はぐれAU
ユリアを保護しようとした一行の前に、彼女を狙う男性が現れた。男性は一行に白銀の槍を突き付けてきた。
「あんた達に恨みはない。ただ、このアヤカシ娘を俺に渡せ。」
クロードはユリアを渡すよう要求した。
「…ベム兄ちゃん…、…どこ…?…ユリア…、…会いたい…。」
ユリアは男性に怯え、ケントにすがりついた。
「…断る…。」
ケントは拒否した。
「何故断る!?こいつはアヤカシだぞ。アヤカシを庇うのか?」
「僕達は彼女と約束したんだ。兄に会わせてあげると。その約束を反故にするわけにはいかないんだ。…そもそも何故、彼女を狙うんだ!?」
ケントは拒否する理由を述べると共に男性が何故ユリアを狙うのか尋ねた。
「こいつが他のアヤカシと一緒にいたからだ。」
「他のアヤカシ…?」
「ああ、巨大な骸骨のアヤカシと一緒にな。」
「巨大な骸骨のアヤカシ…?もし、彼女がアヤカシならば、あのアヤカシも同じ言葉を繰り返す筈だ。」
ケントはユリアが繰り返した言葉から骸骨型アヤカシも何か同じ言葉を繰り返すと踏んだ。
「ああ、あのアヤカシも何度も言ってたな。『…ベム…、…ワシノセガレ…』とな。」
「やっぱり!」
男性の言葉にケントは二体のアヤカシが父娘である事を確信した。
「それで…、あのアヤカシは今…、どうしてるんだ…?」
「俺がこの槍で屠った。胴体を真っ二つにな。」
男性は槍を光らせ、自慢げに骸骨型アヤカシを屠ったと話した。
(この槍…、虹のエレメントを帯びている…)
ジジョッタは男性の槍に虹のエレメントを感じた。
「…ベム兄ちゃん…、…どこ…?…ユリア…、…会いたい…。」
ユリアは男性の話を聞いて恐怖を感じた。
「…さあ…、これが最後だ。あのアヤカシのように串刺しにされたくなければこのアヤカシ娘を俺に渡せ。」
「…例え脅しても…、僕らの答えは変わらない…。」
ケントは毅然たる態度で男性の要求を拒否した。一行も同じような態度で構えた。
「へっ…、いいねえ!英雄の道を征く奴はよ!だが、それがあんたらの身を滅ぼす事になるんだぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
男性は槍を構えてケントに突進してきた次の瞬間、男性に暗器が飛んで来た。気付いた男性は槍で暗器を払った。
「…誰だ!?」
「…『はぐれAU』よ、わたしの客人に狼藉とは無粋なものね。」
暗闇の中から女性の声がした。そこから現れたのは背中に蝙蝠の羽、左胸には月の紋章、マゼンタ色のやや短めの髪に片方の目が髪で隠れた紫色の忍装束の女性だった。
「あ…、あんたは…。くっ…、この娘は暫くあんた達に預けておく!」
男性は撤退した。男性の後を一体のバクットが尾行していった。
はぐれAU…国境なき騎士団でAU会員登録せずにAUと同じ活動をする者。襲撃・略奪・破壊行動等のブラック依頼をこなす『ブラックAU』や手当たり次第アヤカシを破壊する者等に多い。そのため、国境なき騎士団からの摘発の対象となる。
ブラックAU…罪人等のブラック指定をされていない者を故意に陥れる依頼を受けるはぐれAUの事。国境なき騎士団ではこういった依頼は斡旋していない。国境なき騎士団での要人拘束の要人対象は罪人のみとなる。
「ありがとうございました。」
ケント達一行は忍の女性にお礼を述べた。
「…お礼ならバクットに言って…。あなた達の危機を知らせてくれたのだから…。」
「何故バクットが…。」
「わたくしがバクットに頼んだのです。」
先程の男性と出くわした時、ジジョッタは即座に一体のバクットをバイオレットナイツに先行させていたのだ。だから忍の女性が駆けつけてきたという事だ。
(またジジョッタに救われたな…。)
ケントはジジョッタに救われて安堵した。以前のミストヘイムでの危機に直面した事もそれに拍車をかけていた。
「では…、あなたがバイオレットナイツの方ですか?」
「ええ。わたしはバイオレットナイツ団長『サキュバーナ』。蝙蝠種のアニマリアンよ。これからバイオレットナイツ本拠・『菫の里』に案内するわ。」
こうして、ケント達一行はバイオレットナイツに無事に着いた。




