ベムの生い立ち
ブラーガルドのアクアヘイムのスラムの夕方。鞄に給料を詰めた一人の男性が仕事からの家路を急いでいた。
(ベム…、ユリア…、今日は2,000ゲルダも入ったし、お前達をマミーカフェに連れてってやるぞ。妻よ…、見てるか…、お前が産み落としたユリアも…、少しずつ成長してるぞ…。)
そんな家路を急いでいた男性を突如霧が包み込んだ。
「なっ…、何だ…!?ぐわっ!!」
男性は何者かに霧の中で首を斬りつけられた。霧が晴れた瞬間、男性は血を流しながら地面に倒れ、鞄も無くなっていた。
「…鞄…、…鞄…、…あれ…、…ない…。…すまん…、…ベム…、…ユリア…、…お前達を…、…養うための…、…金を…、…奪われてしまった…。…お前達が…、…大人になるのを…、…見れなくて…、…残念…だ…」
男性はそのまま息を引き取った。黒装束に黒い手袋をしたティーンは鞄から給料袋を抜き取り、血の付いたナイフを鞄に入れて河に投げ捨てて去って行った。
その日の夜、男性の子供達の家ではレスティーンの兄妹が父の帰りを待っていた。
「ベム兄ちゃん…、パパまだ帰ってこないね…。」
「親父、残業で忙しいんじゃないかな?今日は給料日だし…。」
「パパ…、早く帰って来て…、ユリア…、待ちきれないよ~!!」
ユリアは突然泣き出した。
「大丈夫だ、ユリア。お前には俺がついてる。」
「…うん…、…ベム兄ちゃん…。」
ベムはユリアを抱きしめた。次の瞬間この兄妹の父の知人から突然の報せが来た。
「大変だ!!河の近くであんたらの…、お父さんが…!」
「何だって!?」
「…えっ!?」
兄妹は知人に連れられて事件現場に来た。ドロップナイツによって現場検証が行われていた。父の遺体が担架で運ばれるのを見た兄妹はそこに駆け寄った。兄妹は変わり果てた父を見て、
「親父ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!」
「パパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
とそれぞれ叫び声を上げ、泣きに泣いた。
例の事件以来、ユリアはふさぎ込んだ挙句、病にかかってしまった。ベムは妹を背中に乗せて医者の元を訪れたが、
「『貧者』を診る医者などいるものか!!」
「金が無ければ診る事は出来んな!!」
「薄汚いスラムのガキを診る等汚らわしいわ!!」
「溝の水を啜るスラムの奴を診るとこっちまで病気になる、出てってくれ!!」
…と『貧者』『スラム』というだけで門前払いされる始末だった。
貧者…金に恵まれず、その日暮らしの毎日を送る者で、飲み水や食料にも恵まれず、衛生環境も良くない等の理由から不当な差別を受ける事も少なくない。
諦めて家に帰ったベムは妹を寝かせる際…。
「ユリア…、大丈夫だ…、金は俺が何とかする…。だから…、もう少しの…、辛抱だ…。」
「…ありがとう…、…ベム兄ちゃん…。」
ベムは一人家を出て行った。そして、彼は二度と家に戻る事はなかった。
それから数日後、アクアヘイムの富裕層の居住区で、ベムはドロップナイツの役人達に拘束された。
「離せぇぇぇぇぇぇぇぇ!俺にはどうしても金が要るんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!妹の病気を治す薬を買う金がぁぁぁぁぁぁぁぁ!早くしなきゃ妹が死んぢまうんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ベムは富裕層の屋敷等に忍び込み、あちこちで盗みを働いて拘束されたのだ。
「レスティーンよ、事情なら『ポリスヘイム』で聞こう。」
ポリスヘイム…ブラーガルドの刑務特区のヘイムで、ドロップナイツ管轄の刑務棟がある。ブラーガルドではBBB団が関わる犯罪が絶えず、スラムでは貧しきが故に盗みを働くレスティーンも少なくない。そんな人たちを更生させる事にドロップナイツは日々苦心している。
そしてベムが役人達に馬車に乗せられそうになった次の瞬間、彼らの周りに霧が立ち込めた。
「な…、何だ…!?…あれ!?」
役人達は一瞬うろたえた。霧が晴れた瞬間、ベムの姿はなかった。
「あのレスティーン、まさか霧の中で逃げたのか!?」
「くっ…、すばしっこい小僧め…。」
役人達は悔しい様子だった。
役人達が動揺している中、ベムは黒装束の男性に連れられていた。
「坊主、気に入ったぜ。お前のあの叫び声、魂にグッと来たよ。」
「あ…、あんた誰なんだ…?」
「俺か?俺はBBB団の『カモン』って言うんだ。そう言えばお前、名前は何だっけ…?」
「俺は…、ベム。」
「ベムか、最高の名前だな。これから宜しく頼むぜ。」
かくして、ベムはBBB団の戦闘員として育てられる事となった。
話を戻して、ミストエレナ島の砦の兵舎にいるカモンとベムに伝令が来た。
「大変です!砦の門が破壊されました!!」
「何だと!?…ベム、俺は船を出す。お前は牢屋のレスティーンどもを俺の船に誘導しろ!それから、お前も一緒に乗れ。先方がお前をご指名だからな!」
「ああ…。」
「それからお前は本島にすぐさま援軍を出して貰うよう伝えろ!」
「はっ、カモン様。」
(奴らにレスティーンどもを奪われちまったら…、先方に顔向けできねえ…。)
相手の狙いがミストエレナ島のレスティーン達と察知したカモンはベムと伝令にそれぞれ命じた。その後ケントはベムと再び対峙する事になるのだった…。




