くのか楽しみです。」
ケント達一行がケイブガルドを離れる時が刻々と迫って来ていたのだった…。




