潜入か、突入か?
アジューリア率いる救出部隊はミストエレナ島の砦からやや離れた岩陰に差し掛かり、一行は岩陰で一旦進軍を中断した。
「待って、まずはここから砦の正門がどうなっているのか伺いましょう。」
岩陰に隠れたアジューリアは鞄から『ELスコープ』を取り出し、そこから砦の正門とその近くを伺った。
「見た限り正門は警備が浅いわね。でも、浅いのには何か理由がある筈…。本島に兵を集中させているのか、あるいは…。」
アジューリアが正門を良く見てみると、門は鉄らしき材質で出来ていた。
「!…あの正門…、『ヒッタイト』で出来ている。これでは突入はまず出来ないわ。やはり…、搦め手から潜入しかないわね。」
ELスコープ…視界の悪い状態でも物体を捕捉するELアイテム。カムイ全般が所持するELスキルを人でも行使可能。
ヒッタイト…『レッドガルド』特産の赤のEL粒子を多く含有する鋼材で、鉱石は冷え固まった溶岩から採掘される。強度も他のガルドの鉄と比べても高く、デクード同様武器・防具の材としても重用されているEL資源。
レッドガルド…ブルドラシルで最も原始的と言われているガルド。森林が少なく作物もあまり育たないため、狩猟や傭兵稼業で生計を立てる者が多い。総人口の大半を準ニュートラル種『ブリジット族』が占めている。
ブリジット族…ニュートラルに準ずるレッドガルド固有の種族で褐色の肌が特徴。女性は長身かつ屈強の肉体を誇る個体が多い一方、男性は小柄だが知性に優れる個体が多い従来種と真逆の種族。狩猟や傭兵稼業等で積極的に戦場に立つ女性を陰ながら支える男性が多い。
「搦め手から潜入ですか…、僕はそれが吉だと思います。」
ケントは以前救出作戦で裏口から潜入によって成功させた事からか、アジューリアの作戦に賛成した。ところが…
「我は正面から強硬突破こそが吉と考える!そのようなこそこそしたやり方では戦士として胸を張れぬ!」
異を唱えたのはムスタンだった。
「ムスタン…、あなた本気で言ってるの!?いくら歴戦の戦士のあなたでもそれは無謀よ!カムイじゃないんだから!」
アジューリアもムスタンの考えに異を唱えた。カムイは人と違い死の概念がなく、死に相当するダメージを受けると大破する形で化身が解けるだけで、戦闘終了後は再化身が可能だが、カムクリは修復等の措置が必要になる。
「我は風の加護を強く受けておる。しかと目に焼き付けよ!」
ムスタンはアジューリアの制止を振り切って門に向かって走って行った。そして、ムスタンは身体を緑色に光らせながらジャンプした。
「ELアーツ!ハヤテぇぇぇぇぇ、バスタァーーーー、キィィィィィック!!」
ムスタンは前足を地面に着ける一方、雄たけびを上げながらデクードの蹄をつけた後ろ足で渾身の蹴り『ハヤテバスターキック』をヒッタイトの扉に放った。扉は四つ葉のクローバーの形の閃光と同時に吹き飛ばされ、あまりの勢いに味方の救出部隊も唖然とした。
「皆、さっさとムスタンに続いて突入するわよ!!」
「はっ、隊長!」
唖然呆然としている兵士達を一喝するアジューリア。アジューリア隊はいよいよ砦に突入。ケントもそれに乗じて突入した。
一方、砦の牢獄では…。
「父さん…、母さん…、僕…、帰りたいよ…。」
「何でこんな所に閉じ込められなきゃいけないの…?」
「僕達…、これからどうなるの…?」
「死ぬのは…、いやだよ…。」
BBB団に連れ去られたレスティーンの人達が喘いでいた。
「皆…、僕だってつらいんだ!そんな時は笑おう…!…って…、やっぱり笑えないよね…。」
皆を励まそうとしたレスティーンもやはり絶望に打ちひしがれていた。その瞬間、牢の外で騒ぎの音がした。
「何だ!?何が起きてるんだ!?」
囚われたレスティーンも驚いていた。果たしてレスティーン達は無事に親元に戻れるのか?




