二人の掲げる平和
荷造りを終えたケントがAU会館を出ると、同じく荷造りを終えてアクアポリスに向かう予定のムスタンもいた。
「ケントよ…、ぬしも我も向かう場所は同じだな…。我が背中に乗るが良い…。」
「はい。」
ケントは今度は快諾してムスタンの背中に乗った。
「あの…、ムスタン様…。先日の死の儀についてですが…、大丈夫ですか?」
アクアポリスに向かう道中、ケントはムスタンに先日のBBB団の将軍を介錯した件について尋ねた。彼はいやしくも相手を手にかけた。手にかけていない自分ですら大いに動揺したのだ。彼ならば尚更何ともない筈がないとケントは思った。
「…大丈夫…、と言えば嘘になるな…。人の死に立ち会うのはあの日に限った事ではないが…、やはり人の死は…、いつとて心地良いものではないな…。」
「やはり、そうですか…。僕も人の死は…、相手が敵であれ心地よいものではありません…。」
「他者を殺めし者はその者の想いを背負わねばならぬ…。それが戦士の責務というものだ…。ケントよ…、ぬしはグラント=ゼング将軍の辞世の句を覚えておるか?」
「良くは覚えていませんが…、確か彼も平和を願っていたという事はわかります…。」
「うむ…、いかなる者も平和を望まぬ者はおらぬ…。平和にも様々な形があり、その形の違いを頑として認めぬ事から争いが起きるのだ…。ケントよ…、ぬしにとっての平和とはいかなるものだ…?」
「…僕にとっての平和とは…、…弱者の魂が淘汰される事なく育まれる事だと思います…。」
ムスタンの平和の問いにケントは主であるヨシーナに想いを巡らせながら答えた。
「確かにな…。我にとっての平和は…、誰一人種族に縛られる事なく生きていける事だと思うな…。」
ムスタンは下半身が馬、上半身が人のシュバリア族らしく、種族の事を交えて平和を説いた。
「仰る通りです。…あっ…、もうすぐアクアポリスです。」
いよいよアクアポリスが見えた。
アクアポリスに来た二人を出迎えたのはアジューリアとジジョッタだった。ジジョッタは背中に雫の紋章が施された青い箱らしき物を背負っていた。
「良く来たわね、お二方。」
「…あの…、ケント様…、あなたを背中に乗せているこの方は…?」
特にジジョッタはムスタンに驚いていた。
「ああ…、シュバリア族のムスタンというんだ。結構頼もしい方だよ。この紫の女性はジジョッタで、華奢そうな身体に似合わず結構頼もしい者です。」
ケントはジジョッタとムスタンにそれぞれ紹介した。
「ジジョッタか…、宜しく頼む…。」
「はい…、ムスタン様…。」
初対面のムスタンとジジョッタはお互い挨拶を交わした。
「それでは、団長がお待ちかねよ。わたしについてきて。」
「はい。」
「うむ…。」
アジューリアは一行を案内した。案内された先はアクアポリス最深部だった。




